日本で人気の高い冬のスポーツのひとつといえば、間違いなくフィギュアスケートが挙げられる。
伊藤みどりさんをはじめ、浅田真央さん、荒川静香さん、そして羽生結弦さんなど、歴代の選手たちの活躍によって日本のファンの多くがシングル種目の知識を深めてフィギュアスケート観戦を楽しんできた。近年では2023年の世界選手権で優勝した三浦璃来(りく)や木原龍一の活躍を受けて、ペア種目が学校や職場、あるいは家庭で話題となることがあるだろう。しかし話の内容が、「ペア」と「アイスダンス」の違いに及ぶと、「はて?」と首を傾げてしまうのではないだろうか。
男女が1組になって氷上を舞うこの類似した2種目には、歴とした違いがある。今回は、ミラノ・コルティナ2026冬季オリンピックで繰り広げられるアスリートたちの戦いをもっとワクワクしながら観戦できるよう、その違いに焦点を当てた。
フィギュアスケートのペアとアイスダンス、主な違いは?
衣装
まず初めに触れておきたいのは、それぞれの種目の競技内容だ。ペアは、シングルと同様、「ショートプラグラム(SP)」と「フリースケーティング(FS)」で構成される。一方のアイスダンスは、「リズムダンス」と「フリーダンス」の2種類から成る。
だが、「衣装」という視点で見てみると、区別をつけるのは難しい。ペアとアイスダンスの2種目の違いを明確にするため、女性スケーターの衣装をルールで規定していた過去がある。
たとえば、アイスダンスの女性選手は、スカートあるいはドレスを着用しなければならず、ペアの選手には認められているズボンの着用ができなかった。この規定は今では撤廃されており、アイスダンスの女性スケーターもズボンの着用が可能になったので、衣装だけでは、ペアスケーターかアイスダンサーかを判別することは難しい。
エレメンツ
これら2種目の最大の違いは、ジャンプだ。
アイスダンスのデュオは、めったにジャンプをしない。というのも、アイスダンスは、シングル(1回転)ジャンプやアシステッドジャンプを除いて、ジャンプをプログラムに組み込むことができない唯一のフィギュアスケート種目なのだ。他にも、スロージャンプ、ツイストリフト、オーバーヘッドリフトなど、アクロバティックなエレメンツ(要素)は、アイスダンスでは禁止されている。それだけではなく、アイスダンスでは、ふたりの選手が長い時間、距離をとった演技をすることが禁じられており、さらに伸ばした腕2本分以上に離れてもいけない。
一方ペアでは、距離をとったエレメンツをプログラムにどれだけ取り入れても、規程違反にはならない。
その他の要素でも違いはある。アイスダンスでは以下のエレメンツが重要となる。
- ツイズル(多回転の片足ターン)
- パターンダンス
- リフト
- スピン
- ステップシークエンス
- コレオグラフィック・エレメンツ
一方ペアでは、以下のような難度の高いエレメンツが要求される。
- ツイストリフト(男性スケーターが女性スケーターを頭上へ投げ上げるリフト、女性は男性に腰部分でキャッチされるまでに空中で3回転する)
- ペアリフト
- スロージャンプ(男性スケーターが女性スケーターのジャンプを補助するために空中へ投げ上げ、最後はアシストなしで着氷する)
- デススパイラル
- スピン
音楽
アイスダンスのプログラムは、バンクーバー2010までは現行の2種類ではなく、3種類(オリジナルダンス、フリーダンス、コンパルソリーダンス)で行われていた。
その翌シーズン(2010/2011)より、新しい競技フォーマットが導入され、2種類のプログラム(リズムダンス、フリーダンス)で実施されるようになった。
また、リズムダンス(2010年から2018年までは「ショートダンス」という名称を使用)では、ISU(国際スケート連盟)が毎シーズン特定のテーマを指定する。たとえば、2024/2025シーズンは「1950、60、70年代のソーシャルダンス」が必須要素に指定されている。
このように、ISUの必須要件に合わせて、アイスダンスの選手たちは、パターンと呼ばれる規定(コンパルソリー)のエレメンツをプログラムに組み込んで、シーズン毎に異なるダンスや、ステップシークエンス、スピンなどを演技しなければならない。
また、リズムダンスの音楽は、各チームによって選曲できるが、これもシーズン毎に要求されるテーマ、リズム、テンポに合わせたものでなければならない。
一方、ペアの選手たちは、SP・FSともに、自分たちのプログラム構成に合わせて、音楽を選ぶことができる。
オリンピックの歴史
ペア種目は、男女シングルとともに、ロンドン1908から実施されているが、アイスダンスは、インスブルック1976から正式採用されており、他3種目と比べて歴史が浅い。また、ペア種目は長いオリンピックの歴史を経ながら、より「アクロバティック」なスポーツへと変貌していった。
活躍したメダリスト
カナダのテッサ・ヴァーチュとスコット・モイアのアイスダンスのデュオは、バンクーバー2010で金、ソチ2014で団体・個人でともに銀、平昌2018では団体・個人でともに金を獲得している。
また、ソビエト連邦(当時)代表のイリーナ・ロドニナは、3大会連続でオリンピック・ペアの金メダルを獲得した唯一の選手だ。