ニー・シャーリエン(倪夏蓮)はすべてを目撃し、経験してきた。
59歳の彼女は、50年以上も卓球を続けている。そのうちトップレベルに君臨した期間はおよそ40年。1983年に東京で行われた世界卓球選手権に初めて出場し、2種目で優勝。この大会に出場した回数は23を数える。
1963年に上海で生まれ、1991年にルクセンブルクに移住したニーは、ルクセンブルク代表としてオリンピックに5度出場。長年にわたってトップレベルで戦い続け、卓球界の真のレジェンドとして多方面から称賛されている。2021年の世界選手権の女子ダブルスではサラ・デナットと組んで3位となり、1985年大会(銀メダル)以来のメダル獲得となった。
多くのファンからの支持も集めているニーだが、本人は控えめな性格で、自分の肉体に限界があることも自覚している。
2022年9月末から10月にかけて行われた世界選手権で、ニーは国際卓球連盟(ITTF)を通じて「裏で支えてくれた人たちがたくさんいます」とOlympics.comに語り、「50年間プレーしてきた中で、今でも自由にコートの上でプレーできることはとてもラッキーなことですし、とても感謝しています」と続けた。
「家族も、卓球協会も、ルクセンブルクの人々も、私を応援してくれています。世界中にたくさんのファンがいて、私がルクセンブルクにいるにもかかわらず、中華人民共和国からも声援が届くことは特に感動的です。私にとって大きなモチベーションです。そのお返しとして1番の方法は、ベストなプレーをすることです」
バランス感覚を養うニー・シャーリエン
世界の多くのトップ卓球選手とは異なり、ニーはフルタイムの選手ではない。ルクセンブルクでは、1日中卓球に打ち込むことはできないし、そうもしない。それでも継続して結果を残せていることに、ただただ驚くばかりだ。
「年齢のせいで、若い頃のように練習することはできません。私にとって一番大切なことは、怪我をしないこと、体調を崩さないことです。身体をいかに正しく休ませるかも重要です。体力を維持するためにかなりジムに通っていますし、回復のために理学療法士にも診てもらっています」
ニーは2019年のOlympic Channelの取材で、ふたりの子ども(当時27歳と16歳)、母親(当時88歳)、そして夫であるトミー・ダニエルソン・コーチと一緒に暮らしていると語っていた。常に彼女をサポートする家族は、競技よりも優先される。
「家族がいて、責任もあるので、卓球をする時間はあまりないんです。練習はあまりしないけれど、すべてのことをバランスよくこなすことが、卓球の調子を整え、パフォーマンスを維持するために大きな役割を果たしています」
ニー・シャーリエンの座右の銘
現在、デナットとのコンビで世界ランキング女子ダブルス3位につけているニーは、衰えを知らない。彼女が心に留めている言葉は「活到老学到老」という中国語の慣用句で、文字通り「老いるまで生き、老いるまで学ぶ」ことを意味し、一般的に「学ぶのに遅すぎることはない」と訳されるものだ。
「これは私がいつも考え、実践していることです。他にもありますよ。『明日の自分より今日の自分がいつも若い』というフレーズも、私のモチベーションを高めてくれます」
ニーは、年齢を重ねるにつれ、特に敗北を喫した後は弱気になるという。
「最近、自分は年齢的にもうダメなんじゃないかと思ったんです。試合を振り返ってみると、自分がうまくプレーできなくなったから負けていると思い、知らず知らずのうちにコート上で諦めて、ペースを落としていたのだと思います」
「でも、その後、『いや、それはおかしい。バカなことをしている』と思い直しました。今日の私は明日の私よりも常に若いという結論に達し、(その気づきに)勇気づけられています」
2022年の世界選手権でニーは世界ランキング女子シングルス16位のチョン・ジヒ(韓国)を破り、ルクセンブルクを3-1の勝利に導いた。
「フィールドの外にいるときは、自分の年齢を考えてしまいます。フィールドの中では、そんなことは考えず、ただひたすらすべてのポイントで勝とうとしています」
「技術と経験を上手に生かせています。これはとてもラッキーなことです。誰もが一番になりたいと思いながら、成功しないことが多いわけで、今回は私が結果を残すことができました」
「技術を向上させつつ、敏捷性を維持できるように努力しています。そのおかげで結果を残せています」
59歳にしてなお、周囲に影響を与えるニー・シャーリエン
ルクセンブルクの国籍を取得したニーは、世界卓球のサーキットで活躍する最年長選手として、この競技における自分の役割を自覚している。
彼女は世界中のあらゆる世代の選手に影響を与え、その中には、ニーが女子団体と女子ダブルスで金メダルを獲得した1983年の世界選手権の時点でまだ生まれてもいなかった選手も含まれているのである。その大会から5年後、卓球はオリンピックの正式種目となる。
ニーのInstagramには多言語でコメントするファンが多く、多くの中国人ファンは、彼女を「ニーおばさん」という敬称で呼ぶ。
「私は卓球をする人、しない人、若い人、年配の人、中国人のファン、世界のファンのために競技を続けられていて、とても幸運だと思います。私からポジティブなエネルギーやモチベーションを得てくれているなんて、とても感動的で、とてもありがたいことです」
「自分にはそんなに多くの能力はないのですが、努力や、積み重ねることの精神があってこそ、多くの人が私を見てくれているのだと思います。私たちの世界全体がコミュニティーなのです。上向き(ポジティブ)の精神で、スポーツマンシップを存分に発揮できれば、多くの人の心に響くと思います」
「スポーツにおけるハードワークの精神に終わりはありません。私の努力の原点はそこにあります」。