村元哉中「これ以上に最高のパートナーはいない」高橋大輔「新たなスタートがここから始まる」|フィギュア・アイスダンス "かなだい" 引退会見

競技生活からの引退を発表した四大陸フィギュアスケート選手権2022銀メダリストの "かなだい" こと、アイスダンス日本代表の村元哉中/高橋大輔が5月2日に記者会見に臨み、これまでの歩みを振り返りながら、今後の目標を語った。

1 執筆者 Yukifumi Tanaka/田中幸文
フィギュアスケート/引退会見に臨む村元、高橋組
(時事)

フィギュアスケート・アイスダンスで日本代表を務め、四大陸フィギュアスケート選手権2022で銀メダルに輝く"かなだい" こと、村元哉中/高橋大輔の2人が、競技生活から引退することをインスタグラムの公式チームアカウントに発表してから一夜明けた5月2日、都内のホテルで記者会見に臨んだ。

会見は、大会時と同様、フランクに執り行いたいというふたりの希望から、着席ではなく立ったまま、報道陣に囲まれる取材スタイルで実施された。

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村元「ずっと目標にしてきた記憶に残る演技ができた」

ふたり揃って黒のスーツを纏って会見上に現れたその表情は、ともに清々しい様子だった。

「一夜明けて、まだ実感はないんですけど、ついに競技生活を終えたんだなと今、感じています(村元)」
「(去就について)言えなかった手前、発表できて自分的にもスッキリしています。僕自身は新たなスタートがここから始まるんだなと思っています(高橋)」

引退についての話し合いを持ちかけたのは、バンクーバー2010フィギュアスケート男子シングルで日本史上初のオリンピック銅メダルを獲得した高橋からだったと打ち明かした。

「引退するっていうことを伝えたのは僕から。伝えた時期は、四大陸選手権(2023年2月)の後に哉中ちゃんにお伝えして、今シーズンの世界選手権(同年3月)には引退することは、2人の中で決まっていた。ただ、引退をするという気持ちで世界選手権に挑みたくなく、いつも通りの形で挑みたいと思っていたことから、発表は世界選手権が終わってからにしようと…国別対抗戦(同年4月)の前には(引退を)発表しようかなと思っていたんですけど、色々やっていくうちにタイミングを逃してしまった(笑)」
「引退する大きな要因は、僕自身の右膝が限界を感じた。パフォーマンスする上では全然限界を感じていないんですけど、競技レベルでパフォーマンスをするところで、とくに今シーズンはレベルを取る技術的な部分で僕自身の努力ではどうしようもできないところに来てしまって…それ以上求めてやっていきたいんですけれども、そこに体がついていかない」
「そのことを払拭することができず、これで続けていっても成長という部分でやっていけないなと思ってしまい、(引退を)哉中ちゃんにお伝えしました」

息の合った演技が魅力のアイスダンスという種目では、パートナーの存在が重要だ。高橋から引退を伝えられ、3シーズンを共に滑り抜いてきた村元にとっては、少しも驚くことはなかったそうだ。

「結成当初、まずは2年スタートから始めていたので、いつ大ちゃんから引退すると聞いても覚悟していた。実際に話を聞いた時、まったくビックリしなくて、『そっか、やっぱそうだよね』と、自分の中では驚きはなかった。私も限界はまだ感じていないんですけど、これ以上に最高のパートナーはいないと感じています。まだまだ大ちゃんといろんな作品を創りたいと思えたので、新しいパートナーを探すという選択肢は全く出てこなかった」
「今シーズンの世界選手権が最後だなと決めて、国別対抗戦も含めて両試合を終えて、本当に最高の滑りができたので、今はうれしく思っています。そして、自分の中ではやり切ったのかなと…ずっと目標にしてきた記憶に残る演技ができたと思うので、次のステージが楽しみです」

高橋「哉中ちゃんがアイスダンスに誘ってくれたからこそ」

3シーズンを共に過ごした"かなだい"にとって、一番印象に残っている大会はそれぞれに異なるようだ。

「国別対抗戦(2023)は、本当に最後の試合と思って挑んだ。とくにフリーの日、めちゃくちゃ緊張はしていたんですけど、『この景色を、もう見ることはないんだ』とすごい実感して、今までにないくらいゆっくり会場を見渡して、『目に焼き付けなきゃ』と感じながら挑んだことは初めて。(会場の)みなさんが温かい空気を作ってくださって、本当にいい演技ができて、やりたいことを最後全部できた試合になった。そういう意味で、思い出深い試合になりました(高橋)」
「世界選手権(2023)は一生思い出になる試合なんですけど、今シーズンのスケートアメリカ(2022年10月)の前、怪我もあってハリケーンもあって、今までの私のスケート人生の中で一番大変だった。試合直前に大怪我をして、(試合に)出るか出ないかの選択肢が自分にあるっていうのが初体験で、いろんな葛藤があった。(出場するという選択をして)練習していない割にはいい演技ができて(笑)、チームとしても大ちゃんとの気持ちもグッと近くなった。スケートアメリカがあったから、今の絆に繋がるのかなと思います(村元)」

かなだいの競技デビューは、2020年のこと。コロナ禍を乗り越え、2人はアイスダンスを通じてそれぞれに大きな成長を遂げたようだ。

「アイスダンスをやっていなかったら、こんなにスッキリした気持ちで引退できていなかった。哉中ちゃんがアイスダンスに誘ってくれたからこそ、今こういう気持ちになれていることにすごく感謝している。アイスダンスを始めてからより一層、何かができない自分を受け入れられるようになったし、ちょっとしたことでも自分を褒めることで、前向きになっていく自分が出てきた。大変なこともたくさんあったんですけど、これから生きていく上で何があっても大丈夫という気持ちになれた(高橋)」
「一番初めは、大ちゃんに声をかけていいのかというところから始まった(笑)声をかけた後でも葛藤があった(笑)でも今となっては、あの時勇気を出して声をかけてよかったなと思います。大ちゃんと3シーズン練習をすることで、『見せる』ことの大切さを大ちゃんから教わりました(村元)」

たとえ、競技というアイスリンクに降り立つことはなくとも、かなだいの2人は今後もペアを組んで私たちの前に新たな形で "エンターテインする(=楽しませる)" ことを描いているようだ。

「哉中ちゃんが、競技を続ける選択をせずに、引退する選択をしてくれたので、"かなだい" としてまだまだパフォーマンスをやっていきたいと思っています。個人・高橋大輔としてもパフォーマンスをやっていきたい。競技復帰の時から、スケートを軸にエンターテインメントに携わっていきたい気持ちは変わらない。これから色んなことをしながら、派生していったものをどんどん広げていきたい。色んな形でエンターテインメントの世界に関わっていきたいなと思っています(高橋)」
「大ちゃんから"かなだい"としてパフォーマンスをしていきたいという話を聞いた時、自分の中でもその思いが強くありましたし、新しいパートナーを探さないと決めていたので、引退しても大ちゃんと色んな作品を創っていけることが楽しみ。25年間スケートしかしなかった人生なので、色んなことに挑戦したい。大ちゃんから『哉中は一人でも見せられるスケーターだよ』と言ってくれて、その言葉がうれしかった。個人・村元哉中として、表現者として、パフォーマンスしていけたらいいなという思いもあります(村元)」

これまでと同様、これからも "かなだい" のシナリオには、ワクワクのストーリーが待っているようだ。

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