北京2022冬季オリンピック・フリースタイルスキー日本代表では、男子モーグルの堀島行真が銅メダルを獲得。ここでは北京2022フリースタイルスキー日本代表選手の活躍を振り返る。
男子モーグル:堀島行真が日本勢の初のメダル獲得
予選から決勝まで、決して簡単な道のりではなかった。予選1回目での通過はならなかったが、5本のランの果てに表彰台までたどり着いた。苦境をアグレッシブに切り抜け、堀島行真が銅メダルをその手につかみとった。
今シーズンのFIS(国際スキー連盟)ワールドカップ(W杯)開催9大会の全てで表彰台に上り、W杯ランク2位につける堀島は優勝候補の1人に名を挙げられていた。ところが予選1回目、第2エアの着地が乱れた。とてつもなく大きく飛びすぎたせいで、着地点はちょうどコブの上。尻が大きく沈み、あわや転倒寸前だった。出走30人のうち上位10人が直接本戦へと駒を進めたが、堀島はまさかの16位に沈む。
予選2回目、つまり敗者復活戦で堀島が第1エアを飛んだまさにその時、激しい突風が吹きつけた。空中でバランスを保つのに苦心したのはもちろん、身体ごと風に押され、着地時の滑走ラインはわずかにずれた。ただ、持ち前の高い技術力ですぐにミスを修正。予選2回目は5位に入り、全体の15位でなんとか本戦へとたどり着く。
20人が出揃った決勝1回目で、堀島はずれた歯車をうまく元に戻した。やはり着地がパーフェクトではなかったが、モーグル得点の全体の60%を占めるターンで、普段どおりに高い評価を得た。小さなガッツポーズも飛び出し、5番目の得点で決勝2回目へと進む。2回目でも、持ち前の高いターン技術が光り、48.6点と最高得点をマーク。丁寧にターンを刻んだからこそ、逆にスピードはかなり抑えめでもあった。
世界最高峰の6人だけに許された決勝3回目の舞台は、文字通りスーパーランの連続。誰もがターンやエアの完成度を上げ、次々と高得点を叩き出した。ただ、堀島に限っては状況は異なる。第1エアの着地後の姿勢がやや乱れ、ターンは47.4点と6人中最下位タイ。しかし堀島はタイムでの高得点を目指し、第2エアまでほぼ直線的に落ちていく。当然スピードは凄まじく上がった。ここまでの自身4ランの平均タイムは25.45秒だったが、決勝の堀島は、23.86秒で急坂を駆け下りた。高速ランを信条とする金メダリスト、バルター・バルベリ(スウェーデン)よりわずかに0.16秒遅いだけのタイムで、16.54点の高得点をもぎ取った。
そんなとてつもないハイスピードで突っ込んでいきながら、第2エアは見事に制御された飛躍を披露した。第2エアだけならバルベリと並ぶ首位の評価。両エア合わせて17.54点を得ると、トータル81.48点で、堀島行真は3位に飛び込んだ。4年前も優勝候補の一角に上げられながらも、転倒で11位に泣いた堀島は、ついに自身にとって初めての銅メダルに輝いた。日本男子モーグルとしては2大会連続のメダル獲得で、日本代表団にとっては、北京2022メダル第1号でもあった。
平昌の銅メダリスト原大智と、27歳のオリンピック初チャレンジ杉本幸祐は、予選1回目、決勝1回目を高い順位で勝ち抜いた。ただ、決勝2回目で原はエアの点数が伸びず、また杉本は右ストックが損壊し、いずれも決勝3回目進出はならず。それぞれ7位と9位で戦いを終えた。松田颯は23位で予選敗退だった。
女子モーグル:川村あんり、メダル獲得ならず
計画になかったエアをとっさに決める冷静さで、17歳川村あんりは本戦出場権をさらいとった。女子モーグルでW杯ランキング首位を意味する、ビブナンバー「1」の重圧にも負けなかった。持ち味の丁寧なターンは、オリンピックでも高く評価を受ける。予選1回目では第1エアのミスからの、第2エアの急遽変更が得点に響いた代わりに、最も配点の高いターンで、60点満点中49.8点。決勝1回目は20人中2位、決勝2回目は12人中3位で、川村は文句なしの決勝3回目進出を決めた。
しかし…。肝心の決勝3回目で再びエアにミスが出た。第2エア着地で重心が後方に傾き、スキーが大きく割れた。金メダリストのジャカラ・アンソニー(オーストラリア)が誰よりも難度の高いエアで18.13点と高得点を叩き出したが、川村のエア14.37点は、決勝進出6人の中で最も低い点だった。着地のミスはターン点にも響いた。46.3点と、自身のオリンピック全4ランで最も低い得点に終わった。また、銀メダルのジェーリン・カウフ(米国)が26.37秒とスピードあるランを見せたのに対し、川村は28秒。16.45点と伸びなかった。合計77.12点で、最終結果は5位だった。銅メダルのアナスタシア・スミルノワ(ROC)との差は、たったの0.6点。17歳川村あんりのオリンピック初挑戦は、悔し涙で幕を閉じた。
日本から参加の4選手は川村を含め、全4選手が本戦進出を勝ち取った。13位星野純子、15位住吉輝紗良、19位冨高日向子は決勝1回目で敗退したが、日本女子モーグル全体のレベルの高さを証明した。
男子スキークロス:須貝龍、指先の差で1回戦敗退
単独での滑走によるタイム計測が行われるシード決定戦で、須貝龍は出走32人の中で3番目のタイムを叩き出した。細かく連なるウェーブや急勾配のバンクを正確なラインで攻め、ジャンプの軌道を上手く制御し、スキーヤーとしての高い技術力を証明。首位から0.35秒遅れの1分12秒29でフィニッシュし、本戦への期待は大きく高まった。
本戦の1回戦、4人で着順を争う勝負で須貝はスタートダッシュに失敗。ウェーブでほんの軽いミスを犯し、以降、3番手でレースをこなすことになる。その後の須貝は積極的な滑りを見せた。前に上がろうとコーナー内を幾度も突いた。最後のジャンプ台でついに2番手トリスタン・タカツ(オーストリア)と並び、そして競り合いながらラインへと飛び込んだ。両者ともに片手を前に長く突き出してのフィニッシュは、写真判定にもつれ込んだ。身体の一部が先にラインを越えていたのは、残念ながらタカツの方だった。わずか1cm、手指の関節1つ分、須貝は届かなかった。グループ3位で敗退し、全体では17位だった。また、古野慧は1回戦のスタート直後に転倒。26位で大会を終えた。
女子ハーフパイプ:鈴木沙織、2度目のオリンピックでリベンジならず
平昌オリンピックを予選敗退14位で終えた鈴木沙織は、2度目の大舞台でリベンジを果たせなかった。予選1本目は手堅くまとめた。得点は68.75点で、14位につけた。ただし、決勝に進出できるのは上位12位まで。だからこそ2本目は得点アップを狙い、鈴木はアグレッシブにスタートを切った。1つ目のトリックは、高く飛んだ。しかし、2つ目のトリック後の着地でミスがあった。スピードを失いながらも、最後までルーティーンをつなげたが、得点は66.25と伸びなかった。最終的に鈴木は15位で終え、決勝で滑る夢は叶わなかった。予選を圧倒的な得点で抜け出した谷愛凌(中華人民共和国)が、決勝でも悠々とトップスコアを記録。ビッグエア金、スロープスタイル銀に続く今大会3つ目のメダルを獲得した。
そのビッグエアとスロープスタイルには、日本の近藤心音も出場予定だったが、オリンピック会場での公式練習中に負傷。右膝前十字靭帯および半月板の損傷と診断され、両種目を欠場した。