【プレイバック】決勝戦で敗れ、女子サッカーW杯2連覇は果たせず。なでしこジャパンの一時代が終わる

宮間あやがキャプテンとしてチームを束ねる

準優勝に終わり、アメリカのメンバーに健闘を称えられる宮間あや。キャプテンとしてチームをしっかりとけん引した

2011年、「なでしこジャパン」の愛称で知られるサッカー女子日本代表は、ドイツで行われた女子ワールドカップで世界一の称号を手にした。それから4年後の2015年、2連覇をめざして戦ったカナダ大会では、激戦を制しながら決勝まで駒を進めたものの、永遠のライバルであるアメリカに敗れ準優勝という結果に終わっている。

澤穂希は世界最多となる6度目のW杯出場

2011年はまさに、「なでしこジャパン」の年だった。女子ワールドカップ(以下W杯)優勝という偉業を成し遂げた彼女たちに日本中の祝福が注がれ、国民栄誉賞、紫綬褒章、流行語大賞とあらゆる賞に恵まれた。そして大きな期待を背負って挑んだ翌2012年のロンドン五輪では、決勝戦で惜しくもアメリカ代表に敗れはしたものの、銀メダルを獲得。なでしこジャパンの勢いは止まることがなかった。

国内に巻き起こった女子サッカーブームを一過性のもので終わらせないために、監督、選手、スタッフが一丸となり2015年のW杯優勝をめざした。世界王者として臨む舞台で、恥ずかしい戦いを見せるわけにはいかない。ライバルたちは以前よりも研究、対策を重ねてくる。さまざまな重圧を背負い、選手たちはカナダに出発した。

カナダW杯に選出された23名のうち、ドイツW杯で世界一を経験したのは17名。2011年、国際サッカー連盟(以下FIFA)による世界女子年間最優秀監督にも輝いた佐々木則夫監督が選んだのは「最後まで諦めない、なでしこらしい戦いができるメンバー」だった。

この大会でも当然、精神的支柱として注目されたのが、女子サッカーのパイオニア的存在であるMF澤穂希だ。当時すでに36歳という年齢に達しており、しばらく代表からは遠ざかっていた。それでも、佐々木監督はその経験値と技術をあらためて評価。澤は6度目のW杯出場となり「女子W杯最多出場選手」としてギネス記録にも認定された。キャプテンとしてチームをまとめ上げる役割を託されたのは、MF宮間あやだ。両足から繰り出される鮮やかなパスやセットプレーで攻撃の中心となれる司令塔で、他国からも「世界最高の選手」として警戒されていた。

多数の海外組も集結した。当時、オリンピック・リヨンでプレーしていたDF熊谷紗希、フランクフルトに所属していたMF安藤梢、モンペリエで4シーズンを過ごしていたMF宇津木瑠美、ヴォルフスブルクで存在感を見せていたFW大儀見(永里)優季、バイエルンでさらなる成長を遂げていたFW岩渕真奈がチームに合流。彼女たちには、ヨーロッパでの成長をチームに落とし込む働きが期待された。なでしこジャパンは新旧世代が融合した最強メンバーをそろえ、W杯2連覇を狙った。

3連勝で決勝トーナメントへ進出

当時FIFAランクの3位につけていたなでしこジャパンは、18位のスイス、49位のエクアドル、51位のカメルーンと同じグループCに入った。

グループリーグ初戦ではヨーロッパ予選を無敗で突破してきたスイスに苦戦しながらも、宮間のPKを守り切って1−0で白星発進を果たす。カメルーンとの第2戦では17分までに鮫島彩と菅澤優衣香が得点。2-1で勝ち点3を積み上げ、出場国のなかで一番乗りとなる決勝トーナメント進出を決めている。エクアドルとの第3戦は、エースの大儀見が開始5分に決めた1点を守り、1−0で勝利。3連勝でグループリーグを首位突破した。

決勝トーナメント1回戦ではオランダと対戦。グループAを3位で抜けてきた相手との試合はDF有吉佐織の代表初ゴールで幸先よく先制し、後半にはMF阪口夢穂の得点でリードを広げた。終了間際にはミスから1点を返されたものの、強度と集中力の高い守備で守り切って、2−1でオランダを下しベスト8に進出を果たした。

準々決勝ではオーストラリア相手に、中3日という過密日程を感じさせない積極的な姿勢を見せる。そしてスコアレスのまま迎えた87分、攻撃の切り札として72分に投入された岩渕が値千金の決勝点を奪取。勝利の立役者となった22歳のヒロインに日本中から称賛が送られた。

連覇まであと2勝。準決勝の相手は、前回W杯で唯一黒星を喫したイングランドとなった。前半のうちに宮間のPKで先制に成功したものの、わずか7分後に今度は相手にPKを与えてしまい、この大会で初めて同点に追いつかれた。後半は防戦一方となったが、アディショナルタイムに劇的な展開が待っていた。FW川澄奈穂美のクロスが相手選手に当たり、オウンゴールで勝ち越しに成功する。土壇場で2−1で決勝進出を手繰り寄せた試合後、指揮官は「勝とうとする気持ちがゴールにつながった」と選手たちを称えた。

涙の準優勝後、2016年に新時代がスタート

そして注目の決勝戦、ドイツW杯、ロンドン五輪に続き、またもなでしこジャパンの前に立ちはだかったのはアメリカだった。

これまで堅守を誇ってきた日本だったが、緊張と重圧からか前半16分までに4失点を喫してしまう。ようやく落ち着きを取り戻した27分、大儀見が1点を返すと、後半開始早々にも相手のオウンゴールで追加点を挙げる。しかし、4大会ぶり3度目の優勝を狙うアメリカの壁は厚く、さらに1点を許してしまう。反撃のチャンスをつかめなかったなでしこジャパンは、結局2-5というスコアで大会を終えることとなった。3位決定戦ではイングランドがドイツを1-0で下した。

決勝後、悔し涙を流した選手たちだったが、チームを束ね上げた宮間は「最高の仲間」への感謝を口にした。最後のW杯となった澤は「悔いなくやりきった」と清々しい表情を見せた。確かに目前で優勝を逃した悔しさは計り知れない。それでも前回大会以上の期待を背負いながらも決勝に進出し、あと少しで頂上にたどりつけた事実は、日本女子サッカーが飛躍的に成長していることの証明となった。

もっとも、翌年の2016年、リオデジャネイロ五輪ではアジア最終予選で敗退し本大会への出場権を獲得できなかった。なでしこジャパン躍進のキーパーソンとして、2007年の年末から指揮を執っていた佐々木監督は責任をとって退任している。澤は2015年限りで現役を退き、2011年のW杯優勝戦士らも全盛期を過ぎたと言わざるを得ない。

2016年4月には高倉麻子監督による新体制が発足した。世代交代を図ったチームは、2018年4月のアジアカップで2連覇を達成。5位以内に入ったことで、2019年6月に開幕するフランスW杯への出場権を獲得した。グループリーグではアルゼンチン、スコットランド、イングランドと対戦する。8大会連続8度目のW杯で、2大会ぶりの世界王座に返り咲けるか──華々しい完全復活をめざし、なでしこたちは強く、しなやかに突き進んでいく。

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