喜友名諒:沖縄がルーツの空手、形で世界を席巻するのは沖縄出身の若き空手家 

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世界選手権3連覇中の喜友名諒 /AFP=時事

沖縄県にルーツのある日本の武道、空手が2020年東京五輪の競技として追加された。競技の母国として、日本人選手には当然、金メダルの期待が高まる。そうした中、最も金メダルに近いとされているのが、形で世界選手権3連覇を成し遂げている沖縄出身の空手家、喜友名諒だ。

レジェンドに師事し、沖縄から世界を目指す空手家に

喜友名諒は1990年7月12日、沖縄県沖縄市で生まれた。競技を始めたキッカケは5歳の時、同じ幼稚園に通う友人が空手を習っていたこと。両親に「自分も空手を習いたい」と伝えて、市内の道場に通うようになった。沖縄市立沖縄東中学校に進学すると空手部に入部。2年生のときに第12回全国中学生選手権大会に出場する。喜友名は決勝で「チャタンヤラ・クーシャンクー」を演武して優勝。団体戦でも優勝を果たした。なお、3年生のときは個人で5位、団体で3位だった。

喜友名の空手人生における転機は、中学3年生のときに、現在の師匠である佐久本嗣男氏の道場(沖縄劉衛流空手・古武道龍鳳会)を見学したことだった。佐久本は沖縄県出身、1947年生まれの空手家。劉衛流4代目宗家、仲井間憲孝に師事し、世界選手権個人形で3連覇のほか、ワールドゲームズ空手部門形競技において7連覇を達成した空手界のレジェンドだ。佐久本の道場で、世界選手権団体形で優勝した嘉手納由絵や、豊見城あずさの演武を見学したことで、喜友名は世界を目指すようになる。

喜友名は興南高校に進学。主な戦績は、2008年に大分県で開催された第63回国民体育大会(国体)の少年男子形個人戦で5位入賞を果たした。また、喜友名は「形」の選手というイメージが強いが、3年生の時には「組手」の選手としても、全国高等学校総合体育大会(インターハイ)の沖縄県代表に選ばれている。

沖縄国際大学に進学した喜友名は空手部に所属し、頭角を現す。2010年6月、2年生のときに参加した第54回全日本学生空手道選手権大会と東西対抗戦で3位。同年12月の第38回全日本空手道選手権大会で5位になる。そして翌2011年全日本学生選手権で優勝。決勝で披露した形は「パイクー」だった。さらに全日本選手権で準優勝という好成績を残した。

2012年、4年生となった喜友名は、国際大会で実績を積み重ねる。5月に東京都日野市で開催された第2回東アジアシニア選手権大会では韓国、香港、台湾の選手に勝利を収め、優勝を果たす。そして7月1日行われた全日本学生選手権で連覇を達成。7月中旬にスロバキアで開催されたFISU第8回世界学生空手道選手権大会の決勝で、スペインのダミアン・キンテーロに敗れたものの準優勝。9月には前年よりスタートした世界空手連盟(WKF)が主催する世界最高峰の大会、「KARATE1プレミアリーグ」のトルコ・イスタンブール大会に出場。個人と、沖縄国際大学のメンバーと出場した団体の両方で優勝した。そして11月にはフランス・パリで開催された第21回世界空手道選手権大会に出場。結果は3位だった。この大会で優勝したのは、ベネズエラのアントニオ・ディアス。12月の全日本選手権では、沖縄県の男子として初優勝を成し遂げた。


世界選手権3連覇、全日本選手権7連覇と敵なしに

大学を卒業した喜友名は、劉衛流龍鳳会所属の空手家として競技を続ける。2013年7〜8月に掛けてコロンビアのカリで開催されたワールドゲームズでは銅メダルを獲得。この大会で優勝したのはディアスだった。同年9月、フランクフルトで開催されたプレミアリーグでは、新馬場一世を決勝で破り、優勝を果たす。同月、東京都で開催された国体では、再び決勝で新馬場と対戦。喜友名は「スーパーリンペイ」を演舞し、初の国体制覇を成し遂げる。10月、中国の天津で開催された第6回東アジア競技大会では銀メダル。同月にロシア・サンクトペテルブルクで開催されたスポーツアコード・ワールドコンバットゲームズで準優勝。この大会に優勝したのもディアスだった。12月の全日本選手権では、決勝で新馬場を破って連覇を達成。2013年の喜友名は、国内外にその存在を示すこととなった。

2014年は2年に一度、WKF主催の空手道世界一を決める世界選手権が、11月にドイツ・ブレーメンで開催される年だった。前回3位だった喜友名は、優勝候補の一角に挙げられる。喜友名は4月から劉衛流喜友名龍鳳館という道場を開くとともに、世界選手権に向けて精力的に準備を進める。8月、国内のライバルが集ったプレミアリーグ沖縄大会で優勝。10月の長崎国体でも優勝を収め、世界選手権に挑む。準決勝でフランスの選手を「スーパーリンペイ」で破ると、決勝では「アーナン」を演舞。地元ドイツの選手を破って優勝を果たす。

2016年10月、前回王者の喜友名はオーストリアのリンツで開催される世界選手権を迎える。準決勝の相手は、過去2回優勝のディアス。喜友名はディアスに対して、ここまで3戦3敗で、前回大会は対戦の機会がなかった。事実上の決勝戦と目された一戦で、喜友名が選択した演武は「スーパーリンペイ」。ディアスの演武も同じだった。互いに同じ演舞を披露した結果、軍配は喜友名に上がる。喜友名は決勝で「アーナン」を演舞し、キンテーロに勝利して2連覇を飾った。

そして、師匠の佐久本に並ぶ3連覇を目指し、喜友名は2018年11月、スペインのマドリードで開催された世界選手権に挑んだ。初戦からすべて5-0で決勝まで勝ち上がった喜友名が、決勝で選んだ演武は、劉衛流最高峰の技「アーナンダイ」だった。これは「アーナン」を進化させた技で、規定上国際大会でしか披露できないが、2017年のプレミアリーグパリ大会で初披露し、世界に衝撃を与えた演武だった。喜友名は5-0で地元のキンテーロに勝利。大会3連覇を達成する。また、喜友名はプレミアリーグでも年間王座を獲得。国内でも敵なしで、同年12月の全日本選手権大会で7連覇を達成した。


空手がオリンピック正式種目に。懸念はルール変更だけ!?

2016年、空手が東京五輪の競技種目になることが正式に決定した。空手の形で世界ランキング1位の喜友名に、母国開催のオリンピックで金メダルを獲得するチャンスが巡ってきた。しかし、オリンピックの正式種目に選ばれたことで、空手は大幅なルール変更を余儀なくされる。

これまで競技終了後に5人の審判が赤か青の旗を掲げ、旗の数が多い選手の勝利としてきたが、2019年1月から、審判員7人が技術点と競技点を評価することになった。従来のルールで圧倒的な強さを見せてきた喜友名にとり、このルール変更が、同2位キンテーロ、同4位ディアスといったライバル以上に「壁」として立ちはだかる可能性がある。新ルールが初めて適用される国際試合は2019年1月25日開幕のプレミアリーグパリ大会。喜友名がどのような成績を収めるかに注目が集まっている。

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