大岩義明はたたき上げの人だ。明治大学卒業後、一度は総合馬術の道を絶ったが、アテネ五輪で自分の気持ちに気づき、イギリスを拠点に再び挑戦を始めた。オリンピックには2008年の北京五輪から3大会連続で出場し、しっかりと経験を積んで来た。東京五輪時は44歳。円熟のライダーの躍動に期待が高まる。
イギリス生活の当初は自分の馬すらない状態
ドイツを拠点に活動する総合馬術の大岩義明は1976年7月19日、愛知県名古屋市に生まれた。乗馬との出合いは10歳のころ。家族で訪れた長野県でポニーにまたがると、その楽しさが忘れられなかった。馬とともに過ごす人生を歩み始めた。
ただし、一度競技を離れている。私立名古屋学院中学校、私立名古屋学院高校を経て明治大学に進学。名門馬術部の主将を務めるだけの実力とリーダーシップを持っていたが、卒業と同時に就職し、馬術からはいったん距離を置いた。
それでも10歳のころに味わった、馬と一体になる楽しさを完全に忘れ去ることはできなかった。社会人2年目の2000年、シドニー五輪が行われた。大会をテレビで観戦すると、「自分がめざすべき場所はここだったんだ」と気づかされた。人脈をたどり、翌2001年、単独で馬術の本場でもあるイギリスへ渡った。
イギリスでの挑戦はアルバイトから始まった。明治大で総合馬術選手だった先輩がかかわる厩舎で馬たちの世話や雑務をこなしながら、少しずつ大会に参加しチャンスをうかがった。当初は自分の馬すらない状態だったが、渡英して2年目の2003年にようやく自馬を持つことができた。
だが、2004年のアテネ五輪行きのチケットをつかむことはできなかった。個人の出場権は世界ランキング上位25名まで。大岩は26位だった。
2017年には世界最高峰の大会で8位入賞
アテネ行きを逃した悔しさがあったからだろう、以降、大岩のキャリアは充実の一途をたどっている。
馬の美しさや正確さを競う「馬場馬術」、さまざまな障害物を乗り越えていく「障害馬術」、この2種目に、起伏に富むコースを疾走し、丸太や竹柵といった障害物や水濠などをクリアしていく「クロスカントリー」の3種目をこなす総合馬術の選手として、着実に成長してきた。
2006年、ドーハで行われたアジア競技大会では総合馬術の個人で金メダルに輝き、団体でも銀メダル獲得に貢献。2008年に北京五輪で初めてオリンピックの舞台を踏むと、「環境を変えてもっと成長したい」という思いで拠点をイギリスからドイツへ移した。その甲斐あって、2012年のロンドン五輪では、初日馬場馬術で1位通過を果たすことができた。最終的には予選敗退を喫したものの、2度目のオリンピックで得た収穫と課題はその後に生きている。
2016年のリオデジャネイロ五輪にも出場した。翌2017年には世界最高峰とも称されるバドミントン・ホーストライアルズという大会で8位入賞という好成績を残し、世界のトップライダーの仲間入りを果たしている。2018年8月にインドネシアで行われたアジア競技大会では、総合馬術で個人と団体の2冠を達成してみせた。
一度競技を離れからこそ競技にかける思いが強い大岩は、2020年の東京五輪は「人生でも最初で最後の機会」だと感じているという。アルバイト生活からのたたき上げライダーが、またとない舞台で世界を驚かせる展開は決して夢物語ではない。