宇野昌磨が引退会見「失敗も成功も自分にとって宝物のような時間」

フィギュアスケート男子シングルで2大会連続のオリンピックメダルをはじめ、世界選手権2連覇を達成している宇野昌磨が5月14日、都内で引退会見を開き、その胸中や今後の展望を語った。

1 執筆者 Yukifumi Tanaka / 田中幸文
引退会見をするフィギュアスケート男子の宇野昌磨
(時事)

フィギュアスケート男子シングルで2大会連続のオリンピックメダルをはじめ、世界フィギュアスケート選手権大会では日本男子としては史上初となる2連覇の快挙を成し遂げた宇野昌磨が5月14日、都内で競技からの引退会見を開いた。

宇野は、初出場した平昌2018冬季オリンピックにおいて、銀メダルを獲得。2度目のオリンピック出場となった北京2022では、団体戦で銀メダル、個人戦の男子シングルでは銅メダルに輝き、合計3つのオリンピックメダルを手にしている。

北京2022閉幕後に行われた世界フィギュア選手権2022で初めて世界タイトルを獲得すると、翌シーズンでは連覇を達成する。3連覇がかかった世界選手権2024では4位に終わり表彰台を逃していた宇野は、今後の進退について言及するなど、その去就に注目が集まっていた。

そして、今月9日に自身のインスタグラムを通じて競技からの引退を発表した宇野は、この日都内で行われた引退会見に臨み、その胸中や今後の展望を語った。

「フィギュアスケートで繋がれた全ての出会えた人たちにとても感謝」

「宇野昌磨からいつも応援してくださっている皆さんへ」と題された会見は、宇野が所属しているトヨタ自動車が運営するカフェラウンジにて司会者とのトークセッション形式で行われ、終始和やかな雰囲気で進行した。

黒のスーツとネクタイ姿で会見のステージに登場した宇野は、所属先ならではの踏み込んだ質問にも丁寧に答え、笑顔の絶えない清々しい表情が印象的だった。

会見の冒頭、宇野はファンに向けてのメッセージを送った。

「この度、私は現役フィギュアスケート選手を引退することとなりました。今日まで応援してくださった皆さん、とても感謝しています。また、今後もプロとして、スケートという道を続けていくことには変わりはないので、引き続き応援してくれると嬉しいです」

インスタグラムの投稿からこの日までの6日間、たくさんの反響があったと振り返る。

「SNSにはだいぶ疎い方なんですが(笑)、たくさんのメッセージ、本当にありがたく受け取っています。僕も引退という(この会見の)場について、あまり悲しいというよりも、すごく前向きな気持ち。そしてまだまだこれからもスケートを続けていくという意味でも、全然悲しい気持ちはない」
「悲しいと思っていただける方の声も、嬉しいかなと思うんですけれども、次に向かってまたスケートを全力で頑張りますという気持ちも込めての発表でもありますので、今後とも楽しく応援していただけるといいかなと思ってます」

宇野の引退に関しては、国際スケート連盟(ISU)も即座に反応するなど、世界を驚かせたのは事実だ。

「(世界を)沸かせただなんて思ってないんですけれど(笑)。でも、本当にそれだけたくさんの方がフィギュアスケートというものに注目してくださって、そして僕を応援してくださっていたんだなと思っています。このフィギュアスケートで繋がれた全ての出会えた人たちにとても感謝しているとともに、これからは僕が少しでもサポートできる部分があればいいなって思っているところです」

「フィギュアスケートとの出会いっていうのはすごく感慨深い」

宇野は通算6度の全日本チャンピオンに輝き、世界選手権では日本人としては初となる2連覇という快挙を達成しているが、その輝かしいアスリートキャリアは自身でも予想していなかったものだと振り返る。

「まさか僕がこういう選手になれると思ってなかったですし、まさか人前でこうやって喋れる人間になれるとも思っていなかった。本当にフィギュアスケートと出会えて、すごく感謝とともに驚きのことばかりです」
「まさかテレビで見ていたオリンピックの舞台とか、まさかそこでいい成績を残せるとは思っていませんでした。また、世界選手権で優勝する選手になれると、本当にこの3、4年前まで思っていなかった。フィギュアスケートとの出会いっていうのはすごく感慨深いものだなと思います」

世界選手権2連覇の王者への期待がのしかかる重圧の中、迎えた2023/2024シーズンは宇野にとって特別なものだった。

「1年間通して試合に出て、競技者としてやると決めたからには、結果を望みたいっていう熱い思いを感じさせてくれた後輩たちに本当に感謝しています」
「すごく、楽しかったな」
「これだけ全力を注げる場所が存在することが、とても良かったなって思っています。また、最後の1年間通しても、どの試合も全力で取り組んだ末の演技だったと思う。もちろん成功・失敗もたくさんあったかもしれませんけれども、両方等しく、僕にとっては失敗も成功も自分にとって宝物のような時間になったんじゃないかなと思います」

「本当に素晴らしいことを成し遂げることができた」

会見の終盤で、宇野はメディアからの質問にも応じた。

宇野は、引退を考え始めたのは2年前からだと打ち明けた。

「引退自体を考え始めたのは2年前ぐらいでした。ただそこから自分が引退する姿っていうのが、なかなか想像できない中で全力でスケートを取り組んできたんですけれども…それからいろんな経験をし、今に至るという形ではあります」
「ただ、コーチに伝えた時期に関しましては、全日本終わったタイミングで、ステファンコーチにこの次の大会で現役を引退しようと思うっていうのを伝えさせていただきました」

平昌2018以降に師事したステファン・ランビエールコーチと宇野の2人は、最も記憶に刻まれるほどの深い絆で結ばれているようだ。

「世界選手権で初めて優勝した後のステファンの喜んでいる姿っていうのは、すごく自分にとっても鮮明に記憶に残る思い出かなとは思います」

ミラノ・コルティナ2026を控える中での引退について、宇野はキッパリと未練がないと言い切った。

「正直、全くないです。自分としてはこれからまた自由にスケートをやれることの嬉しさとともに、昔の映像とかを振り返ってみても、本当によく頑張ったなって。ここまで毎日同じことを磨き上げれるっていうのは、自分のことなのであまり褒めちぎりたくはないですけれども、本当に素晴らしいことを成し遂げることができたなって僕は思っています」

宇野に憧れて、フィギュアスケートを始めた後輩スケーターも多い。そんな彼らに、宇野は熱いエールを送った。

「自分の映像を振り返って見ても、この数年間で技術含め、昔に比べると表現の部分でも本当に進化しているんだなっていうのを実感しました。どんどんどんどんハイレベルになっていくフィギュアスケートが今後も楽しみですし、日本の後輩の子たちみんな、マジでいい子しかいない。すごく仲もいいです」
「全員がいい結果をもちろん望みますけれども、自分が一番楽しく、自分が目指しているスケートを体現できる選手がひとりでも多く現れるといいなと思います」
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