**平野歩夢**が、北京2022の雪上で、8年分の雪辱を果たした。
ソチ2014と平昌2018で2大会連続銀メダルに輝く平野は、昨夏の東京2020では、スケートボードの日本代表として出場。わずか半年しかない短い期間で、夏から冬のオリンピック、北京2022の舞台に標準を合わせて準備してきた。
新時代の幕開け
予選(2月9日)を勝ち抜いた上位12名のうち、平野は1位通過で、今日(2月11日)の決勝を迎える。各選手3回のラン(滑走)を行ない、その内のベストスコアでメダルが争われた。
1本目、平野はいきなり高難度のトリプルコーク1440をオリンピックで初成功させ、会場を沸かす。しかし、中盤で転倒してしまい、スコアは33.75に終わる。
2本目、再度トリプルコーク1440を含めた高いエアの演技を披露し、招待客だけの観客席から「おぉー」と大きな歓声がわき起こった。しかし、期待されたほど点数が伸びずに、92.50。暫定2位につけるも、納得の表情ではなかった。
そして、最終3本目のラン。アウトドアの会場でも緊張感がひしひしと伝わってくる青空の下、平野は再々度、武器となるトリプルコーク1440を冒頭にもってきた、2本目ランと同じルーティンを、華麗に、クリーンに、そして高さも追求した内容でダイナミックに決めた。
平野も納得の表情で、スコアを待つ。そして、96.00というハイスコアを叩き出し、ドラマティックな逆転優勝を成し遂げた。そして、3度目のオリンピックにして、悲願の金メダルをその掌中に収めた。
まさに、新王者が誕生した瞬間で、4回転などのビッグトリックが必要となる、ハーフパイプの新たな時代の幕開けを予感させる結末となった。
平野は、いつもと変わらない様子と穏やかな口調で、自身の快挙を振り返る。
「実感がまだあまりないんですけど、ひとつ言えることは、小さい頃から、4歳の時からスノーボードを始めて、その時からずっと夢にしてきた舞台で優勝するっていうのは、家族とか周りの人のからすごい大きいサポートを受けて、ずっと目標にしてきたひとつのタイトルなので」
「今日、ほんと、その夢がひとつ叶ったんだっていう、自分にとっては、かなり大きい日になったのかなと思っています」
「正直、2本目が終わった時点で、ちょっとイライラしてて。3本目は、その怒りというか、そういった気持ちがいい意味で出てて。2本目でやったことに高さを出して、クリーンにきれいに、完成度を高めていけば、文句ないんじゃないかなっていう。それが最後の最後で、決めれて良かったです」
「3本目にやったことも、かなり自分の中では難しいことで、練習以上に1番いいランが最後の最後にできたので、自分の滑りの中ではすごい納得できる内容で優勝できた。自分的には納得です」
平野は、人跡未踏の歩みにチャレンジしていた。そう、夏と冬の二足の ”ボード” のチャレンジだ。しかも、東京2020の1年延期により、その準備期間は、わずか半年となってしまった。しかし諦めることもなく、そして小さい頃からの目標の金メダルを獲得した。
「自分自身のチャレンジで突き進んできた4年間だったので、チャレンジ達成というか。そういう経験を含めて、短い期間でのオリンピックの挑戦だったんです。そこでやっぱりチャレンジしてきた自分の経験が生きてきたのは、大きいのかな。自分自身もチャレンジを通して強くなれたのかな」
今後については、「ゆっくり考えたい」と話しながらも、平野の冒険物語は、新時代でも続いていくようだ。
「(金メダル獲得は)短い期間で自分自身との戦いだったり、チャレンジがやっぱり大きかったので。これからはもっと自分の中で新しい道のりも含めて、チャレンジしていけるのかなっていう気持ちには、確実に繋がってるんじゃないのかなと思っています」
まずは、ゆっくり休養してもらい、冒険の続きは、またの機会に尋ねることとしよう。
兄と弟と #StrongerTogether
弟も負けていない。
同じく決勝に進出した歩夢の弟・**平野海祝**も大健闘した。
日本勢では最初の出番になった海祝は、1本目のランで初出場のオリンピック決勝とは思えない堂々としたパフォーマンスを見せ、75.50と暫定3位の成績となる。
2本目のランでは、大技を繰り広げるルーティンで圧倒させたのだが、最後のエアの着地で転倒してしまい、頭を抱えた。
最終ランでも、序盤で転倒してしまい、スコアを更新することはならず、最終9位に終わった。
海祝は納得した様子で、もう前を向いている。
「自分的にはすごく納得いってて。一目見てみんなから『やっぱすごいな』とか思ってもらえるエアを絶対にしてやるという意気込みで(決勝に)来て。自分が思っていた以上に、本番跳べたんで。すごく嬉しい気持ちです」
そして、兄・歩夢の快挙を心から祝福した。
「一番うれしかったですね。ずっと一緒にいて、ずっと一緒に見てたので。やっぱりすごくうれしい気持ちで、泣きそうになって感動しました」
弟として傍にいたからこそ見てきた、兄の計り知れない苦労と努力の姿も教えてくれた。
「兄ちゃんがメダル候補で、小さい頃から一緒にやってきて。(2大会連続の)銀メダル・銀メダルって、悔しい思いもたくさんしてきたと思うんです。やっぱ常に1番しか目指していない人なので」
「それから、(夏の)オリンピックでスケートボードでも出て、2年間で(スノボに)戻ってきて。スケートボード(の練習)も見てたんで。スケートボードも、すごく辛いって言ってたし、それでもスノーボードもこの2年か1年で戻ってきて」
「毎日一緒にいたんですけど、すごくストイックに毎日やってて。たぶん本人、すごく辛かったと思うんです」
そして、そんな兄の姿を見て、弟は一緒に強くなる。
「兄ちゃん金メダル取って、一番近くで見て、やっぱオリンピックってすごいとこなんだなって。自分もまだまだ頑張らないとなと思って。そして4年後でも8年後でも、ずっとスノーボードをやり続けて、いつか世界獲ってやるっていう、そういう気持ちがさらに上がった」
「1回休むとかじゃなく、もっと練習しなきゃっていう気持ちになりました」
ライバルだって #StrongerTogether
平昌2018の雪辱を狙っていた**戸塚優斗**は、思うように点数が伸びず、ベストスコア(2本目ラン)69.75で、最終10位となった。
「自分が1本目・2本目でクリーンに決められなかったのが、あの点数につながっていると思うし、(最終ランで)最後まで行けなかったのは、自分の弱さだったのかなって思います」
そして、共に戦い続ける平野の金メダルに「リスペクトしている」と答えた。
「あそこで決められるとこってすごいと思うので。自分も決めて勝てる選手にならなきゃなって思いました」
ローザンヌ2020冬季ユースオリンピックで金メダルに輝く**平野流佳**は、予選3位通過の強さを見せつけていたが、決勝では思うようなパフォーマンスができず、3本すべてのランで転倒してしまい、ベストスコア13.00(1本目ラン)で、最終12位に終わった。
「1本目コケちゃって、気持ちで負けちゃったのかなというのがあるので、コケちゃっても2本目立てるぐらいのメンタルをつけたいです」
19歳のホープもまた、平野歩夢の金メダルに刺激を受けたひとりだ。
「(最後のランで)あの滑りを自分ができるかと言われたら、まだまだできないなと思うので、そこに追いつけるようにもっと練習します」
舟が出る
昨日(2月11日)の女子ハーフパイプ決勝でも、**冨田せな**が銅メダルに輝き、同種目女子で初のメダルを日本へもたらした。
同じく決勝に進出していた、**冨田るき**も5位入賞と大健闘している。
きっと、日本のスノーボーダーたちは、男女ともに、4年後のミラノ・コルティナ2026に向けて、世界のハーフパイプを席巻するのではなかろうか。
さぁ、新時代の幕開けだ。
舟が出る。
乗り遅れないように、しなければ。