オリンピック大会期間中は、野球のシーズン真っ最中。アメリカのメジャーリーグMLBは過去の大会にメジャーリーガーを派遣しておらず、2020年東京五輪でも参加を許可しない可能性が高い。多くの日本人選手がメジャーリーガーになることを夢見るなか、MLB側はどのような決断を下すのか。
メジャーリーガー出場には高いハードルが
「オリンピックは、僕の気持ちだけでどうの、というのはない」
2018年11月22日、日本記者クラブで行われた記者会見において、ロサンゼルス・エンゼルスでプレーする大谷翔平は2020年東京五輪への出場についてこののように語った。「日本で開催されるのですごく興味はあるし、出場したいと思うのは普通のこと」とも話しているので、彼自身に出場したい気持ちはあるのだろう。もちろん野球ファンからすれば、2020年東京五輪でマウンドに立つ大谷の姿を見てみたいはずだ。日本が金メダルを獲得するためには大谷の力が不可欠に思えるが、「僕の気持ちだけでは」という部分にその難しさが見て取れる。
夏季オリンピックが行われている時期、野球界はシーズンの真っ最中。選手の派遣にはさまざまなハードルがあるものの、日本プロ野球(以下NPB)はオリンピック期間中の7月22日から8月13日まではシーズンを中断させ、日本代表チームに全面協力する姿勢を見せている。
一方、メジャーリーグ(以下MLB)はシーズンと日程が重なることを理由に、過去の大会にもメジャー契約選手の派遣を認めてこなかった。それどころか2006年にワールド・ベースボール・クラシック(以下WBC)という大会を創設し、こちらを「野球世界一決定戦」と定めてメジャーリーガーの出場を許可している。「オリンピックはアマチュアスポーツの祭典」という考え方も、いまだにMLBには根強く残っているようだ。
前回、オリンピックで野球が行われたのは2008年北京五輪だが、この時のアメリカ代表チームはメンバー24人中23人がマイナー選手で、残る1人は大学生という編成だった。この大学生は2009年のMLBドラフトでワシントン・ナショナルズから全体1位で指名されたスティーブン・ストラスバーグであり、他のメンバーには2015年にナショナルリーグ最多勝に輝き、現在はフィラデルフィア・フィリーズでプレーするジェイク・アリエータや2018年末にエンゼルスに移籍して大谷の同僚になったトレバー・ケーヒルといった後のメジャーリーガーもいた。ただし、一方ですでに引退した選手、いまだマイナーリーグでプレーする選手もいる。
MLB挑戦か、2020年東京五輪出場か
MLBコミッショナーのロブ・マンフレッド氏は、2017年にMLB公式サイト上で「選手をオリンピックに派遣するためシーズンを中断するというのは考えにくい」と語っている。過去には国際野球連盟が国際オリンピック委員会に対し、オリンピックの準決勝以降でメジャーリーガーを出場させるという案を示したが、現状では実現の可能性は低いと言わざるを得ない。
メジャーリーガーの不参加が影響を受けるのはアメリカ代表だけではなく、日本代表も同様だ。現在、メジャー契約をしている日本人選手は、大谷の他にダルビッシュ有(シカゴ・カブス)、田中将大(ニューヨーク・ヤンキース)、平野佳寿(アリゾナ・ダイヤモンドバックス)、前田健太(ロサンゼルス・ドジャース)、そして菊池雄星(シアトル・マリナーズ)がいる。このうち平野は継投がリリーバーだが、他の5人は先発タイプで、もし日本代表に名を連ねれば、彼らだけで盤石の先発ローテーションを組むことができる。NPBの投手が実力で大きく劣っているわけではないが、日ごろからMLBを主戦場とし、多くの外国籍選手と対峙している彼らの経験値は国際大会では大きい。
また、NPBの選手のなかにもMLBをめざす選手は多い。今シーズン中に海外FA権を取得する予定の秋山翔吾(埼玉西武ライオンズ)はMLB挑戦の可能性を「ゼロではない」と語り、筒香嘉智(つつごう・よしとも/横浜DeNAベイスターズ)は契約更改の際に将来的なメジャー挑戦の意向を球団に伝えている。菊池涼介(広島カープ)や千賀滉大(福岡ソフトバンクホークス)はポスティング制度を利用してのメジャー移籍を球団側に直訴している。彼らが活躍の場をアメリカに移すようなことがあると、2020年東京五輪への出場は難しくなり、日本代表にとっては大きな痛手となる。
中南米諸国のチーム構成にも影響あり
アメリカや日本だけでなく、プエルトリコやドミニカ共和国、ベネズエラといった国や地域にとっても、メジャーリーガーの不参加は死活問題になり得る。
たとえばドミニカ共和国の場合、2017年のWBCにはロビンソン・カノ(現ニューヨーク・メッツ)やマニー・マチャド(現サンディエゴ・パドレス)、カルロス・サンタナ(現クリーブランド・インディアンス)、カルロス・マルティネス(現セントルイス・カージナルス)、デリン・ベタンセス(現ニューヨーク・ヤンキース)といったMLB各チームの主力級の選手がメンバー入りしているが、現状では2020年東京五輪には誰一人として出場できないことになる。
2017年のWBCで準優勝したプエルトリコの大黒柱であり、2018年12月に行われた日米野球でも注目を集めたMLB屈指の名捕手ヤディアー・モリーナ(現セントルイス・カージナルス)は2020年東京五輪に関して「出場したいと思っている」と意欲的だ。同時に「自分がプレーできるかどうかは本当にわからない」とも語っている。モリーナは東京五輪が行われる2020年限りでの現役引退を表明しているが、同年までMLBで活躍していれば、オリンピック出場の希望は叶わなくなる可能性が高い。
MLBコミッショナーのマンフレッド氏はオリンピックへのメジャーリーガー出場に難色を示しているが、2018年11月15日には「東京五輪が素晴らしい大会になるよう、可能な限りサポートすることを考えている」と発言。メジャーリーガーの出場に含みを持たせている。果たしてMLB側はどのような最終判断を下すのだろうか。