パフォーマンスを完璧にするには:フィギュアスケート界のトップ振付師ブノワ・リショー氏との対談

芸術性を加味することはどのようなスポーツにおいても望ましいことではあるが、フィギュアスケートにおいては、それは不可欠な要素である。世界的に有名な振付師ブノワ・リショー氏が明らかにした秘密とは。

1 執筆者 Ed Knowles/翻訳:角谷剛
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ブノワ・リショーは今、注目を浴びている。

このフランスのフィギュアスケート振付師はオリンピック銅メダリストの髙橋大輔、2019年グランプリ・ファイナル優勝の紀平梨花、そして全米選手権優勝のブレイディ・テネルらを含む多くのスター選手たちを助けてきた。

リショーの独創的なアイデアはフィギュアスケートの観客を魅了してきた。彼が発する言葉はどのような分野であれ芸術性を求める人にとって貴重なアドバイスになる。

愛を広げて、そしてすべての瞬間を楽しみなさい - 振付師 ブノワ・リショー

「私は自分の感情に耳を傾けることが重要であるといつも言っています。それを何回も繰り返します」リショーはオリンピック・チャンネルのポッドキャストで放送されたインタビュー内でそう言った。

「人生において、いくつものドアが現れます。そのドアを開けることを怖がらないで、思い切って進みましょう。そして経験を得るのです」

「私が思うに、それこそが人生が私たちに与えてくれる方向です。そして、私たちはそれを受け止めなくてはいけないのです」

(以下の質問と回答は意味を明確にするためと長さを調整するために編集されています)

オリンピック・チャンネル(以下OC):通常であれば、あなたの仕事は人と直接会うことを意味するでしょう。現在は新型コロナウイルス感染拡大のため、あなたはオンラインでフィードバックを行っています。このことはあなたの仕事にどう影響していますか?

ブノワ・リショー(以下BR):面白いことにオンラインは上手く機能しています。私が好きなやり方でも、ベストのやり方でもありません。ですが、現在の私たちが直面している状況では、それ以外の解決策がありませんので、これがベストなのでしょう。

振付師はスケーターにとって特別な存在です。私たちはよく一緒にいますが、常にそうしているわけではありません。あえて距離や間隔を空けることで、お互いが少しだけ新鮮に感じることもあります。シーズン中は週に5回か6回、あるいはもっと頻繁に一緒に練習します。私たちはスケーターとの共同作業で少しだけ違うものを作り上げます。そして私は、スケーターたちもそうだと思いますが、そうした時間を恋しく思っています。

しかし、別の意味では、今の私はかつてないほどスケーターたちと密接に繋がっています。私はスケーターたちとほぼ毎日オンラインで会っています。何か修正が必要なときは、私たちはすぐにそれに取り組むことができます。それは過去においてはできなかったことだと思います。

OC:あなたは歴史的なフィギュアスケートのパフォーマンスの多くをYouTubeで観て多くのインスピレーションを得たそうですね。インターネットがどれだけの影響をフィギュアスケートのパフォーマンスに与えたと思いますか?

BR:私はソーシャルメディアは良いものだと本当に信じています。それは人々を結びつけるからです。そうしたものにアクセスできない人たちは気の毒だといつも思います。何もスポーツに限ったことではなく、ありとあらゆる分野で、人々はインターネットを通して学んだり知ったりすることができます。

だから私はCarte Blanche Labsという試みを始めたのです。フィギュアスケートと音楽や動画を合わせた専門サイトです。フィギュアスケートを愛する人々の輪を最大限に広げることが目的です。

私には協力してくれる素晴らしいチームがいます。アクセスが容易ではない人たちのことは気の毒に思います。これは本当に素晴らしい動画とコンテンツを提供しているので、人々は学ぶことができます。

OC:2022年北京オリンピックが近づいてきました。フィギュアスケート界において重要な年になります。中国でオリンピックが行われることについてどう考えますか?

BR:素晴らしいものになると思います。中国はきっと万全な準備をしてくれるでしょう。素晴らしい経験を人々に与えてくれるでしょうし、それこそがとても大切なことです。「オリンピックはできないよ」と口にする人がいることは知っていますが、私はそうは思いません。ただ、今までとは違った形でのオリンピックになるかもしれないだけです。

私たちは様々なスポーツの素晴らしいパフォーマンスを楽しむことができるでしょう。それに、高いレベルのスポーツ選手は同時に賢明な人たちです。彼らは状況を理解しています。どのような準備をして、どのように集中するかを知ることができます。それが簡単なことではないことは言うまでもありませんが。

困難は待ち受けていますが、しかしそれがオリンピックです。オリンピックとは困難なものなのです。あなたの好きな選手が勝つこともありますし、時には他の選手が勝つこともあります。それがスポーツの醍醐味です。

OC:あなたは様々な種類の音楽を使用してきました。クラシック音楽のときもありますし、2018年平昌オリンピックではトース・イヴェットにロックバンドのAC/DCを使って、人々を驚かせました。あなた自身はどのような音楽が好みなのですか?

BR:どんな種類の音楽でも好きですよ。私が好むのは上質なものです。私にとってはそれが重要なのです。あなたが音楽好きであれば、「ブラジルの音楽は好きではない」とか「クラシック音楽は好きではない」などと言うのはおかしいと思います。

また、新しい音楽にも親しむようにしています。40代や50代になると古い音楽しか聴かなくなる人がよくいますが、私はそうなりたくはないのです。私の周りの友人たちにも、若い頃の音楽しか聴かない人が大勢います。私は自分の子供たちが聴く音楽も好きなのです。それによって多くの発見がありました。

OC:2020年は避けようのない困難な年でした。2021年の世界であなたが楽しみにしていることは何ですか?

BR:人は考えを口にすることをしばしば忘れてしまいます。人生はとても短く、予想もつかないことも時に起こります。ぐずぐずしている時間はありません。私はこのことを(全米選手権チャンピオンの)ブレイディ・テネルに言いました。「君の人生であと何回の夏が来ると思う? 君はあと何回の冬を迎えることができる?」とね。

「正確には分からないだろう。60回か70回か、もし君が幸運だったらね。だからこそ、私は君にお日様を見る度に楽しんでもらいたいのだ。君が氷の上に立つ度にもね」

ただ愛を広げましょう。そしてすべての瞬間を楽しみましょう。

このインタビューは全編をオリンピック・チャンネルのポッドキャストで聞くことができる。

撮影:Olivier Brajon

原文:How to perfect performance: A conversation with top figure skating choreographer Benoit Richaud

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