「トリプルコークも(試合で)できていないので、それを自分の中で不安なく入れられるようにして、オリンピックにつなげていきたい」
Olympics.comのカメラの前でそう語った日から3日後の12月8日、スノーボーダーの戸塚優斗はワールドカップ(W杯)新シーズンの開幕戦となった中華人民共和国での大会の決勝で、トリプルコークをルーティンに組み、 FIS(国際スキー・スノーボード連盟)も「まさに離れ業」と称えるパフォーマンスで、通算8勝目のW杯優勝を飾った。
2位のスコッティ・ジェームズ(オーストラリア)、3位の山田琉聖、4位の平野歩夢らを抑えて、ミラノ・コルティナ2026冬季オリンピックのプレシーズン初戦を最高の形でスタートした戸塚は、「やっとトリプル(コーク)を大会で決めることができて嬉しい」と喜びを語った。
戸塚優斗「全部の技をバランス良く」
今年で8シーズン目を迎える戸塚優斗は、2017年のデビューシーズンから2年連続で年間優勝を果たして以来、常に男子ハーフパイプのトップ選手として世界と戦い、ライダーらが常に限界に挑戦する姿を目にしてきた。
「難易度もそうですけれど、バラエティが増えてきた感じがすごくあって、スイッチバック(レギュラースタンスとは逆のスタンスでバックサイドにスピンすること)だったりとか、この人しかできない技だったりとか、そういうバラエティが増えた」と戸塚は北京オリンピック以降からこの数年の印象を語る。
戸塚はその中で自分の強みを認識し、オフシーズンには苦手だったというキャブ(スイッチスタンスでフロントサイドスピンを跳ぶこと)を重点的に練習し、必要な筋肉・体幹を鍛えてきた。
「全方向をバランスよくやるのが俺の滑りというか体得できることなので、まわりがやらないようなスイッチバックだったりとか、全部の技をバランスよくやっていくのが自分の強みという感じですかね」
その強みはW杯開幕戦決勝のルーティンを例に取ってみてもよくわかる。
スイッチバックサイド・ダブルコーク1260ウェドルグラブで始まった戸塚のランは、キャブ・ダブルコーク1440ウェドルグラブ、フロントサイド・ダブルコーク1260インディ、バックサイド・ダブルコーク1260ウェドルグラブと続き、そして最後5つのトリックでは、決勝2本目のダブルコークからアップグレードする形でフロントサイド・トリプルコーク1440インディを決めて得点を更新した。
戸塚優斗「イメージする力、表現する力」
2001年9月生まれ23歳の戸塚優斗は、幼い頃からスノーボードに取り組んできた。そんな戸塚にとってスノーボードの魅力は「かっこよさ」にあると迷いなく言葉にする。
「どの競技にも負けない良さがあると思うし、雪がないとできないという苦しさというか、普段練習できない感じも魅力」とさらにその魅力を語ったが、やはり行き着く先は、「やっぱりかっこいいですよね」の一言。
「競技だったら勝つ瞬間が気持ちいいし、あとは新しい技を決めたときとか、でっかいパイプですごい跳んだときの浮遊感とか(が好き)」と続ける。
しかし、ハーフパイプの世界では恐怖がつきものでもある。パイプの縁から高く飛び出し、回転するうちにズレが生じると、想定外の形で着地・転倒してしまうこともある。トップで活躍する上での重要な要素として、イメージ力そして表現力を戸塚は挙げる。
「恐怖と戦う競技なので、そこに打ち勝つことも大切だし、頭の中で技をイメージできるかどうかがすごく大事になってくるので、頭の中で作り上げたものをどうやって雪でやるかを考える力、表現する力がすごく関わっているんじゃないかなと思います」
戸塚優斗、ミラノ・コルティナ2026冬季オリンピックに向けて
戸塚は2018年の平昌大会でオリンピックデビューを果たした。しかし、その経験は誰もが思い描く理想とは大きく違っていた。
予選を通過して決勝進出を決めた戸塚だったが、決勝2本目でパイプの縁に落下して体を強打。担架で運ばれてそのまま病院に搬送された。
「1回目(のオリンピック)はキャパオーバーしたというか、気持ちの整理がきかなくて怪我した」と戸塚は振り返る。
2度目のオリンピックは、W杯年間優勝を3度経験し、前年の世界選手権を制して世界王者として出場。しかし、大会では得点を伸ばすことはできず結果は10位。「2回目は少し慣れてきてたんですけど、壁に対応できなかった」とその経験を語る。
「自分の中で暴走しないというか。自分の許容範囲の中でできることをやるのがオリンピックでは大事なことと思ってて。本番だからめっちゃスピードをつけるとかじゃなくて、練習通りにできるのが一番いい滑りができると思うので、そこを気をつけていきたい」
スノーボード競技ではミラノ・オリンピック出場枠をかけた戦いがすでに始まっており、選手たちは重要なプレシーズンをスタートさせた。
「今年からすごく大切なシーズンになってくるので、ここで焦らずにオリンピックがかかってると思わずに1個1個の大会に集中して取り組んでいって、いい結果を残した上で、オリンピックが決まるというのが理想というか、オリンピックの近道だと思っているので、焦らずに1個1個の大会を大切にしてできる最高のプレーをしていけたらいいなと思っています」。