宇津木瑠美:若手の多い「新生なでしこ」を豊富な経験値で支える縁の下の力持ち

宇津木瑠美は16歳で日本代表に選出され、プロ転向と同時に海外へ渡った

2月27日〜3月5日まで、アメリカで開催された国際親善試合「シービリーブスカップ2019」。女子サッカー強豪国であるイングランド、アメリカ、ブラジルとの総当たり戦で日本は1勝1敗1分と、半年後に控えるFIFA女子ワールドカップ(6月、フランス)に向けて課題を残した。若手中心でのチャレンジを掲げるチームの中で、2011年ワールドカップ優勝、3カ国でのサッカーを経験してきた宇津木瑠美は、どのような役割を果たすのだろうか。

シービリーブスカップ2019 第2戦ブラジル戦、先発出場で勝利に貢献

日本初出場となったシービリーブスカップ2019(2月27日〜3月5日、アメリカ)。FIFA女子ワールドカップ2019フランス大会が、約半年後に迫る中、グループステージ第3戦で戦う強豪イングランドも出場するだけに、ワールドカップ前哨戦として注目が集まった。

初戦、世界ランク1位のアメリカ戦で2-2の引き分け。“新生”なでしこジャパンは、若い世代のアグレッシブな攻撃参加や、スムーズな連携からの得点は、今後の期待を高めたが、中盤とディフェンス間の隙を突かれた失点が目立った試合だった。

守備面での不安もあってか、迎えた第2戦で、いよいよ宇津木瑠美が守備的MFとして先発出場した。前半には、MF籾木結花の巧みなループシュートが決まり、先制に成功。アラはあるものの、個々の運動能力に長けたブラジル代表相手に、しっかりと人数を割いて、宇津木を中心に機能的に守った日本は、危なげなく前半を1-0で折り返した。

しかしながら後半に入ると、ゴール前での混戦から文字通り、こじ開けられた格好でブラジルに同点にされる。その後、宇津木は途中交代となったが、途中出場のFW小林里歌子、MF長谷川唯(ともに日テレ・ベレーザ)のゴールで3-1の勝利を飾った。

そして第3戦、対イングランド。スターティングメンバーに宇津木の名前がなかった。強いフィジカル、巧みな個人技、組織的サッカーというイングランドの強さを象徴するような攻撃を浴びた新生なでしこは、前半に3失点。そのままゲームは終了して、痛い敗北を喫した。

直近3戦で6失点という結果は、ワールドカップに向けて守備面に大きな課題があることを浮き彫りしたが、宇津木は「今しかできない失敗」と評した。今も海外クラブチームに所属し、抱負な経験を持つベテランとして、その意義を伝える使命があるという。

日本、フランス、アメリカの3カ国で得た経験を還元

宇津木瑠美は、1988年12月5日生まれ。神奈川県出身。身長168センチ、体重59キロ。MFやDFを務める。2歳からボールに触れ始め、幼い頃から川崎ウイングスFC〜川崎フロンターレジュニアに所属し、男子に混じって練習を重ねる。14歳でなでしこリーグの日テレ・ベレーザに入団。16歳で日本代表に選出された。

その後、21歳でプロへと転向し(なでしこリーグはプロではなく、実業団リーグとされる)、同時にフランス女子リーグ、モンペリエHSCに移籍。翌年に開催されたFIFA女子ワールドカップドイツ大会では、日本の優勝に貢献、2015年のカナダ大会でも、レギュラーとして、日本が2大会連続で決勝進出を果たす原動力となった。

また、オリンピックでは2008年北京、2012年ロンドンの2大会を経験し(2016年リオデジャネイロはコンディション悪化により予選を欠場。日本は予選敗退)、ロンドンオリンピックでの銀メダル獲得にも貢献した。

2016年からは女子サッカー界の本場であるアメリカNWSLのシアトル・レインでMFとしてプレーしている。日の丸を背負って戦う上でも避けては通れないアメリカ代表勢と、常に一緒にプレーできる環境は、宇津木にとって、そしてなでしこジャパンにとってもプラスとなる経験だろう。今年で3年目となるシーズン。開幕戦を4月14日(日本時間15日7時キックオフ予定)に控え、個人としてのパフォーマンスやコンディションにも注目が集まっている。

若手に必要な海外組との“間合いの取り方”をどう伝えるか

シービリーブスカップを目前に控えた1月31日からの5日間、なでしこジャパンは28名の代表候補者合宿を行った。昨年U-20女子ワールドカップを制したチームから、さらには『なでしこチャレンジプロジェクト(次世代のなでしこジャパンに挑戦する選手を発掘・育成・強化するJFAのプログラム)』からも引き上げられた、フレッシュな顔ぶれが中心のチーム編成となった。その中で唯一の海外組として参加した宇津木は、積極的に若い世代とコミュニケーションを取っていた。

国際試合の経験はあっても、国内リーグだけでプレーする選手たちにとって、リーチや高さが圧倒的に違う海外選手との間合いを取った守備は簡単ではない。

「みんなが思っているよりも、もう1歩2歩相手に寄せないと意味がない」。

そう言って合宿において宇津木が若いチームメイトに伝えてきたのは、ディフェンスにおける間合いの取り方だそうだ。

宇津木には、フランス、アメリカ、そして代表として海外で培ってきた危機察知能力とハードな守備で、チームや代表を度々救ってきた経験を、若い世代へ伝達する使命がある。合宿時のオフザピッチで、意見交換を交わす姿を見える限り、本人もそれを重々感じている様子だ。

実際にシービリーブスカップでは、以前よりも相手選手との間合いがやや近くなっていると感じられたことからも、宇津木の存在が大きいのは明らかだろう。しかしながら失点を振り返えると、その間合いを詰め切れないことによって相手に選択肢を与えてしまうシーンがやはり目に映った。

「海外の選手は日本の選手たちのプレースタイルをわかっています。その中で自分たちが今までできたことをやるだけでは勝てないからこそ、“今しかできない失敗”を増やしていきたいです」

シービリーブスカップで課題となった、なでしこジャパンの守備を、“今しかできない失敗”として、これからどのようなチームに変革し、強化させていくのだろうか。ワールドカップ、そして、東京オリンピックで、なでしこジャパンの“成功”を勝ち取る上で、キーパーソンである宇津木瑠美の活躍は必要不可欠だろう。

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