激流での漕艇テクニックが見もののカヌー・スラローム、リオ五輪・銅の羽根田卓也が東京でもメダル候補に

日本の開催国枠は4種目それぞれ1枠確定

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パドルを漕ぐだけでなく、ゲートを通り抜けるテクニックが見どころ(リオ五輪カヤック金メダルのジョセフ・クラーク)

古代から移動手段や狩りの道具として発達してきたカヌー。近代オリンピックでは、大きく分けて2種目が採用されており、中でも「スラローム」は、カヌー競技の“動”の面を象徴するエキサイティングな種目だ。

激流に人の力で抗い、乗りこなすスラローム

19世紀のイギリスで近代競技化されたカヌーには、大きく分けて「スラローム」と「スプリント」がある。前者の「スラローム」は、急流の川をコースとし、小舟をパドルで漕いでゲートを抜ける競技だ。夏季五輪には、1972年のミュンヘン大会で初めて採用された。

競技は1艇ずつ行われる。コース(約200~400m)上には2本のポールでできたゲートが多数(約20)吊るされ、各ゲートに対して指定された順番、さらに指定された方向から通過しなければならず、不通過となると50秒のペナルティ。ゲートに接触した場合にも2秒のペナルティが課され、最終的なフィニッシュタイムで順位が決まる。

レースは人が立っていられないほどの急流で行われることから、船をコントロールするバランス能力と上半身の筋力、ポールをかわすなど状況に対する判断力と敏捷性が求められる。

本来は急流の河川が舞台となるスラロームだが、近年の五輪では会場移動面やフェアな競技進行のために人工コースで行われる。東京五輪でも葛西臨海公園に新設される国内初の人工コース『カヌー・スラロームセンター』が会場となる。

パドルの違いで大きく性格が変わるスラローム

スラロームはさらにパドルの種類によって種目が分かれる。両端にブレード(水かき)がついたパドルで漕ぐ種目の総称を「カヤック」と呼ぶ。一方、片側のブレードしかないパドルでの種目の総称が「カナディアン」だ。東京五輪では、女子のカナディアンが初採用され、男子女子それぞれシングルで計4種目が行われる。

カヤックは、ダブルブレードパドルによる推力の大きさから、ダイナミックな動きやスピードが見ものだ。カナディアンは、シングルブレードゆえに細かなパドリングなど、よりテクニカルで、舟をコントロールするスキルなど見どころは多い。

東京五輪日本代表はポイント制で選出

リオ五輪までの日本代表は、世界選手権で日本の出場枠を獲得した選手がそのまま代表に指名されていた。しかし、東京五輪ではスラロームの全種目1枠ずつの開催国枠が確保されていることもあり、安定して実力を発揮できる選手を代表とすべく、ポイント制で総合的な実力を測る方針に転換した。

2019年のワールドカップ第2戦、第3戦、9月の世界選手権のうち2大会の成績、さらに、10月末の最終選考会となるNHK杯での計3大会分の成績をポイント化。総得点最上位者が日本代表となる。

カヤックはドイツ、カナディアンはフランス

カヌー・スラロームは、1972年のミュンヘン大会後で一度だけ採用されたあと、1992年のバルセロナ五輪で20年ぶりに復活し、以降、毎大会行われている。

ボート競技同様に欧州が強く、男子カヤックではドイツが4回、男子カナディアンはフランスが4回制覇。2016年のリオ五輪では、イギリスのジョー・クラークが金メダルを獲得したが、10位中8人が欧州勢となっている。

女子カヤックは、カヌー王国といえるチェコとスロバキアが長年に渡って上位に君臨しているものの、近年ではオセアニア勢が記録を伸ばしており、リオ五輪では2位にニュージーランドのルーカ・ジョーンズ、3位にオーストラリアのジェシカ・フォックスが入った。

リオ五輪の銅メダリスト羽根田卓也に再び期待

カヌー日本代表は長らく五輪でメダルに近づけなかったが、羽根田卓也がリオ五輪・スラローム男子カナディアンシングルで、ついに日本人初となる銅メダルを獲得した。東京五輪でも同種目の代表候補筆頭といえる。

男子カヤックでは、2018年アジア大会銀メダルの足立和也が有力候補だが、善光寺の現役僧侶にして、ロンドン五輪9位の矢澤一輝も候補のひとりだ。初出場の北京五輪以降、徐々に最終順位を上げており、表彰台入りが実現するかもしれない。

その矢澤一輝の妹である矢澤亜希も女子カヤックでの代表入りが期待できる。

また、東京五輪から追加となる女子カナディアンシングルでは、矢澤亜希とともに、八木愛莉が有力候補とされる。2015年からスロバキアに拠点を移し、2018年はチェコやオーストラリアでも合宿を重ねていた。その成果を代表選考レースで発揮してくれるだろう。

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