2018年3月11日、マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)出場権の懸かる名古屋ウィメンズマラソンで、日本人トップとなったのは、初マラソンの関根花観だった。関根は1万メートル走の日本代表としてリオデジャネイロ五輪に出場、20位という成績を残している。大舞台を経験済みとはいえ、ハーフマラソンの経験すらない“新人”が、2時間23分07秒という初マラソン日本歴代4位の好タイムで3位入賞。東京五輪選考レースとなるMGCのファイナリストになったというニュースは、多くのマラソンファンの間で、ニューヒロインの誕生を予感させるのに十分だった。
東京、宮城、愛知、目まぐるしい環境の変化に対応
関根花観は1996年2月26日、東京都町田市生まれ。金井小学校から金井中学校に進学し、当初はソフトテニス部に入部するも、“助っ人”として陸上部の大会に参加したことが、競技を始めるキッカケとなった。2年生から陸上一本に絞ると、3年生で全日本中学校陸上競技選手権大会に出場。1500メートル走決勝に残ったが、15人中14位という成績だった。それでも、2011年1月の第29回皇后盃全国都道府県対抗女子駅伝競走大会に、福士加代子らとともに東京代表として出場、3区で区間賞を獲得するなど、注目を集める。
その後、宮城県仙台育英高等学校に進学。2011年12月の全国高等学校駅伝競走大会は、1年生ながら2区のランナーで出場。区間8位となり、チームの3位入賞に貢献する。しかし、東日本大震災の影響から、ほかの選手とともに愛知県の豊川高等学校に転校することになり、2年生のときは、ルールにより全国高等学校総合体育大会(インターハイ)に出場できず、高校3年間はインターハイと無縁に終わった。
全国高校駅伝には、豊川高校代表として2回出場している。2年生のときは4区で区間賞を獲得。チームは連覇とならなかったが、2位という成績を残す。3年生のときは1区を走り、区間3位。チームの優勝に貢献した。2014年の第32回皇后盃では、愛知県代表として6区を任され、区間賞を獲得。チームも前年を上回る4位と好成績を収めた。
2014年、高校を卒業した関根は、日本郵便に入社。4月1日創部の「日本郵政グループ女子陸上部」に所属し、1年目は12レースに出場する。6月に台湾の台北で行われた第16回アジアジュニア陸上競技選手権大会の3000メートル走に出場、銀メダルを獲得。11月の第30回東日本女子駅伝では、東京代表の1区を任されて区間賞に輝いた。2015年には1区を走って、またもや区間賞。同年12月の第35回全日本実業団対抗女子駅伝競走大会(クイーンズ駅伝)は5区を任されて、区間2位と健闘を見せた。
リオ五輪1万メートルは不完全燃焼に終わるも、マラソンで鮮烈デビュー
オリンピックイヤーとなった2016年、1月の第34回皇后盃で、東京代表の最終9区を任されて区間賞を獲得。そして、リオデジャネイロ五輪代表の選考会を兼ねた6月の第100回日本陸上競技選手権大会を迎える。5000メートル走は15分24秒74で3位に終わったものの、1万メートル走は31分22秒92で2位。1位となった日本郵政Gの同僚・鈴木亜由子とともに、派遣設定記録を突破して、1万メートル走の日本代表に選出された。
関根にとって初めての五輪は、残念ながら不完全燃焼のままに終わった。左足の違和感で鈴木が1万メートル走を欠場。関根は高島由香と二人で挑んだが、レースは序盤からハイペースとなり、二人とも徐々に遅れる苦しい展開となる。エチオピアのアルマズ・アヤナが、世界新記録となる29分17秒45で金メダルを獲得。高島は18位、関根は31分44秒44で20位に終わった。
リオデジャネイロ五輪前から関根は、「東京五輪はマラソンでの出場を目指す」と公言していた。五輪終了後からハーフマラソンなどに挑戦していた。本人は2017年8月にロンドンで開催される世界陸上競技選手権大会のトラック競技に出場し、満足な結果を残してから、マラソンに転向するという青写真を描いていたようだ。しかし、世界陸上の代表選考会となる日本陸上競技選手権では、思うような結果が残せなかった。5000メートル走は15分54秒94で19位。1万メートル走は32分23秒83で6位に入賞したが、「世界陸上」行きは逃してしまった。
関根がマラソンに向けて本格的な準備に入ったのは、2017年11月のクイーンズ駅伝後だ。クイーンズ駅伝は5区10キロを任されて区間5位。タイムも33分37秒と、彼女の本調子と言えるようなものではなかったが、それでも2018年1月の第36回皇后盃で9区10キロを任された関根は、区間8位ながら32分09秒と、復調を感じさせる走りを見せる。そして、いよいよ3月の名古屋ウィメンズマラソンを迎え、初マラソンで華々しいデビューを飾ることとなった。
初マラソンで見せた力強さ。課題はレース経験
東京五輪の代表選考レースとなるMGCへの出場権を獲得した関根花観だが、マラソン経験は、名古屋での初マラソン一度のみだ。2018〜2019年のマラソンシーズンで、どれだけの経験が積めるかが、成長の大きなカギとなる。2018年11月時点で、関根のほかに、前田穂南、松田瑞生、安藤友香、岩出玲亜、野上恵子、鈴木亜由子、小原怜がMGCファイナリストの資格を得ている。こうしたライバルたちを制するためにも、トラック競技で得たスピードだけでなく、レースで絶対に負けないという勝負勘を養いたいところだろう。関根が出場する試合から目が離せない。