近代五種は「キング・オブ・スポーツ」とも称されるほどの過酷な競技ながら、マイナースポーツの印象もある。2020年東京五輪に向け、日本国内でも少しずつ競技環境が整い、徐々にではあるが若い選手も育っている。果たして、東京の地でオリンピックのメダルを獲得する日本人選手は現れるだろうか。
リオ五輪では朝長なつ美が13位に
近代五種は近代オリンピックの創設者である、ピエール・ド・クーベルタン男爵が考案した競技だ。
フェンシングのエペ、水泳の200メートル自由形、馬術の障害飛越、そして2009年から取り入れられている、レーザーピストルを使用する射撃と800メートル走を組み合わせた「レーザーラン」。この5種類の競技を一日で行う過酷な競技で、海外では「キング・オブ・スポーツ」とも評されているが、競技人口が少なく、マイナーなイメージは否めない。
2020年の東京五輪では、男子個人、女子個人が行われ、各36名ずつが参加する。日本には開催国枠が男女1名ずつ与えられており、出場資格を満たす選手が増えた場合は、オリンピックランキングに準じて最大で2名ずつを派遣することが決まっている。
日本人では、2016年リオデジャネイロ五輪の女子個人で朝長(ともなが)なつ美が13位の結果を残し、これがオリンピックの個人戦における日本人過去最高成績となっている。2018年3月から4月にかけて行われたワールドカップ(以下W杯)第2戦では、男子の岩元勝平(しょうへい)が6位入賞を果たすなど、世界との差は徐々に詰まってきており、2020年東京五輪でのメダル獲得も大いに期待できる。
岩元は日本人男子の注目選手の一人だ。鹿児島実業高校時代までは水泳自由形の選手で、1年次には全九州高等学校水泳競技大会の長水路800メートルにも出場。自衛隊への入隊後に近代五種に転向し、2014年に仁川で行われたアジア競技大会の男子個人で銅メダル獲得を成し遂げた。2016年リオ五輪では29位の成績を収めている。
岩元と同じ自衛隊体育学校の三口智也にも期待
その岩元と同じく、自衛隊体育学校に所属する三口(みぐち)智也も期待の男子選手。三口も高校時代は水泳自由形の選手だったが、高校2年のころから自衛隊による熱心なスカウトを受け、高校を卒業して自衛隊に入隊すると同時に近代五種に進路変更した。2010年には近代五種日本選手権大会を制し、2014年のアジア競技大会では、岩元らとともに団体で銀メダルを獲得。2016年リオ五輪では個人で22位という結果を残している。
女子では、やはりリオ五輪13位の朝長に期待がかかる。警視庁に所属する朝長は、もともと水泳と陸上の競技者だったが、警察学校に入ってから勧誘を受けて近代五種に打ち込み始めた。リオ五輪後に「金メダルは遠いと感じたが、自分が到達できないところではない」と語ったとおり、2019年2月から3月に実施されたW杯第1戦で10位に入るなど、世界トップに迫る実力を備えている。
女子部門は若い世代の台頭も著しい。そのなかで「逸材」と呼ばれ、期待を集めているのが、高橋瑠佳(るか)だ。もともと水泳が得意で、シンクロナイズドスイミング(現在の呼称はアーティスティックスイミング)で国民体育大会に出場するほどの実力者だった。2017年の海上自衛隊入隊を機に近代五種を始めた高橋は、自衛隊員のなかでもトップクラスとされる身体能力と、あらゆる競技を器用にこなす柔軟性をすぐに発揮し、競技歴わずか1年で日本代表に選出された。2018年秋の近代五種全日本選手権大会でも2位に入るなど、実績を積み上げている。
「英才教育」で東京五輪をめざす2人の若手女子
近代五種とフェンシングの「二刀流」で注目を集めているのが、2019年春に早稲田大学を卒業し、マイナビの社員として両競技での2020年東京五輪出場をめざす才藤歩夢(さいとう・あゆむ)だ。これまでに挙げた選手たちはすべて社会人になってから近代五種を始めているが、彼女は幼少期から近代五種に親しめる環境に身を置いていた。
父親の才藤浩氏は1988年ソウル五輪の近代五種に出場し、2012年ロンドン五輪では同競技の監督を担った。そんな父のもと、才藤は小学生のころから水泳とレーザーランからなる「近代三種」の大会に出場していた。中学では陸上部に所属し、高校進学後にフェンシングも始め、早稲田大学時代はフェンシング部の女子主将も務めた。自衛隊や警察で競技をスタートさせた他の選手と違い、陸上や水泳で培った体力と、フェンシングの下地があるのが才藤の強み。「父に追いつき、越えられる選手になりたい」という目標達成のためには、2020年東京五輪出場は逃せない。
父親の才藤浩氏は現在、星槎(せいさ)国際高校の近代五種部で指導を行う。全国で初めて創設された部活で、部員は3年生の有路萌(ありじ・もえ)一人だけだが、彼女もまた2020年の東京五輪出場をめざしている。高校では才藤浩氏に加え、フェンシング元日本代表監督の江村宏二氏も手引きをする。「これだけ恵まれた環境はない」と有路自身が語るように、英才教育を受けるなかで彼女が急成長を遂げ、2020年東京五輪への切符をつかんだとしても不思議ではない。