今季のフィギュアスケートのグランプリシリーズではこれまでに4戦が行われ、女子シングルのメダル12個のうち10個が日本選手の手に渡った。
それはフィギュアスケートが愛される国・日本の強さの表れだ。日本では関連するニュースが定期的にテレビや新聞で報じられ、トップスケーターは国民の間で広く認知されている。
それゆえにオリンピック日本代表になることに関してはとても難しいことだ。
その10個のメダルのうちの1個を手にしているのが19歳の吉田陽菜(はな)である。彼女はトリプルアクセルに跳ぶ数少ない女子選手の1人であり、才能が開花し始めたばかりのスケーターである。
「自分はまだチャレンジャーです」
グランプリシリーズ第2戦のスケートカナダで3位となった吉田陽菜は、その直後に行われたOlympics.comのインタビューに英語で応え、こう語った。
「トップに辿り着くためには、もっと上手くならなければなりません。私の強みはジャンプですが、演技構成点をもっと上げられると思うので、それにも取り組みたいです」
名古屋生まれの吉田は、同じ名古屋出身のあの偉大なスケーターを見ながら成長してきた。2010年バンクーバーオリンピック銀メダリストで、世界選手権を3度制した浅田真央さんだ。
浅田さんもトリプルアクセルで知られ、その輝かしいキャリアを通してフィギュアスケート界で最も尊敬されるアーティストのひとりとなった。
「浅田真央さんは私のアイドルです」
インターナショナルスクールに通っていた吉田は、ほぼ完璧な英語でこう続ける。「とても尊敬しています。現役時代にトリプルアクセルに挑戦していた姿を見てきたので、私も自分のトリプルアクセルに挑戦したいと思うようになりました」。
吉田陽菜、2年連続のグランプリファイナルを目指して
吉田はまもなく今季2戦目のグランプリシリーズとなるフィンランド大会を迎える。彼女はこの舞台で、トップ6人のみが出場できるファイナル進出をかけて、自身が抱く期待や周囲からのプレッシャーを抱えながら表彰台を目指す。
1年前のファイナルで、吉田は3位で表彰台に立った。初めてのファイナル出場で初めての表彰台。本人はもちろん、周囲もその結果に舌を巻き、ISU(国際スケート連盟)の「年間最優秀新人賞(Newcomer of the Year)」に選ばれた。
「去年はシニア1年目の年で、すべてが新鮮でした。グランプリシリーズはとても楽しかったですし、ファイナルに行けたのはびっくりでした。表彰台に立てるなんて夢にも思っていなかったので、とても幸せでした」
「もっとやれると思います。自分のこと、そして結果を出すことに集中したいと思います」と続ける。
彼女の「もっとできる」という信念は、数々の名選手を育ててきた濱田美栄コーチをはじめとするチームにも共有されている。今シーズン、吉田は著名な振付師であるブノワ・リショー(ショートプログラム)、ローリー・ニコル(フリー)と共に作り上げたプログラムを披露する。
2026年ミラノ・コルティナ冬季オリンピックで、吉田は日本代表最大3枠のひとつを射止めることができるのか? 世界選手権3連覇中の坂本花織がその座に最も近いところにいるように見える中、吉田はチームジャパンに加わることができるのか。
「オリンピックは私の夢です。とても大きな夢です」とした上で吉田はこう続ける。
「オリンピックの前に、大会で結果を出さないといけないので、オリンピックのことは考えすぎないようにしています。今はひとつひとつの大会に集中して、それがオリンピックにつながっていくといいなと思います」
吉田陽菜、自分自身のスケートスタイル
シニア2季目ながら大きな注目を集める吉田だが、オリンピック、あるいは世界選手権を意識するようになったのは、主要国際大会でのシニアデビューを果たした昨季のことだ。そしてその世界選手権では8位入賞を果たした。
「オリンピックは4年に1度。とてもスペシャルなもので、みんながそれを目指しています。なので難しいと思いますが、オリンピックを目指すことは私のモチベーションのひとつになっています」
トップスケーターとしての道を歩む中で、吉田はアイスショーなどにも参加し、日本で開かれたスターズ・オン・アイスでは世界選手権準優勝のイザボー・レヴィト(アメリカ合衆国)と親交を深めた。
「彼女はとても可愛くて大好きです。スケートしているときはとても落ち着いて見えるけど、話してみると想像していた感じと違って、いつも一緒に笑っています」
トリプルアクセルを強みとすることはこれからも変わらないが、一方で吉田は自分のスタイルを確立したいと考えている。
今季のプログラムはそれを反映している。吉田が選んだ2つの曲は、彼女にとってスタイルの変化であると同時に挑戦でもある。彼女が自身の音楽の解釈に疑問を持つことがあれば、作曲家クリストファー・ティン氏の声が参考になるだろう。
ショートの曲の作曲家であるティン氏は、スケートカナダをフォローしていたことをXに投稿し、その中で「私はファンのひとりです」とコメントし、応援メッセージを送った。
吉田はこう続ける。「他の人にはないような、自分らしいスタイルを見つけたい。自分のプログラムを特別なものにしたいし、自分だけが滑れるものを作り上げたい」。