ナショナルトレーニングセンターは2008年に開設された、国内トップレベルのアスリート強化のためのトレーニング施設だ。東京都北区に中核拠点を起き、国内各地にも競技別強化拠点が構えられている。日本スポーツ振興センターが管理し、日本オリンピック委員会が運用している。
世界最大級の柔道場など複数競技の施設がそろう
ナショナルトレーニングセンター(NTC)の中核を担う味の素ナショナルトレーニングセンター(味の素トレセン)は、国家レベルの強化活動拠点としては国内初のトレーニング施設で、2008年の北京五輪を前に建設された。日本オリンピック委員会(JOC)及びJOC加盟団体に所属する選手やスタッフのための専用施設だ。味の素トレセンは国立スポーツ科学センター(JISS)に隣接しており、アスリートたちは「トレーニング」「栄養」「休養」の3つの観点からスポーツと身体への理解を深め、日々強化に励んでいる。
味の素トレセンの大きな特徴は、複数競技のトレーニング場が集約されていることだ。屋内トレーニングセンターはウエストとイーストの2つに分かれている。
ウエストは地上3階、地下1階の施設。833畳と世界最大級の広さを誇る柔道場、レスリングマット6面、ボクシングリング2面、ハンドボールコート2面、バレーボールコート2面に加え、男女計10種目の公式器具が用意された体操場などがそろう。
一方のイーストは地上6階、地下1階から成るトレーニングセンターだ。国際規格のプール、フェンシング競技用ピスト30面、卓球コート24面のほか、アーチェリーやライフル射撃用の設備も整えられている。その他、屋内テニスコートや屋根付きの400メートル陸上トラックなども整う。多くのアスリートが集うことで、競技間の壁を越えた情報共有や共同でのトレーニングが実施できるというメリットが挙げられる。
なお、2019年の夏に拡充棟としてオープンしたばかりの屋内トレーニングセンター・イーストは、共用施設ではあるものの、パラリンピックをめざす障がい者アスリートが優先的に利用できる施設となっている。施設内には点字やバリアフリーを含め、文化や言語、国籍や年齢などに関係なく使用しやすいユニバーサルデザインが用いられている。共用コートでは車いすバスケットボールやボッチャ、ゴールボール、パワーリフティングなどの選手たちが鍛錬を重ねている。
平野美宇、張本智和などがNTCから世界へ
味の素トレセンは合宿施設としても国内トップクラスの設備を整えている。
「アスリートヴィレッジと呼ばれる宿泊施設は448名が宿泊可能で、宿泊室、栄養管理食堂、大浴場などのほか、研修やチームミーティング用の部屋も用意されている。また、競技によっては同施設で600日もの長期合宿を行うこともあるため、アスリートたちがリラックスできるようシアタールームや喫茶コーナー、インターネットコーナーなども備えられている。
味の素トレセンはトップアスリートの強化が主要な目的となっている。同時に将来の日本代表候補となるジュニア世代の選手育成、選手の指導にあたるコーチやスタッフの育成、さらにはトップアスリートの就職支援や引退時のキャリア支援までも行っている。
なかでもジュニア世代の選手を強化する「JOCエリートアカデミー事業」は、2008年4月から文部科学省と教育機関等が連携を図りながら注力してきた。対象となるのは中学1年生から高校3年生まで。全国各地から才能を見いだされて集められたジュニア選手たちが、近隣の学校に通学しながら競技に打ち込んでいる。
同プロジェクトに加入しているのは卓球、レスリング、フェンシング、飛び込み、ライフル射撃、ボート、アーチェリーの7競技だ。東京五輪代表に内定しているレスリングの向田真優、乙黒圭佑、乙黒拓斗、卓球の平野美宇、張本智和などがこの国家的プログラムを経て世界の舞台へと羽ばたいている。
異競技間の交流がスポーツ界の発展に
冬季競技や海洋・水辺系競技、屋外系競技など、味の素トレセンで対応できない競技については、全国各地に味の素トレセンと連携した「ナショナルトレーニングセンター競技別強化拠点」が指定されている。
たとえば、馬術なら御殿場市馬術・スポーツセンター、ゴルフならフェニックス・シーガイア・リゾート、近代五種は日本体育大学(東京・世田谷キャンパス)、自転車は日本サイクルスポーツセンター、セーリングの和歌山マリーナなど。スキーやアイスホッケー、スケートなどの冬季競技は北海道や長野県などに多くの拠点が設けられている。
なお、普段はトップアスリートやスタッフしか中を見ることのできないナショナルトレーニングセンターだが、2019年11月より「屋内トレーニングセンター・イースト」の一般見学が実施されるようになった。現在は新柄コロナウイルス感染拡大防止のため一時中止となっているが、東京五輪開催後に再開予定だという。
柔道の中村美里はロンドン五輪後にひざの手術を行い、リハビリ期間を国立スポーツ科学センター(JISS)で過ごす間に他競技の選手たちとふれ合うことで奮起し、リオデジャネイロ五輪でのメダル獲得につながったという。国内最大のアスリート強化の拠点は、日本スポーツ界の発展において大きな役割を果たしている。