2020年東京五輪のセーリング競技会場は、神奈川県藤沢市の江の島ヨットハーバーを拠点に相模湾で決定した。セーリング日本代表チーム“日の丸セーラーズ”は全10種目で出場枠を確保しているが、世界レベルの実力にない種目は出場しないなど、厳しい選考方針を打ち出している。風の力だけを使ってヨットを走らせ、速さを競う「セーリング」競技は、本場のヨーロッパほど、日本国内では馴染みがない。ここでは、男子のセーリング種目について紹介してみよう。
種目が船種ごとに分類されるセーリング競技
帆のついた小型艇を操り、直径1〜2kmの海面に設置されたマーク(ブイ)を決められた回数、決められた順序で回りながら、フィニッシュラインを目指す海上レース。近代オリンピックが始まった1896年の第1回アテネ五輪から正式種目に採用されていた伝統ある競技で、そのときは天候不良で中止になったため、実際には1900年のパリ五輪より実施されている。1996年アトランタ五輪までは「ヨット」と言う呼称で、2000年シドニー五輪より「セーリング」と呼ばれるようになった。
セーリングの特徴のひとつは、低得点方式を採用していることだろう。1位は1点、2位は2点というように、着順と得点が比例する方式なので、全レースを終了した時点で、最も得点が少ないチームが優勝となる。この方式が採用されている理由は、レース中に反則行為などがあった場合、ペナルティとして加点されるためである。
レースは、国際的な海上ルール(海上衝突予防法)に基づいて行われる。レース中の衝突・進路妨害などで不利を被った場合は、不利を被った選手がレース後に抗議書を提出。双方の選手が出席して、審判団(ジュリー)が面接審議を行い、判定を下す。ただし順位が決まる最終レース(メダルレース)では、海上判定システムを採用。選手艇の後方を伴走する審判艇によって、その場で瞬時に抗議の判定を下す。審判団は、選手の所属国によって不利益が生じないように、日本を含む世界各国の上級審判で構成される。
セーリングは艇種ごとに、種目が分類されている。
RS:X級(1人乗り)
男女共通種目。全長2.86m、全幅0.93m、重量15.5kgのウインドサーフィンボードを用いる。リオデジャネイロ五輪では、金・オランダ、銀・イギリス、銅・フランスで、日本の富澤慎は15位。
470級(2人乗り)
男女共通種目。全長4.7mのディンギー(船室を持たない小型の船舶)を用いる。舵と主帆(メインセール)を操るスキッパー(艇長)と、前帆(ジブセール)を操るクルーが乗り込む。リオデジャネイロ五輪では、金・クロアチア、銀・オーストラリア、銅・ギリシャで、日本の土居一斗・今村公彦は17位。
49er級(2人乗り)
男女共通種目。全長4.99m、全幅2.90m、艇重量125kgのディンギーを使用。スキッパーとクルーは極細のワイヤー(トラピーズ)で体を支え、艇外に乗り出してバランスを取りながら操船する。リオデジャネイロ五輪では、金・ニュージーランド、銀・オーストラリア、銅・ドイツで、日本の牧野幸雄・高橋賢次は18位。
レーザー級(1人乗り)
男子のみ。全長4.23m、幅1.37m。世界で最も普及しているディンギーを用いる。リオデジャネイロ五輪では、金・オーストラリア、銀・クロアチア、銅・ニュージーランドで、日本人選手は参加せず。
フィン級(1人乗り)
男子のみ。セーリングでは最古の種目。全長4.51m、幅1.50mのディンギーを用いる。リオデジャネイロ五輪では、金・イギリス、銀・スロベニア、銅・アメリカ。日本人選手は参加せず。
フォイリングナクラ17級
前回大会から採用された新種目「ナクラ17級」が、全長5.25mのカタマラン(2つの船体を甲板で平行につないだ“双胴艇”)のヨットに「フォイル」と呼ばれる水中翼がついた「フォイリングナクラ17級」に、2020年東京五輪から一新される。最高速度は時速50kmと従来のヨットの2倍近い速さになる。オリンピックのセーリング中で、唯一、男女混合で行われる競技。導入まもないこともあり、乗りこなす技術どの国にもメダルのチャンスがある。
スタート前から始まる駆け引き。日本にメダルの可能性はあるのか。
天候や風向き、潮流など、あらゆる要素がレースに影響を及ぼす。海という大自然を舞台に競うことがセーリングの醍醐味だ。10〜12レースの合計で予選ラウンドを行い、上位10艇で最終レースを争う。どのポジションからスタートするかで有利・不利があるため、レース開始前から駆け引きが行われる。最初のマークにたどり着いた船を先頭に、船団は縦長となるため、スタートが重要になるのだ。49er級、RS:X級といった高速種目は、30分程度でフィニッシュを迎える。低速種目の470級、レーザー級、フィン級は50分程度でフィニッシュ。最も速度の出るナクラ17級のトップは、15分強でフィニッシュする。
東京五輪の予選は、2018年8月にデンマークで開催された世界選手権からスタート。日本は開催国枠として、東京五輪に男子5、女子4、混合1の全10種目で1つずつ出場枠が与えられている。ただし、日本セーリング連盟は“出場資格を得た国と同程度の実力がない種目は、東京五輪に出場しない”という選考方針を打ち出している。具体的には、2019年のクラス別世界選手権で3位以内に入った日本勢の最上位を特別推薦とする。
セーリングは、アメリカが強いというイメージだが、近年はイギリスとオーストラリアが2強で、ヨーロッパ勢が続いている。日本男子セーリングの獲得メダルは、2004年アテネ五輪の470級、関一人・轟賢二郎による銅メダルのみ。それでも470級はリオデジャネイロ五輪まで9大会連続出場と、世界レベルの選手を輩出している。
2018年8月にデンマークで開催された世界選手権では、磯崎哲也・高柳彬が銀メダルを獲得した。磯崎・高柳ペアは、9月にインドネシアで行われたアジア競技大会でも金メダルを獲得しており、東京五輪での活躍が期待されている。また、同大会49er級では、古谷信玄・八山慎司が、この種目で初めてとなる金メダルを獲得している。
いよいよ2019年に入り、代表選考レースが本格化する。誰が東京五輪の代表に選ばれるのかに注目が集まっている。