植草歩:金メダルへ視界良好。挑戦を続ける「空手界のきゃりーぱみゅぱみゅ」

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「空手界のきゃりーぱみゅぱみゅ」と呼ばれる植草(左)/AFP=時事

2020年東京五輪から正式種目として追加された「空手」。伝統派空手の世界で、実力はもとより、そのキュートなルックスと明るいキャラクターから、「空手界のきゃりーぱみゅぱみゅ」と呼ばれ、高い注目を集めている選手がいる。それが植草歩だ。植草は2018年の年間女王であり、世界ランキングも堂々の1位。植草に今、求められているのは、東京五輪の空手競技のアイコン役のみならず、五輪空手競技68kg級初代女王の称号だろう。

全日本選手権で史上初4連覇

東京五輪から正式種目となった空手は2種目に大別される。ひとつは基本的な技の演舞で優劣を競う「形」と呼ばれるもの。そして、もうひとつは対人競技で、蹴り、突き、投げを行う「組手」。植草が出場する競技は組手だ。

身長168cmから繰り出される突きや蹴りなどの「寸止め」と、大胆な「投げ技」「中段突き」を得意とする。世界女王として警戒されていることから、間合いの強化にも励んでいる。得意技を生かすために「心技体」の強化に努めている。

2018年12月、植草は全日本選手権68kg級で優勝、史上初の4連覇を達成した。全5試合で相手に得点を許さない、完璧な試合運びでの優勝に「自分を褒めてあげたい」と胸を張った。その直前の11月にマドリードで行われた世界選手権決勝で、植草はギリシャのエレニに0-3で破れ、2連覇を逃し、銀メダルに終わっていた。肩を落とした植草だったが、全日本選手権までの短い期間に、世界選手権決勝の映像を繰り返し見ることで敗因を確認。「雑になっていた」というカウンターを、しっかりと微調整し、全日本選手権の優勝を勝ち取った。世界選手権の教訓を生かせたことも、史上初の4連覇につながったようだ。

2018年年間女王の植草が、世界中の選手からマークされることは必至だ。そんな状況において、どのように世界の強豪たちに立ち向かうかが、メダル獲得の大事な鍵となるだろう。

格闘家の選手が多かった母親の家系

1992年7月25日、千葉県八街市生まれ。現在、空手女子68kg級世界ランキング1位。稽古が厳しいことで有名な松涛館流の日本空手松涛連盟に所属している。2020年東京五輪で初めて正式競技に採用された空手の普及に努めるJAL(日本航空)に所属しながら、大手芸能事務所ホリプロ社員という植草。空手競技の選手としてJALのサポートを受け、さらに勤務先のホリプロから収入を得ながら、空手に打ち込む日々を送っている。


類まれな空手センスは母親の家系から

植草は小学3年生のときに「剛柔流の国際勝正館八街道場」で空手を始めた。わずか2年後の小学5年生で出場した全日本少年少女大会で、3位入賞を果たす。小学生の頃から群を抜いた運動神経の持ち主で、鍛えられた足腰は、中学生のときに、空手と陸上のかけもちしていたことが影響しているのだろう。運動神経の良さは「格闘家の選手が多かった母親の家系譲り」と植草本人は話している。

小学生のころの師範は、日頃の稽古の中で「正座が綺麗」「突きが上手」と褒めて伸ばすスタイル。常に挑戦し続ける植草の原点は、伸び伸びとした指導方法にあったのかもしれない。高校からは空手で日本一を目指すという思いで、空手1本に絞り、空手の強豪高校でもある柏日体高等学校に進学。全国高校総体女子個人3位、国体優勝という成績をおさめている。

屈辱と挫折から生まれた真の強さ

運動神経とセンスの良さを武器に、高校生まで順調に成長した植草だったが、大学進学と同時に、これまでに経験したことのないような屈辱と挫折を味わうこととなった。

特待選手として帝京大学に進学した植草は、前人未到の4種目制覇を達成した指導力を持つ、帝京大学空手部師範の香川政夫氏のもとで、厳しい練習に明け暮れる。「日本一」「世界一」を目指している帝京大学の選手たちの練習量や質と、練習にもついていけない自分との間にギャップを感じ、一時は退部を考えたほどだったそうだ。そこから部員仲間のサポートもあり復活。その後、2011年の学生選手権で準優勝。2012年、東アジア選手権優勝と勝利を積み重ね、2014年の世界学生選手権で優勝したほか、世界選手権とアジア競技大会で3位に輝いた。帝京大学時代の屈辱と挫折が、真の強さを得るきっかけとなり、植草を世界に通用する選手へと成長させたのだ。


世界選手権の連覇を阻んだエレニにリベンジなるか

現在、植草は世界ランキング1位。2018年は、8月のアジア競技大会で20年ぶりとなる金メダルを獲得、11月の世界選手権は決勝で敗れて2位。12月の全日本選手権は68kg級で史上初の4連覇で優勝という成績を残している。

2018年8月のアジア競技大会の準決勝で対戦し、勝利を収めた武道大国イランのハミデ選手は、植草の強力なライバルになるだろう。180cmという身長の高さから繰り出される蹴りには注意が必要だ。また、ギリシャのエレニ選手は、2018年世界選手権決勝で敗れた相手。是が非でもリベンジしたい相手だ。しかし、東京五輪に向けて、各国選手も技の強化やライバルの研究に努めるだろう。植草がメダルを獲得するためには、それを上回る努力と成長が不可欠だ。

植草は大学卒業と同時に現役引退を考えていたそうだ。しかし、2020年東京五輪の正式種目に空手が決まったことから、現役続行を決め、そして今、金メダルを目指している。植草は「東京五輪で金メダルを取ったら普通の女の子に戻ります」と宣言している。もしかすると、これが最初で最後のオリンピック挑戦なのかもしれない。その分、金メダル獲得に向けた意気込みも大きいはずだ。世界女王の植草は、果たして東京五輪で有終の美を飾ることができるのか。世界中の注目が集まっている。

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