夏の終りから冬支度・永遠の輝きを求めるフィギュアスケーター

フィギュアスケートのジュニア選手たちが、世界で輝きを放っている。吉岡希、中村俊介、島田麻央、吉田陽菜、來田奈央/森田真沙也など、始まったばかりの今季国際大会でメダルを獲得。開催まで500日を切った冬季ユースオリンピック江原道2024など、未来に向かってともに成長する若きアスリートたちの足跡を辿る。

1 執筆者 Yukifumi Tanaka/田中幸文
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(2020 Getty Images)

2022年7月、東京。

夏の青空で灼熱の太陽がギラギラと照りつけていた頃、冬の世界的な日本代表アスリートが、ある決意表明を行った。

そう、羽生結弦のプロスケーターへの転向だ。

オリンピック男子シングル2連覇という快挙を成し遂げた、偉大なるフィギュアスケーターの去就について、ずっと世界が注目していた。決意表明の記者会見の場で、羽生は今後、プロスケーターとして新たなフィールドに挑戦していくことを発表。そして、その会見からわずか3週間足らずして、自身のYouTubeチャンネルを開設し、トレーニングの様子をライブ配信するなど、その輝きをリミットレスに放っている。

月日は流れ、秋の気配をだんだんと感じられるようになり、フィギュアスケートをこよなく愛する人たちにとってはきっと、「競技の氷上ではこの先、一体どんな冬物語が待っているのだろう」と、思い巡らせていることではないだろうか。

しかし、実のところ、10代を中心としたジュニアスケーターたちは、すでに世界を飛び回り、シーズン初戦の氷の感触を確かめているのだ。そう、羽生をはじめ、オリンピックという舞台で活躍してきた先輩スケーターたちにインスパイアを受けたネクストジェネレーションは、未来の目標に向かって、残暑の厳しい夏の終りから、冷たいアイスリンクの上で、その出来栄えをライバルたちと競い合っている。

本格的なウィンターシーズン到来の前に、そんな将来有望な日本のジュニアスケーターたちの姿を追いかけた。

#JGPFigure

冬のシーズンの訪れとともに、最初に注目するISU(国際スケート連盟)認定のフィギュアスケート国際大会といえば、「ISUグランプリシリーズ」だろう。毎年10月から11月にかけてシリーズ6大会が世界各地で行われ、獲得ポイントの上位6名(組)だけが、12月のファイナル大会に出場できる、注目度の高い大会だ。とくに、オリンピックシーズンにおいては、本大会の前哨戦としても位置付けられているため、オーディエンスはもちろんのこと、多くの人たちが、アスリートたちの美しくも激しい氷上バトルに、図らずも釘付けになってしまう。

そんなグランプリシリーズだが、実はジュニア世代に特化したグランプリシリーズも行われているのだ。それが「ISUジュニアGPシリーズ(以下:JGP Figure)」だ。シニアのグランプリシリーズと同様に、JGP Figureでも出場した競技会におけるベストスコアふたつの獲得ポイント合計でランキングが決まり、その上位6名(組)だけがファイナル大会への出場権を手にすることができる。さらに、JGP Figureは、例年8月から第1戦のスケジュールが組み込まれており、今季2022/2023シーズンでいうと、現時点(2022年9月7日)で全7のシリーズ大会のうち、なんと2大会がすでに終了しているのだ。そして、特筆すべきは、男女のシングルだけでなく、ペア、アイスダンスのオリンピックプログラムの4種目で、日本人選手がメダル獲得だけでなく、ランキング上位に名を連ねているのだ。

男女でワンツー独占中

改めての念押しになるが、今シーズンはまだ始まったばかりで、JGP Figureは残り5戦を控えていることから、順位の変動は大いにありうる。しかしながら、日本のジュニアスケーターたちが、国際大会の表彰台に上っていることは紛れもない事実だ。

男子シングルでは、第1戦(フランス・クールシュヴェル/8月24日〜27日)で、高校2年生の中村俊介が、JGP Figure初出場にして合計スコア219.65をマークし、堂々の初優勝を飾った。さらに、森本涼雅も同大会で3位に入り、日本勢2名が表彰台に並んだ。

さらに、第2戦(チェコ・オストラヴァ/8月31日〜9月3日)では、ショートプログラム(SP)2位の吉岡希が、フリースケーティング(FS)で2つの4回転ジャンプを成功させ、合計スコア219.68となり、逆転のJGP Figure初優勝を収めている。

これらの成績により、中村と吉岡には、それぞれJGP Figureの順位毎に付与される最高ポイントの15点を獲得。ふたりは同ポイントで、タイに並んでいることから、競技で得た合計得点(SPとFSの合算スコア)によって明確にランク付けされ、現時点で吉岡が1位、中村が2位となっている。そして、そのポイント差というのが、わずか0.03なのだ。また、森本は暫定6位に入っている。

女子シングルでは、第1戦に出場した吉田陽菜が、合計スコア203.52で、JGP Figure初優勝を飾っている。また、柴山歩も合計スコア188.39で2位に入り、日本勢が表彰台上位を独占した。

つづく第2戦では、現在中学2年生の島田麻央が、FSで3回転アクセルを決めるなど圧巻の演技を披露し、SPとFS両方でトップスコアをマークして、合計得点212.65で完全優勝を果たしている。また、櫛田育良も合計スコア177.02で、3位表彰台に上った。

以上の成績と、ファイナル大会に向けたポイントシステムに従って、優勝した吉田と島田にはそれぞれ15点が付与されており、合計スコアで上回っている島田が1位、吉田が2位となって、男子と同様に日本勢がワンツーを独占しているのだ。また、柴山が4位、櫛田が6位と続いている。

カップル競技も上位へ

近年、日本のフィギュア界では、シングルだけでなく、カップル競技の活躍にも目を見張るものがある。北京2022フィギュアスケートのペアで最終7位となり、日本代表ではオリンピック初入賞を果たした「りくりゅう」こと、三浦璃来/木原龍一の活躍は記憶に新しい。また、アイスダンスの日本代表争いで熾烈な戦いを繰り広げた、「チームココ」こと、小松原美里/小松原尊と、「かなだい」こと、村元哉中/髙橋大輔の2組による、氷上での息の合ったパフォーマンスを見て、日本のフィギュアスケートの新たな可能性を感じた人も多いはずだ。

そして、今シーズンのジュニア世代のカップル競技の活躍からも、その将来性に十分期待をすることができる。

JGP Figure第1戦のペア競技に出場した「はるすみ」こと、村上遥奈/森口澄士のふたりは、表彰台こそ逃したものの、4位入賞を果たし、現時点でランキングでも4位と、ファイナル大会行きのチケットが手に届く順位に位置している。

さらに、第2戦のアイスダンスに出場した「きだもり」こと、來田奈央/森田真沙也のふたりは、バンクーバー2010とソチ2014の2大会連続で、アイスダンス日本代表を務めたキャシー・リードより指導を受けており、JGP Figure初出場ながら堂々の3位銅メダルを獲得した。そして、ファイナル大会に関わるランキングでも、欧米代表選手に混じって暫定5位に入っている。

オリンピックをはじめ、世界の舞台を知り尽くしているコーチのリードにとっては、 "きだもり"ペアと共に初めて参加した国際大会だったようで、「期待以上の結果に、教え子たちが積んできた努力に、感謝の気持ちでいっぱいです。私自身も、もっとがんばります」と、ISUのインタビューで答えている。

“Grow Together, Shine Forever”

こうして見てみると、日本のフィギュアスケートには、今後の成長が楽しみな選手がたくさんいることを、ご理解いただけたことだろう。

まずは、シニアと同じ会場ならびに日程で開催されるJGP Figureファイナル大会(イタリア・トリノ/12月8日〜11日)に向けて、残りのシリーズ5戦を応援したい。2022/2023シーズンのJGP Figure競技日程は以下の通りで、直近の第3戦は今週末(9月7日〜10日)にラトビア・リガにて開催される。

  • 第1戦 8月24日〜27日 フランス・クールシュヴェル ※終了
  • 第2戦 8月31日〜9月1日 チェコ・オストラヴァ ※終了
  • 第3戦 9月7日〜10日 ラトビア・リガ
  • 第4戦 9月21日〜24日 アルメニア・エレバン
  • 第5戦 9月28日〜10月1日 ポーランド・グダニスク
  • 第6戦 10月5日〜8日 ポーランド・グダニスク
  • 第7戦 10月12日〜15日 イタリア・エーニャ=ノイマルクト
  • ファイナル 12月8日〜11日 イタリア・トリノ

また、JGP Figureは全て、ISUのYouTubeチャンネル「ISU Junior Grand Prix」にてライブ配信される予定なので、こちらも併せてチェックしたい。

さらに、翌シーズンに当たる2024年1月には、ジュニア世代だけが出場できる冬季ユースオリンピック江原道2024(大韓民国)の開幕も控えている。スイスで開催された前回大会のローザンヌ2020フィギュアスケートでは、男子シングルで鍵山優真が金メダルに輝き、北京2022では堂々の銀メダルを獲得した。さらに、女子シングルでもローザンヌ2020日本代表の河辺愛菜が、北京2022でも代表に選出されている。まさに、ジュニアアスリートとってユースオリンピックは、一生に一度しか出場することのできない憧れの大会であるのだ。

江原道2024のスローガンは、“Grow Together, Shine Forever”。日本語に直訳すると、「ともに成長し、とわ(永遠)に輝く」だ。

インスパイアを受けた先輩スケーターたちの足跡を辿るように、ジュニアアスリートたちは、今まさに、仲間とともに成長し、夢に向かって走り続けている。そして、その姿はきっと、永遠に輝き続けることだろう。

江原道2024の開幕まで、ちょうど500日を切った。

寒い季節で忙しくなりそうだ。さぁ、冬支度を急ごう。

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