日本列島が歓喜にわいた2023年ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で野球日本代表「侍ジャパン」が世界一に輝いてから1年。その采配を振るった栗山英樹前監督の後任として、昨年10月、侍ジャパンのトップチームおよびU-15の監督に井端弘和氏が就任した。11月には、就任後初の国際大会となったアジアプロ野球チャンピオンシップ2023で連覇を果たした。
今回、「侍ジャパンシリーズ2024日本vs欧州代表」戦(3月6日~7日、大阪)を目前に控えた2月22日、井端監督はOlympics.comの独占インタビューで日本代表チームや大谷翔平について語った。
日本代表チーム「日本の野球が強くあり続けるために先を見据えた」
Olympics.com:欧州代表との強化試合に向けて、どのようなポイントで選手を選んだのでしょうか?
井端弘和監督(以下、井端):プレミア12(WBSC世界野球プレミア12)が今年(11月に)あるので、そこに来てほしいとか、来るであろうという選手にはひと通りのオファーは出しました。その中で返事をもらったところで組み合わせていきながら、WBC組も入れないといけないし、アジアチャンピオンシップで活躍したり、もうちょっと見てみたいなと思った選手も入れ、さらに新しい力も入れて、自分の中でもイメージ通りの人選はできたかなと思います。先を見据えて、日本の野球が強くあり続けるために、若い選手をできるだけ起用していきたいと思っています。
Olympics.com:欧州代表との強化試合からプレミア12まで半年以上ありますが、その中で選手を選ぶ難しさはありましたか?
井端:まだワンシーズンあるので、急に活躍する選手も出てくると思います。有意義に選手を見ていこうと思っています。
Olympics.com:若手の1人、広島の田村俊介選手にはどういったプレーを期待していますか?
井端:(田村選手を)高校から見ていて、プロ1年目、昨年の2年目と伸び幅が広く順調に伸びてきていると思います。昨年秋のアジアチャンピオンシップにも候補で呼びたかったのですが、レギュラーシーズン中のけがのため(その時は)断念しました。(けがからの)復帰1戦目はアジアチャンピオンシップの前の広島と練習試合だったのですが、これが復帰直後のスイングかというほど素晴らしいスイングをしていて、この欧州代表との試合で呼ぶことはその時から決めていました。
Olympics.com:大学からは金丸夢斗投手と中村優斗投手を選ばれていますが、2人にはどのようなことを期待していますか?
井端:大学では能力が高いですし、プロでもじゅうぶん通用するピッチャーであるのは間違いないと思っています。金丸投手を初めて見た時、制球よく両コーナーへ投げていましたが、それが今では(球速が)150キロを超える能力の高い投手です。中村投手は、昨年12月に見た時、ストレートは全て150キロオーバーしており、平均球速が高いと思います。157キロまで出ていたかもしれません。彼をその時に(代表に)入れたいと思いました。
Olympics.com:侍ジャパンの顔のひとりと言える村上宗隆選手ですが、どういった役割を期待していますか?
井端:オリンピックとWBCの両方を経験し、しかも両方とも優勝しているのは彼しかおらず、ちょうど代表に同世代が入ってくるので、同世代からしてもありがたい存在と思います。これから長く日本が強くあり続ける上では、彼の存在は非常に大きいと思っていますし、よいも悪いも両方経験したというところでは今後の村上選手には期待しかないと思っています。
「年々レベルの上がる欧州代表に油断はできない」
Olympics.com:今回の代表チームを含め、欧州の野球のレベルや実力についてどのように考えていますか?
井端:年々(レベルが)上がっているのは間違いないですね。2015年も強化試合を行い1勝1敗でしたが、その1勝も8回に逆転して勝利したという点では2敗していた可能性もあるぐらい能力が高いと思っています。チェコやオランダも強いですし、スペインもイタリアもドイツもどんどんヨーロッパのレベルは上がってきているので油断はできないと思います。
Olympics.com:欧州代表のライナー・クルーズ投手(スペイン)は2014年から2年間、楽天でプレーしていましたが彼と対戦されたことはありますか?
井端:ないです。僕もジャイアンツにいたので名前は知ってます。どういうピッチャーかというところまではわかりますが、対戦まではしていません。
日本代表監督として侍ジャパンの次世代を考える
Olympics.com:トップチームを見ながら、U-15の監督も務められていますが、相当お忙しいのではないでしょうか?
井端:それぞれのとり方だと思いますが、自分は楽しいというか…。トップチームの監督が楽しいと言ったら怒られるかもしれないですが、これまでにU-12の監督をやらせてもらって、ちょうど今年最初に見た子どもたちが中学3年生になるので、どれぐらい伸びているのか、当時12歳のトップでやっていた子どもたちが15歳になってこれぐらいになったというところを見るのがすごく楽しみです。その後U-18で最終的にトップチームですが、侍ジャパンの各世代がうまく連携できるようにしたいとずっと思っていました。U-15の監督もやりますが、U-12もU-18も大学も含めて、顔を出して見ていきたいと思っています。
Olympics.com:各年代とトップチームとのつながりや明確なビジョンはあるのでしょうか?
井端:各世代の日本代表という点では、代表選手たるものはこういうものだと統一したいとは思います。各世代の憧れの的にならないといけないと思いますし、代表に選ばれても満足することなく次の世代でもがんばるといった心構えであったり、自分がこの世代を引っ張るんだという気持ちであったりうまく伝えていきたいと思っています。だからいろんなところに顔を出すようにしているのです。
Olympics.com:これまでオリンピック予選やWBCに代表チームのメンバーとして関わってこられましたが、監督という役割についてはどのようにお考えですか?
井端:勝ったら嬉しいですが、負けた時のことを考えるとぞっとします。それはわかっていることですが、それよりも日本が勝ち続けるためには守りに入りたくないと思っています。ずっと同じ選手ばかりであることは衰退の始まりですので、思い切って若い選手をどんどん使いたいという気持ちは強いです。(11月の)プレミア12だけを考えれば、今年実績がある選手でそろえて勝てるとは思いますが、次のWBC、(ロサンゼルス)オリンピック、また次のWBCといった先々を考えて人選したいと思っています。正直、勝てなくて言われるのは自分だけでいいかなとは思います。
WBC、オリンピックを見据えて
Olympics.com:次回WBCは2026年に開催されますが、今年11月のプレミア12からどのようにつないでいこうと考えていますか?
井端:WBCではメジャー組が来てくれるという点でそんなに心配していません。大切なのはその次からです。オリンピックやオリンピック予選となると、メジャー組が外れて出られないとなった時に、国内組でパッとチームを作ってしまって、特に選手がバタバタしないようにしたいと思います。ですから(プレミア12や)今回も含め、若い選手に1度でもジャパンのユニフォームを着てもらい、もう1度着たいという思いを持ってほしいと思っています。WBCやオリンピックに出たいと思えるだけでも変わってくるので、どんどん若い選手を起用して、その意識づけをしたいと思います。
Olympics.com:監督ご自身、選手としてオリンピック予選を経験されていますが、オリンピックの難しさはどんなところにあるのでしょうか?
井端:アテネも北京も味わったのですが予選はきついです。負けたらオリンピック自体に出られないというのはしんどいです。オリンピック予選の緊張感がいちばん大きかったと思います。WBCに出て準決勝で負けましたが、それとはまた違ったプレッシャーがあります。野球人生の中でも(きつさが)トップかなと思います。
大谷翔平のすごさ、将来の逸材「野球小僧」
Olympics.com:野球人として、大谷翔平選手のすごさはどこにあると思いますか?
井端:簡単に言えば、両方(二刀流で)世界のトップレベルでやっているところがまずいちばんすごいところですね。片方でもトップレベルになるのは難しい。メジャーリーグで両方ともトップレベルでできているというところが、彼のいちばんのすごさであるのは間違いないと思います。あとは人間性だと思います。少年野球では(大谷選手のような)ああいう選手はいっぱいいますが、そのままメジャーに行っちゃったという感じなのだと思います。大谷選手はどんな感じでやっているのかなと思った時に、たとえば高校生が小学生と野球をやればあのような感じの鬼に金棒になるかなと思って見ています。
Olympics.com:ベテランも若い選手もよくご存知である監督からして、大谷選手のような選手は今後出てくるでしょうか?
井端:イチローさんが向こう(アメリカ)であれだけの活躍をして、イチローさんよりも活躍する選手はいるのかなと思っていたところで大谷選手ですから。今後出てくるかわからないですが、出てきてほしいと思っています。でも、大谷選手よりインパクトを残すとなると、何か加えないといけないかもしれません。あとDHじゃなくて、先発でなかったら守るとかキャッチャーするとか。サイ・ヤング賞とハンク・アーロン賞を両方取るとか。それほど(大谷選手は)すごい選手だということです。
Olympics.com:U-15の監督もされていますが、伸びしろが大きいと思う選手の共通点はありますか?
井端:いちばんは野球小僧ですね。それは間違いないと思います。ちょっと休んでいけよと言っても、次に見たらもうすぐに野球をやっているような野球好き。落ち着きがないほどに、常にバットを持ったりボールを投げたり、本当に四六時中野球の話をしている選手はすごいなと思います。あとは集中力ですね。いろいろな選手がいますが、普段おとなしくても大事な話の時だけは集中したり、ぼーっとしていてもオンとオフの切り替えができる子どもには感心します。よく見ていると、すごく集中力があるか、常に野球小僧なのかのどちらかかと思います。そのような選手は楽しみです。