五十嵐カノア:世界を舞台に戦う若き天才サーファーは、日本人として東京五輪に思いを馳せる

カリフォルニア育ちの五十嵐カノアは、3歳のとき有名なハンティントンビーチでサーフィンを体験。6歳にして大会を制した波の申し子だ

ビッグウェーブに乗る姿が印象的な金融機関が発行するカードのCMで、国内の知名度を上げつつある五十嵐カノア。日本人を両親に持ち、アメリカで育った五十嵐は、日本とアメリカの二重国籍を持ちながら、日本人であることにこだわり、日本代表としての東京五輪出場を目指している。3歳のときからサーフィン先進国で腕を磨き、あまたの大会で優勝を重ねてきた五十嵐は、誰もが認める五輪の日本代表最有力候補だ。

 2019年CT開幕戦では8強逃す

2019年4月、オーストラリアのゴールドコーストで行われたサーフィンの男子チャンピオンシップ・ツアー(CT)の開幕戦。CTサーファー4年目を迎える五十嵐は、初戦をセバスチャン・ジーツ(ハワイ)とデイヴィッド・シルヴァと対戦して1位で通過。好調なスタートを切って、さっそく話題をかっさらった。3回戦(初戦1位通過の場合は3回戦に進出)も、ジェシー・メンデス(ブラジル)に快勝。しかし、続く4回戦でコナー・コフィン(アメリカ)に惜敗し、準々決勝に進めずに9位でフィニッシュ。結局、8強入りを逃してしまった。

CTはサーフィンで世界最高峰の大会。12月までに合計11戦が行われて、年間ランキング上位10人が東京五輪の出場権を獲得するだけに、五十嵐にとっては課題を残す結果となった。

サーファーの両親からアメリカで英才教育を受ける

五十嵐は1997年10月1日、アメリカ・カリフォルニア州生まれ。アメリカと日本の二重国籍だが、東京五輪は日本人としての出場を目指しているという。ワールドチャンピオンシップでの背番号は、名前の五十嵐から「50」をチョイスするなど、自分の中にある「日本」を背負って挑んでいる姿勢がうかがえる。

父親が波に乗る姿を毎日眺めて育ち、3歳の誕生日にカリフォルニアのハンティントンビーチで初めてのサーフィンを体験。その日のうちにボードの上に立つことができたという。6歳のときに子ども向けのローカル大会に初出場し、初優勝するなど、幼くして才能を開花させている。

まさに「波の申し子」

2009年、NSSA(National Scholastic Surfing Association)主催の大会で、当時の記録である年間最多優勝記録の20勝を上回る30勝を出し、大会記録を更新するという金字塔を打ち立てた。 

2010年、12歳にしてNSSA全米ナショナルチャンピオンを獲得。NSSAミドルスクール(ボーイズ)クラス、NSSAエクスプローラー(ボーイズ)クラス全米チャンピオンとなり三冠王を達成した。2012年にはUSAチャンピオンシップU-18 に14歳で最年少優勝した。

その後もさまざまな国際大会で優勝を重ね、2016年、18歳のときに日本人として初めてWSLワールドチャンピオンシップツアーに参戦し、年間最終ランキング20位を獲得。初参戦の同ツアーで一回戦敗退は一度もなかった。2017年にはWSL Vans US Open of Surfingで優勝、2018年はWSL Qualifying Series 3000 - Pro Santa Cruz 2018でも優勝した。

2018年12月時点で、セカンドリーグとなるクオリファイングシリーズ(QS)ランキングで1位、世界最高峰のサーフィンレースであるWSLのチャンピオンシップツアー(CT)ランキングで10位となった。 

スピード感あふれるアグレッシブなスタイル

五十嵐が大事にしていることは、「自分のスタイル」だそうだ。サーフィンがほかのスポーツと違うのは、そのプレースタイルに正しいも、間違いもなく、好きなようにやって、やりたいことを表現することだろう。五十嵐が目指しているのは、スピード感があって、アグレッシブなスタイルだ。だから、パワーのある大きな波を好むという。そういうサーフィンは、自分自身で見ていても楽しいと話す。

ジムで鍛えた下半身と、波で鍛えた見事な上半身が持ち味の五十嵐が、もっとも影響を受けたのは、世界タイトル11回制し、史上最高のサーファーと称されるアメリカのケリー・スレーターだ。子どもの頃から動画で大会の様子をずっと見て、プレースタイルをインスパイアされてきただけでなく、ケリー選手のカットバックをまねしてきたという。

ネーミングはハワイ語由来

五十嵐家は、父、母、長男のカノア、次男のキアヌで、全員がサーファーだ。カノアという名前はハワイの言葉で「自由」を意味するという。キアヌも同じくハワイ語がルーツで、「山からの清々しい風」という意味だそうだ。日本には毎年帰国しており、祖父母がいつも温かく迎えてくれるという。また、祖父が眠る東京都調布市・深大寺も欠かさず訪れて、墓前で手を合わせている。

ライバルは大原、稲葉、村上の3選手

五十嵐は2018年6月、東京五輪のサーフィン会場で公開練習を行った際、日本国内のライバル選手を問われて、大原洋人、稲葉玲王、村上舜の3選手の名前を挙げた。

2015年に五十嵐が育ったアメリカ・カリフォルニア州ハンティントンビーチで行われたWQSイベント、Vans US Open of Surfingで、大原は18歳のときに日本人初優勝を果たした。その後も世界を転戦し、2017年6月にはQSランキング2位をマークした。

また、稲葉は2010年に、最年少プロサーファーとなった。2019年2月、ブラジルで行われた大会で5位となり、QSランキングを3位まで急上昇させた。

村上は2019年3月末に行われた「2019サーフィン合宿」で、東京五輪選考における重要イベント「ジャパンオープン」の選考会出場権を1位で獲得している。7位の稲葉、8位の大原を大きく引き離して、選考を1位通過する実力の持ち主なだけに、五十嵐のライバルとなり得る存在だろう。

どの選手も五十嵐にとって気の抜けない存在だ。

日本での存在感は大きい

アメリカ育ちながら、日本人としての意識を持ち続け、2020年の東京五輪に、日本代表として出場することを目指している五十嵐カノア。東京五輪を目指す選手が勢揃いした「2019年サーフィン強化合宿」には、冒頭のCT開幕戦が控えていたために不参加。ライバルになり得る日本人選手と切磋琢磨とはいかなかった。

しかし、来日して公開練習場に五十嵐が姿を現すと、報道陣が詰めかけ、テレビの情報番組で特集が組まれるなど、その存在感は非常に大きい。「東京五輪では金メダルを取るのが目標、日本の旗で勝ちたい」と語る五十嵐カノア。アメリカ仕込みのパワフルなサーフィンに大きな期待が集まっている。

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