近代五種女子:心身ともに己の力を出し切る。世界1位のプロコペンコは悲願の金で有終の美を飾れるか

カギを握るのはラストの「レーザーラン」

2012年のロンドン五輪でイギリスのサマンサ・マリー(右)は銀メダル、ブラジルのヤネ・マルケス(左)は銅メダルを獲得した

体力、持久力、そして思考力。心身をフル稼働させて、一日のうちに異なる5種目をこなすのが近代五種競技だ。最終順位は全種目の総合得点で決まる。各選手によって得意不得意が異なるため、細かな駆け引きからも目が離せない。「キング・オブ・スポーツ」と呼ばれる過酷な競技には、女子アスリートたちも果敢に挑む。

最終結果は5種類の競技の総得点で決まる

近代五種では、その名のとおり一日のうちに5種類の競技に挑戦してその合計点を競う。1912年のストックホルム五輪で正式競技に採用され、2000年のシドニー五輪からは女子も実施されるようになった。

5種はフェンシング、水泳の200メートル自由形、馬術の障害飛越、ランニングと射撃からなるレーザーランで構成される。剣で戦い、泳ぎ、馬に乗り、走り、そして銃を撃つ。まさに軍隊さながらの厳しい訓練のような内容で、選手たちは心身ともに極限に挑まなければならない。

5競技それぞれのコーチに指導を仰がなければならないこと、いくつもの道具やウェアをそろえなければならないこと、さまざまな練習環境を整備する必要があることなど競技開始までのハードルも高いが、発祥の地であるヨーロッパを中心に、近年は国際近代五種連合の加盟国が100を超えるなど徐々に広がりを見せている。

選手たちはまず、フェンシングのエペで1分間一本勝負の総当たり戦に挑む。勝率70パーセントを250点として得点が増減し、順位が決まる。続く水泳では、男女ともに2分30秒で250点を基準とし、0.5秒ごとに1点が増減する。馬術では抽選で決められた貸与馬と、12障害15飛越のコースに臨む。高さは最大で120センチに上り、300点満点からの減点方式が採用されている。

勝敗を大きく左右するのが、ラストのレーザーランだ。これまでの3種目の成績をタイム差に変えて時差スタートし、50秒という制限時間内にレーザーピストルで5発命中をめざす。その後800メートルのランへと移り、これを4回繰り返す。プレッシャーのかかるなか、そして疲労の蓄積するなかで最後まで気の抜けない攻防が続き、大逆転も起きやすいため観客も固唾をのんで見守ることになる。

新興国は欧州勢に割って入れるか

男子ではハンガリー、スウェーデンなど西欧諸国が長きにわたって表彰台の常連国となってきたが、女子部門ではシドニー大会での第1回目の開催以来、イギリスが安定してその力を見せつけてきた。シドニーでは金と銅、2004年のアテネ五輪では銅、2008年の北京五輪では銀、2012年のロンドン五輪では銀と、4大会連続で、イギリス人選手がメダルを首にかけた。ただし、2016年のリオ五輪ではイギリス勢が表彰台に上がることができなかった。

4年前に世界一の座に輝いたのは、オーストラリアのクロエ・エスポジートだ。2018年にハンガリーで行われたワールドカップ(以下W杯)でも見事に優勝を成し遂げた。2019年4月15日時点の世界ランキングでは3位につけるなど、十分に連覇を狙える位置につけている。同ランク1位に君臨するベラルーシのアナスタシア・プロコペンコを中心に、ランキング上位にはロシア、ハンガリー、フランスなどヨーロッパ勢が多数を占めるが、近年は前述のエスポジート、そしてロンドン五輪で銅メダルを手にしたブラジルのヤネ・マルケスのように新たな実力者も誕生している。2020年の東京五輪では、新興国がどこまで常連国に割って入れるかも見どころとなる。

日本女子は山中詩乃、黒須成美の2選手が、2012年のロンドン五輪で初のオリンピック出場を成し遂げた。山中が30位、黒須が34位という結果を残している。リオデシャネイロ五輪に出場した朝長(ともなが)なつ美は、日本人選手として過去最高となる13位でフィニッシュ。2018年のアジア競技大会でも5位に食い込み、世界ランクでは日本人最高位となる24位にランクインしている。

ベテランの背中を追い若手も成長中

2020年の東京五輪では、ホームの声援を受けて戦う日本人選手の活躍が期待されるが、その前に立ちはだかるのはやはりヨーロッパ勢の厚い壁だろう。

前述のプロコペンコは、2018年の世界選手権で念願の初優勝を成し遂げており、東京五輪への出場権を獲得できれば、これが4度目のオリンピックの舞台となる。2008年の北京では惜しくも4位に終わったものの、2018年に入ってから3位の選手のドーピングが認められ、繰り上げにより銅メダルを奪取。2019年9月に34歳を迎えるため東京を「ラストチャンス」と位置づけており、今度こそ金メダルを持ち帰りたいという思いは人一倍強いはずだ。同じく近代五種選手の夫ミハイルと最愛の息子の熱烈な応援を受けながら、有終の美をめざす。

若手選手も台頭している。2019年2月末にエジプトで行われたW杯第1戦では、2019年8月に25歳になるロシアのユリアナ・バタショヴァが優勝。世界ランクでは5位につけるなど、今後が期待されている有望株だ。同じく1994年生まれのフランスのマリー・オテイザは2018年の世界選手権で3位に輝き、世界ランクでは2位につけているように勢いに乗っている。

2020年東京五輪の女子近代五種は、2020年8月6日(木)に予選、7日(金)に決勝が行われる。東京スタジアムがメーン会場で、フェンシングのみ武蔵野の森総合スポーツ施設でも開催される予定だ。2019年6月27日から30日には、東京五輪前のテスト大会として、日本でW杯ファイナルが開催される。2020年の前哨戦としても、競技を知るきっかけとしても楽しめる絶好の機会だ。

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