パリ2024体操競技の切符を掴むのは?日本代表最終選考会NHK杯開幕

執筆者 Risa Belllino
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第77回全日本体操種目別選手権 6月11日
写真: 2023 Getty Images

7月27日から8月5日にかけて、団体戦、個人総合のほか、種目別で男子6種目、女子4種目の体操競技が開催される、パリ2024オリンピック

日本選手たちは夢の舞台を目指し、5月16日から19日に群馬県の高崎アリーナにて開催される、日本代表最終選考会を兼ねた「第63回NHK杯」に挑む。

男子は、東京2020の個人総合と種目別(鉄棒)金メダリストの橋本大輝が唯一内定を決めており、残る4枠を巡る争いが激化している。NHK杯では、個人総合の成績で橋本を除く上位2名が選ばれ、残る2枠はチームへの貢献度に基づいて選出される(※)。女子は、NHK杯の上位4名がオリンピック代表に内定され、残る1枠はチーム貢献得点により選出される。

パリ2024オリンピック出場をかけた最終選考会で、誰がそのプレッシャーに打ち勝ち日本代表の座を掴むのだろうか。

※オリンピック各国代表の編成に関しては国内オリンピック委員会(NOC)が責任を持っており、パリ2024への選手の参加は、選手が属するNOCがパリ2024代表選手団を選出することにより確定する。

橋本大輝に続くのは?

NHK杯では、全日本選手権の予選+決勝にNHK杯当日の結果を加えた得点が最終結果となる。全日本選手権の男子上位6人は以下の通りだ。

  • 橋本大輝 176.164
  • 岡慎之助 172.264
  • 萱和磨 171.596
  • 杉野正尭 170.498
  • 土井陵輔 169.797
  • 田中佑典 169.764

橋本以降、2位の岡慎之助から6位の田中佑典まで、その得点差は2.5点。その後も、7位の松見一希が169.098点、8位の三輪哲平が169.063点と169点台が続き、NHK杯では少しのミスが命取りとなる。2位の岡、3位の萱はその緊張感の中、上位を維持することができるのか。

オリンピック出場への執念、完全復活で挑む 岡慎之助

2019年世界ジュニア選手権で、個人総合と団体2冠を達成し、体操ニッポンの期待の星として注目を浴びてきた岡慎之助。中学卒業後、15歳で社会人の強豪徳洲会体操クラブの門をたたき、オリンピック出場を目指して鍛錬を積んできた。2年前の全日本選手権個人総合の決勝で、跳馬の大技ロペスに挑み、右膝前十字靭帯を断裂。全治1年の大けがを負った岡だが、パリ2024出場を目指してリハビリにも耐え、選考レース前にカムバックを果たした。苦しい期間を過ごしただけに、集中力に磨きをかけてこの舞台に立つことだろう。

萱和磨「自分が仕上げてきた演技をするだけ」

初出場の東京2020オリンピック体操男子団体総合で主将を務めた萱和磨は、橋本大輝、北園丈琉、谷川航と共に銀メダルを獲得し、あん馬で銅メダルに輝いた実力者だ。この1カ月間で「着地まで美しく演技すること」に焦点を当て、着地の改善に励んできた。「厳しい戦いになるとは思うんですけど、オリンピックは自分が体操を始めたきっかけなので、それすらも楽しめるように演技したいなと思います」と語り、「2日間ミスなく自分の演技をする。オリンピック選考だろうがどんな大会だろうがやることは変わらない。自分の演技をやるだけなので、そこに集中したいと思います」と意気込んだ。

萱の背中を追うのが、あん馬と鉄棒を得意とする25歳の杉野正尭(たかあき)だ。東京2020の団体貢献度枠で代表の座を狙うも、僅差で逃し、悔し涙をのんだ杉野は、パリ2024でリベンジに燃える。また、今春から名門のセントラルスポーツに入社し、全日本選手権を4位で終え、NHK杯に駒を進めた土井陵輔にも注目だ。2022年世界選手権で日本団体の銀メダル、パリの団体出場枠確保に貢献した土井は、得意の床で得点を稼ぎ、パリへの切符獲得を目指す。

橋本大輝「パリが本当の勝負」

一方、内定している橋本は、NHK杯4連覇がかかる。4月14日の全日本選手権で4連覇を達成してから体調不良に陥り、練習を制限。NHK杯後パリ2024まで試合がないことから、オリンピックの前哨戦と位置づけて、今大会の出場を決めた。連覇のことは考えず、どこまで自身の演技をコントロールできるかを確認し、「パリまで自信を持っていけるように準備したい」と気持ちを整える。

構成としては、全日本選手権での平行棒6.3から6.1に難易度を下げて挑むことを検討しており、「完成度で勝負して、最後まで隙のない演技ができるようにしたい」と気合を込めた。男子2日目となる19日の演技が鍵だと話す橋本は、「体調不良になる前はちゃんと(練習を)積み重ねてきたし、心配ない」と力強く語り、パリ大会団体での金メダル、個人総合連覇に向けて、前を見据えた。

2023年体操世界選手権6日目:男子総合決勝で鞍馬に挑む、橋本大輝(2023年10月5日ベルギー・アントワープ)

写真: GETTY IMAGES

女子はトップ4で内定

全日本選手権の成績を振り返ってみると、1位から6位まで以下の選手が並ぶ。

  • 宮田笙子 109.798
  • 岸里奈 107.463
  • 中村遥香 107.131
  • 岡村真 106.530
  • 杉原愛子 106.496
  • 畠田千愛 105.265

点差は男子以上に開きがあるが、それぞれの選手が抱える思いと比例してプレッシャーも大きくなることだろう。上位の選手たちはそれぞれの覚悟を胸に、NHK杯に挑む。

エースとして成長を続ける、宮田笙子

日本女子の中心選手として期待がかかる宮田は、151cmと小柄ながら、脚力の強さと跳躍力を活かしたダイナミックな演技が強みだ。大会前日の公式練習後に、数日前に左内転筋を負傷したことを明かし、「演技に不安はないんですけど、痛みに不安はあるので…それをうまく乗り越えられるか」と懸念を示すも、「自分の中で自信を持てる練習はしてきたので、怪我に影響されないように、集中して演技したいと思います」とエースとしての自信を覗かせる。「まずは無事に終えること。やってきたことを出し切って優勝につなげられたら」と3連覇への意気込みを語った。

これまでも疲労骨折などの試練を乗り越えながら着実に成績を残し、女子エースに成長してきた宮田がみせる、パリを見据えた演技に注目したい。

岸里奈「自信は100%」

4月の全日本選手権で、宮田に続き2位となった16歳の岸里奈。そこからの1か月は、試合を想定した練習を取り入れたり、課題である着地の修正や、感覚練習としてトランポリンにも取り組んできたという。前日の会場練習では、「余裕をもって着地に入ること。平行棒などもひとつひとつ丁寧にやること。調子が良くても最後まで気を抜かないでやることを心掛けた」と語り、最終調整に余念がない。昨年のNHK杯では、優勝した宮田(合計161.063点)に僅か0.1点の僅差で2位。今年は、「周りの人に自分の演技で楽しく、笑顔になってもらいたい。余裕をもってきれいな体操を魅せれたら良いと思う。床の演技の、指先、足先まで意識のいった演技を見てもらいたい」と、「100%の自信」で本番に挑む。

若きホープ、中村遥香

2023年世界ジュニア選手権を制した中村遥香は、全日本選手権個人総合で3位に入った高校1年生の若きホープだ。NHK杯決勝当日に誕生日を迎え、16歳になる。中村はこの1年で初めて海外での試合に出場するなど、様々な面で経験値を上げてきた。大会前の練習後には「あまりオリンピックの年だからというのは感じていないですね。去年とあまり気持ちも変わっていない」と心境を語ると、「パリに出場することで16歳の良いスタートを切りたいなと思う」と続けた。

直近1週間は練習に打ち込み、さらなる強化をしてきたと話す中村は「調子がいいと思います。自信は90%くらい。1日目きっちり演技が出来たら、決勝はもっと思い切ってできると思うので、16日はノーミスでできるように頑張りたい」と意気込んだ。「平均台からの2種目が鍵」としており、集中力を切らさずに挑む。

3大会連続出場を目指す、杉原愛子

東京2020出場後、競技に一区切りをつけて体操の普及活動などに取り組んできた24歳の杉原愛子は、昨年6月の全日本種目別選手権で競技復帰を果たし、床で優勝を飾った。全日本選手権で5位に入賞し、4位の岡村真に逆転も狙えるわずか0.034点差で迎えるNHK杯で、パリ代表入りを狙う。

NHK杯出場選手

男女それぞれ4月11日から14日に開催された全日本選手権個人総合予選・決勝の合計得点上位者が出場資格を持つNHK杯。男子は、1日目の個人総合上位17名と、世界選手権個人総合優勝の橋本を含む18名に加え、個人総合出場者を除いた、1日目終了時点においてチーム貢献得点が高い種目別選手上位3名が2日目に駒を進める。女子は、1日目の出場者23名がそのまま女子2日目も出場する。

NHK杯視聴方法

  • 5月18日(土)NHK Eテレ(14:00〜16:50)
  • 5月19日(日) NHK BS(11:40〜13:05)
  • 5月19日(日) NHK 総合(13:05〜15:00)

また、4日間の競技の模様は、日本体操協会によるマルチアングルライブ配信で無料視聴することができる。

  • 女子1日目:5月16日(木) 11:30~17:00
  • 男子1日目:5月17日(金) 11:30~17:00
  • 女子2日目:5月18日(土)11:30~17:30 ※ミックスゾーンのみ~18:00
  • 男子2日目:5月19日(日) 9:00~16:00 ※ミックスゾーンのみ~16:30

NHK杯結果速報

体操競技、パリ2024までの流れ

  • 2022年10月〜11月:2022年世界体操競技選手権
  • 2023年10月:2023年世界体操競技選手権
  • 2024年1月15日:ユニバーサリティ枠の申請締め切り
  • 2024年1月〜3月:種目別ワールドカップシリーズ
  • 2024年4月〜5月あるいはFIGによって認められた日程:大陸選手権大会
  • 2024年6月:最後のパリ2024予選大会後、国際体操連盟(FIG)が国内オリンピック委員会(NOC)/国内競技連盟(NF)にパリ2024の出場枠を通知
  • 予選期間終了後:三者委員会がユニバーサリティ枠をNOCに書面にて通知
  • パリ2024のテクニカルミーティング開始まで:FIGが未使用出場枠の再分配を行う
  • 2024年7月8日:パリ2024エントリー締め切り
  • 2024年7月26日〜8月11日:パリ2024オリンピック競技大会