マ・ロンが語る、父親であること、そしてモチベーション

卓球でマ・ロン以上に多くのオリンピック金メダルを獲得した選手はいない。卓球界のレジェンド的存在の彼は、どのように私生活とスポーツを両立させているのだろうか。その原動力をOlympics.comに語った。

1 執筆者 ZK Goh | 公開日:2022年10月25日
Ma Long
(2021 Getty Images)

オリンピックで獲得した金メダルの数は5つ。世界選手権での優勝は13度。卓球界のレジェンドであり、プライベートでは子を持つ父親、夫でもある。

過去10年を通して安定した成績をおさめてきたマ・ロン(馬龍)は、卓球界のトップに君臨してきた。

中華人民共和国の東北部・鞍山市出身のマ・ロンは、1988年10月生まれの現在34歳。誰よりも多くのオリンピック金メダルを獲得しており、世界選手権では、戦後最も成功した男子卓球選手でもある。

「ドラゴン」の愛称で親しまれる彼は、何十年にも及ぶ努力の末にそのレベルに達したが、2017年に長男が誕生すると、競技を取り巻く環境が一変した。

彼がそのことを口にすることはほとんどなかったが、私生活とスポーツの両立は決して簡単なものではなかった。「家族と過ごす時間など、犠牲にしてきたものはある程度あります」と彼は認める。

ITTFを通じたOlympics.comのインタビューで、彼はどのように家庭と卓球を両立させてきたのかを語った。

家族とスポーツを切り離して考える

マ・ロンは自分というものをしっかりと認識している人物のようである。

彼はアスリートとして完璧を追求するあまり、その他のことがおろそかになっていると認める。世界の多くのアスリートも同じだろうが、スポーツの発展に力を注ぐ中華人民共和国において、その傾向は特に強まる。例えば、家族との時間だ。

「家族、両親、妻、そして子どもたちに感謝しています。好きなことに取り組む私をいつも応援してくれています」

「彼らは、私が彼らのものであるだけでなく、この(中国卓球代表)チームのものでもあると感じています。私には自分の夢もありますし、彼らはそれを(家族の役割と)切り離して考えてくれています」

2022年秋に行われた世界卓球選手権の男子団体で中華人民共和国代表チームは22度目の優勝を達成。そのキャプテンを務める彼は、ナショナルチームにおける自分の位置づけを明確に語る。

「中国卓球チームは、私ひとりの力で成り立っているわけではありません。監督をはじめ、裏方の人たちがたくさんいます。私たちのプレースタイルやチームのパフォーマンスを上げること、技術的な発展を研究することなどに集中しています。これはみんなが共有している目標なんです」

彼はこのチームが自分ひとりの力だけで回っているわけではないことを認識したことで、父親として、息子として、家族の一員として、代表チームのキャプテンとしての役割のバランスをよりよく理解でき、コート外での生活にも目を向けることができるようになったという。

「戦いの舞台に立つアスリートであること以外は、私は普通の人間だと思います」

「卓球が少し上手い選手であることを除けば、私の生活は他の人と何ら変わりはありません。そうやってすべてを切り離すようにしているのだと思います」

マ・ロンにとってオリンピックの最高の思い出

マ・ロンはこれまでのキャリアにおいてすべてを成し遂げてきた。

オリンピックのシングルス、団体で金メダル、世界選手権のシングルス、ダブルス、団体で優勝、ワールドカップのシングルス、団体で優勝、ワールドツアー/WTTカップファイナルズのシングルス、ダブルスを制覇。そんな彼は、自分のキャリアをどう振り返るのだろう。

マ・ロンは謙虚な男である。それは「過去の勝利がさらに上を目指すモチベーションになっているか」という質問に対する彼の答えにも表れている。

「個人的な名誉については、あまり考えていません。それ(モチベーション)はこのスポーツへの普遍的な愛からくるものです。ボールの動きを研究したり、自分自身や自分のプレーを研究したり、私は本当に卓球が好きなんだと思います」

「卓球のことばかり考えているので、自分の技術や戦術をどう向上させるか、どうすれば健康でいられるかを常に意識してきました。これは、私が常に望んできたことだと思います。どんな勝利や記録であれ、それは他の人が語ることであって、私は自分自身をいかに向上させ、ベストな状態でいられるかに集中しています」

しかし、自分の成し遂げたことを一切振り返らないというわけではない。オリンピックで最も印象に残った瞬間を尋ねたとき、彼は迷うことなく、ある「1得点」を挙げた。それはリオ2016の準決勝で日本の水谷隼と対戦した際に繰り広げられた有名なラリーで奪った1点である。

「水谷から得たポイントが一番に思い浮かびます。特にオリンピックの舞台だったということで、とても重要でしたし美しいポイントでした」

「あの息苦しいほどのプレッシャーの中で得たあのポイントは、今でも最も美しいものです」とマ・ロンは続ける。

「3-0を先取した後、3-2まで追い上げられました。そして第6ゲームでポイントが2-1となったときです。押しつ押されつの長いラリーが続きました」

「本当に重要なポイントでしたし、エキサイティングなものでもありました。オリンピックでプレーした中で、私にとって最もエキサイティングなポイントでした」

2022年10月に34歳の誕生日を迎えたマ・ロン。彼のそばで成長する子どもは卓球の才能の片鱗を示しているのだろうか?

「幼いのでまだですね。私がプレーするのを見て、応援してくれるかもしれませんね。スポーツの才能はあると思います。でも、卓球の才能はまだ見られません」

子どもがラケットを手にして遊ぶこともあるのだろうか。そんなことを尋ねると、「今は、どんなものでも手に取って振り回すんです」と、ストイックさが伝わってくるその表情を緩めて笑顔を見せた。

そんな彼は現在34歳。だが、その勢いが衰える気配はない。2024年に予定されているパリオリンピックはそう遠くない。

「どうでしょう。行けるといいんですね」

彼は35歳9ヶ月でパリ2024を迎える。

「引退する日のことは考えていません。(パリへの)道のりは厳しいものですし、たどり着けるかどうかわかりませんが、私はその道を進んでいます」

「真面目で責任感のある、その場にふさわしい人間にならなければいけないと思っています。卓球選手として、国を代表する選手として、そして自分として」。

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