フィギュアスケート界の新時代を切り拓くと期待されているのが鍵山優真(かぎやま・ゆうま)だ。レジェンドを父に持つ2003年生まれのティーンエイジャーは、2019年の全日本フィギュアスケート選手権で宇野昌磨と羽生結弦に次ぐ銅メダルを獲得してみせた。続く2020年ユースオリンピック冬季競技大会では見事金メダルを手にしたものの、そのキャリアは最初から輝かしいものだったわけではない。
父は4回転ジャンプを日本人として初めて成功させた名手
羽生結弦や宇野昌磨の日本男子スケーター系譜を継ぐであろう鍵山優真(かぎやま・ゆうま)は“フィギュアスケート界のサラブレッド”だ。
父の正和さんはかつてフィギュアの名手であり、冬季オリンピックも2度経験した。1992年のアルベールビル五輪と1994年リレハンメル五輪の日本代表に選ばれている。4回転ジャンプを日本人として大会で初めて成功させたレジェンドとしても知られる。
2020年ユースオリンピック冬季競技大会で金メダルを獲得したその少年は、2003年5月5日、長野県北佐久郡の軽井沢町で生まれた。スケートを始めたのは5歳の時。当然、父の影響もあった。
スケートで氷上を滑るのが純粋に楽しかったことに加え、環境にも恵まれたという。地元の軽井沢には、軽井沢風越公園アイスアリーナがある。軽井沢中部小学校に通うかたわら、ほぼ毎日、通年型の屋内アイスリンクで練習に打ち込んだ。主に指導を施してくれたのは、やはり父の正和さんだった。
氷上の訓練だけでなく、並行してジャズタンスも習った。小さなころから踊るのが大好きで、ダンスの要素も含むフィギュアスケートが肌に合った。それでも、すぐに結果が出たわけではない。主に小学生を対象とする全日本フィギュアスケートノービス選手権では、一度も表彰台に立つことができなかった。
伸び悩む小学生時代…全国中学校スケート大会の準優勝が飛躍のきっかけに
なかなか成果が出ない状況で、むしろスケート選手としての自覚と誇りが強まっていく。
小学校の5、6年生の時には自分より強い相手がいることを前向きに捉え、競技としてのフィギュアスケートにさらに意欲的に励むようになった。鍵山少年はかつて「自分が休んでいる時にもライバルたちは成長している。そう思うと、練習しないと、という気持ちになる」と話したことがある。
もっとも、横浜市立六角橋中学校進学後も、思うように結果がついてこなかった。2016年11月の全日本ジュニア選手権では総合11位。翌年11月の同大会は総合12位に終わった。
一つの手応えをつかんだのは、2018年2月の大会だ。地元長野で行われた第38回全国中学校スケート大会でショートプログラム、フリースケーティングともに3位に食い込み、総合2位の成績を収めた。翌2019年の同大会でも総合2位となった。
2位のうれしさと悔しさが入り混じった感情も、鍵山少年の成長を加速させていく。2018年には、自身初の国際大会となったアジアフィギュア杯で優勝を果たす。同年は初参戦のジュニアグランプリシリーズや全日本フィギュアスケート選手権、全日本ジュニア選手権などで場数をこなし、着実に技術と表現力を伸ばしていった。2019年11月に行われた全日本ジュニア選手権では、同じく急成長を遂げている佐藤駿とのライバル対決を制し、見事優勝を手にしている。
続く2019年12月の全日本選手権の3位、2020年のローザンヌユースオリンピックの金メダルは、必然と言っていいのかもしれない。「究極の目標は完璧な選手」と話す“フィギュアスケート界のサラブレッド”はまだ16歳。フィギュアを楽しみ、結果もつかみ始めた若き逸材の目の前には無限の可能性が広がっている。