奥野春菜:異なる階級で世界制覇するも、東京五輪出場で立ちはだかる先輩とレジェンド

奥野春菜選手(赤)

10月の世界選手権、53キロ級で優勝した奥野春菜。世界一となった彼女だが、東京五輪の出場は保証されていない。彼女の前に立ちはだかるのは、大学の先輩で、55キロ級で世界選手権を制した向田真優と、女子レスリング界の“レジェンド”吉田沙保里だ。

吉田沙保里の同門。同年代の間で頭角を現す

奥野春菜は1999年3月18日、三重県津市で生まれた。2歳のときに吉田沙保里の父、栄勝が主宰する一志ジュニアレスリング教室に入門。父の竜司もコーチをしており、姉の里菜と一緒にレスリングの道に進むこととなる。

2011年、地元の久居西中学校に進学。4月のジュニアクイーンズカップ(中学生の部)48kg級に出場して3位となる。しかし、6月の全国中学生選手権52kgの3回戦で、けい椎を損傷し、長期のリハビリ生活を余儀なくされた。翌年に復帰し、52kg級でジュニアクイーンズカップに出場するも3位。再び全国中学生選手権のマットに立つが、1学年上の向田真優に敗れてベスト4となる。11月の全国中学選抜選手権も、準決勝で1学年上の入江くみに敗れ、3位決定戦も1学年上の河内美樹に敗れてしまった。

3年生になると、タックルが1点から2点になるルール変更が行われる。これは、タックルを重視する一志ジュニアで指導を受けてきた奥野にとり、追い風となった。全国中学生選手権、全国中学選抜選手権で優勝。2014年2月に開催されたクリッパン女子国際大会(スウェーデン)に、ジュニア・シニアの部48kg級の姉、里菜とともに出場する。カデット(16・17歳)の部52kg級の春菜は、決勝に進出するも、向田真優にテクニカルフォールで敗れて準優勝に終わる。

2014年4月、吉田沙保里が通った地元の県立久居高校に進学する。4月のジュニアクイーンズカップ(カデット)52kg級に出場するも、再び向田に敗れて2位。4月下旬のJOC杯カデットは、河内に敗れて2位となる。7月の世界カデット選手権では、3回戦で敗れるも、敗者復活戦を勝ち上がり3位に。そして、8月の全国高等学校総合体育大会(インターハイ)では、2歳上の今佑海を決勝で破って優勝に輝く。なお、奥野は高校3年間でインターハイ3連覇を達成する。12月の全日本選手権は55kg級に出場して3位だった。

2015年、再び52kg級でエントリーしたクリッパン女子国際大会は、決勝で南條早映を倒して優勝。しかし、ジュニアクイーンズカップでは、1学年下の南條に敗れて準優勝となる。アジア・カデット選手権、インターハイを制して臨んだ全日本選手権。53kg級でエントリーするも、1回戦で向田に敗れる。2016年はクリッパン国際、ジュニアクイーンズカップ、インターハイ、世界カデット選手権と、次々に優勝を重ねるも、全日本選手権では向田に敗れて2回戦で敗退した。翌2017年はクリッパン国際で連覇を達成。そして、高校を卒業した奥野は、至学館大学へと進学する。

至学館大学に進学し、階級変更で世界連覇を達成!

2016年リオデジャネイロ五輪では、48kg級で登坂絵莉、58kg級で伊調馨、63kg級で川井梨紗子、69kg級で土性沙羅が金メダルを獲得。53kg級でも吉田沙保里が銀メダルとなった。オリンピック後、伊調や吉田は大会に出場せず、2017年に入ると、東京五輪を見据えた国内での階級調整が本格化する。

大学1年生となった奥野は4月、ジュニアクイーンズカップ(ジュニア)で55kg級にエントリーする。しかし、同じ階級にエントリーした大学の先輩、向田に敗れて準優勝に終わる。その後のJOCジュニアオリンピックカップ(ジュニア)も55kg級で出場。53kg級でアジア選手権に出場する向田がエントリーしなかったこともあって、決勝の対戦相手は、同じ大学の同級生で、2016年の全日本選手権覇者の澤葉菜子となった。奥野は2-1で澤を制し、優勝を飾る。

そして6月、8月にフランスのパリで開催される世界選手権への出場を懸けた全日本選抜選手権に55kg級でエントリーする。奥野は南條、澤、実業団で実績を残している浜田千穂を破って優勝。53kg級の向田らともに、世界選手権の切符を手に入れた。そして、世界選手権では、イタリア、アメリカ、ブルガリア、ナイジェリアの代表選手を打ち破り、見事、金メダルに輝いた。

その後、全日本学生選手権は58kg級で出場し、決勝で澤を破って優勝。全日本女子オープン選手権(シニア)、ポーランド・ブィドゴシュチュで開催されたU-23世界選手権は、55kg級で優勝。全日本選手権は、奥野が53kg級、向田が55kg級でエントリーし、二人とも優勝した。

2018年、奥野は53kg級の選手として活躍を見せる。まず、3月のワールドカップ(団体戦)に出場。日本の優勝に貢献。4月のジュニアクイーンズカップ、6月の全日本選抜選手権で優勝。インドネシアで行われたアジア競技大会は、銅メダルに終わったが、10月にハンガリーで開催された世界選手権で優勝を果たし、53kg級と55kg級の異なる階級で世界連覇を達成した。

混沌とする東京五輪選考レース。奥野春菜の前に現れた壁は

2018年12月の全日本選手権。オリンピック4連覇の伊調と、リオデジャネイロ五輪63kg級の金メダリストの川井が57kg級で対戦し、伊調の復活優勝が大々的に報じられた。この大会、奥野は53kg級でエントリーしたものの、体調不良から試合直前で棄権する。

東京五輪の階級は50、53、57、62、68、76kg級の6つだ。奥野がエントリーした53kg級は、世界選手権で55kg級を制した向田が階級を下げて優勝を飾った。また、全日本選手権にはエントリーしなかったが、リオデジャネイロ五輪銀メダリストの吉田は、現役続行の意志を示している。

日本レスリング協会は、2019年の世界選手権でメダルを獲得した場合、その選手の東京五輪出場が内定すると発表した。世界選手権に出場できる選手は、今回の全日本選手権と、2019年6月の全日本選抜選手権の結果で決まる。果たして奥野は53kg級で、オリンピック出場の座を射止めることができるのか、6月の全日本選抜選手権が非常に重要な意味を持つ。彼女の動向に注目が集まっている。

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