2020年東京五輪のロードレースのコースは東京の「武蔵野の森公園」をスタートし、神奈川と山梨を通過して、静岡の「富士スピードウェイ」がゴールとなる。起伏のとびきり厳しいコースだけに、登りが得意なクライマーたちがこぞって乗り込んでくる。もちろん、ツール・ド・フランスの総合争いに食い込むような、オールラウンダーの活躍も期待される。
やはりメダル争いに絡むのは、厳しい山岳を得意とする世界的クライマーや、急坂で爆発的な加速力を発揮するパンチャーと見られている。中でも2018年『ツール・ド・フランス』で起伏コースを2区間制し、山岳賞を勝ち取ったフランスのジュリアン・アラフィリップと、近年稀に見る急坂コースの2018年世界選手権を制したアレハンドロ・バルベルデが、金メダルの2大有力候補に名を挙げられる。
アラフィリップ、強豪フランスのエース
フランス人のアラフィリップは、28歳で東京オリンピックを迎える。自転車ロードレース選手にとっての「最盛期」は27歳から32歳。まさに脂の乗った状態で、日本へと乗り込んでくる。
しかも所属チームの『ドゥクーニンク・クイックステップ』は、自転車界屈指のワンデークラシック精鋭軍だ。1日で勝敗が決するワンデーレースの中でも、特に距離が250㎞以上にも達するクラシック。つまり、オリンピックタイプのレースの勝ち方を徹底的にチームから叩き込まれた。
プロ入り直後から光る才能を発揮し、クラシック表彰台を連発してきたアラフィリップは、ついに2018年春、待望のクラシック1勝目を手に入れた。2019年春には、クラシックの中でもさらに格の高いモニュメントのひとつ、走行距離291㎞の『ミラノ~サンレモ』を勝ち取った。
アラフィリップにとって心強いのは、強いフランス代表チームを望めること。最大枠の5人を確保できるのはほぼ間違いない。そもそもフランスは、2018年世界選手権銀メダルのロマン・バルデ、モニュメントの中で最も山岳の厳しい『イル・ロンバルディア』を2018年秋に制したティボ・ピノー、2018年『ツール・ド・フランス』新人賞ピエール・ラトゥール等々、オリンピックのエースにふさわしい人材を数多く揃える。
つまり、2018年世界選手権のように、たとえ第1エースが最終局面で力を落としても、第2、第3のエースがメダル争いに確実に絡んでくるはずだ。
スペインの絶対的エース、40歳のバルベルデ
対して代表チーム内で唯一絶対的エースの地位を築き上げているのが、スペインのバルベルデ。そもそも少年時代からエリート街道を突っ走ってきた。なにしろ11歳から14歳までの4年間、文字通り全戦全勝で、ついたあだ名は「エル・インバティド」(無敵の男)。
短い急坂から長い山道までこなせる高いクライム能力はもちろん、フィニッシュラインに向けたスプリント力は天下一品。しかもシーズンランキングでは過去5回の個人総合首位に輝き、3週間で争われるグランツールは優勝1回、表彰台7回と安定して強く、1日勝負のワンデークラシックも全11勝。
特に史上最古の起伏モニュメント、『リエージュ~バストーニュ~リエージュ』では4度の栄光を誇る。なぜか世界選手権だけはどうも勝ちきれず、これまで6度の表彰台(史上最多記録)に甘んじてきたが、ついに2018年秋に初の世界タイトルを手に入れた。
天才的ライダーのバルベルデをしても、2004年47位、2008年12位、2012年18位、2016年30位と、オリンピックの栄光には縁遠い。5度目のチャレンジを、金メダルに結び付けられるか。バルベルデは40歳と3ヶ月で、東京オリンピックを迎える。
デュムラン、2冠への障害はレース日程
もしも本人が強く望めば、2008年大会のファビアン・カンチェッラーラ以来となる、オランダ人のトム・デュムランによるロードレース&個人タイムトライアルのダブル表彰台も期待できる。
2017年には3週間のレース、『ジロ・デ・イタリア』で総合優勝を果たし、秋には世界選手権で個人タイムトライアル制覇を成し遂げた。2018年世界選手権ロードレースでは、惜しくも表彰台こそ逃したものの、驚異的な独走で追い上げ4位入賞。
おそらく現役最強レベルのオールラウンダーだが、問題は2020年のレースカレンダー。ロードレース開催日は『ツール・ド・フランス』閉幕からわずか6日後。移動や時差を考えると、ツールを全力で最後まで戦いきった場合、オリンピックロードレースを本調子で戦うことは難しい。
「全てはツールのコース次第」と、2019年春の段階では、心を決め兼ねているデュムラン。ただし、個人タイムトライアルに関しては、何があろうとも全力で金メダルを獲りに行くつもりだろう。