【アスリートの原点】渋野日向子:「笑顔のシンデレラ」は少女時代、ゴルフとソフトボールの二刀流。高校3年次は就職も検討

高校野球は「何より全力プレーがいいんです」

3 執筆者 オリンピックチャンネル編集部
2018年7月27日、プロテストに合格した際の写真(右)。一度目の2017年はパスできなかった

「笑顔のシンデレラ」こと渋野日向子(しぶの・ひなこ)が産声をあげたのは1998年11月15日。晩秋に岡山県岡山市で生まれた赤ん坊は今、日本女子ゴルフ界を代表する選手になっている。プロ2年目、20歳の若さで全英オープンを制したプロゴルファーの成長には、ソフトボールと野球の経験が大きく生きている。

小学生時代は運動神経抜群で、腕相撲もクラスで連戦連勝

8歳の時、ゴルフを始めた。親友の父がゴルフ練習場の関係者で、無料体験会に誘われたのがきっかけだった。ゴルフ初体験ながら、周囲の大人たちを驚かせたという。

小学2年生がクラブを振るたびに、ボールは美しい軌道で飛んでいく。1時間ほど集中してボールを打ち、いきなり才能の片りんを見せつけた。レッスン後、母に「ゴルフ、やってみる?」と聞かれると「やる!」と即答し、練習場に通う日々が始まった。当時からプレー中にお菓子を食べる習慣があったという。

ゴルフと同時にソフトボールにも励んだ。ポジションは主にピッチャー。バットを振るのも好きだった。特に高校野球にのめり込んでいて、プロゴルファーになってから「何より全力プレーがいいんです」と話したことがある。

ゴルフとソフトボールの二刀流が示すとおり、運動神経は群を抜いていた。ドッヂボールでは男子顔負けの球を投げ、腕相撲もクラスで連戦連勝、運動会のリレーでは頼れるアンカーだったという逸話が残されている。

地元の上道中学校に入学後は、ゴルフの体づくりの意味もあって軟式野球部で汗を流した。

女子は自分一人だけ。野球少年たちとの体力差を意識し始めた中学2年次、ゴルフの岡山県ジュニア選手権で優勝を果たす。野球部の監督から「ゴルフで勝負したほうがいいんじゃないか」と提案され、バットでなくドライバーを軸に進む道を選んだ。

高校2年次には全国大会の女子団体で優勝を経験

中学時代に岡山県ジュニア選手権で3連覇を果たし、卒業後はゴルフ部のある県内の作陽高等学校に進学する。1年次の2014年には中国女子アマチュアゴルフ選手権競技を制し、2年次の2015年には全国高等学校ゴルフ選手権大会の女子団体メンバーとして、同校の7年ぶり2度目の優勝に貢献した。

ただし、同じ年の畑岡奈紗や勝みなみなどに比べ、自分には個人タイトルが欠けていた。プロでやっていけるか、不安だった。3年次にはゴルフ部の監督に「大学にもプロにも行かないで、就職しようと思っています」と相談した。悩みを打ち明けられた監督は渋野の才能を信じていたから、「お前がプロにならなきゃ誰がなるんだ!」とたきつけた。

2018年、2度目の挑戦でプロテストに合格する。翌2019年には全英オープンで日本人女子42年ぶりの海外メジャー制覇を果たしてみせた。「スマイルシンデレラ」は、しかるべき道を歩んできた。だからこそ今、東京五輪出場を見据えられる状況にいる。

ソフトボールと野球の経験は小さくない。「バッティングの経験がなければ、ゴルフのスイングスピードも違っていたかもしれない。ピッチャーとして打ち込まれ、頭に血がのぼる自分を落ち着かせようと、もがいた経験も大きい」と話したことがある。母からの提案、中学時代の野球部の監督、そして高校時代のゴルフ部の監督の言葉を真摯に受け止めてきたからこそ今、笑顔を絶やさずホールカップへ続く過程に打ち込める。

選手プロフィール

  • 渋野日向子(しぶの・ひなこ)
  • ゴルフ選手
  • 生年月日:1998年11月15日
  • 出身地:岡山県岡山市
  • 血液型:AB型
  • 身長/体重:165センチ/62キロ
  • 出身校:上道中(岡山)→作陽高(岡山)
  • 所属:サントリー
  • オリンピックの経験:なし
  • インスタグラム:Hinako Shibuno(@pinacoooon)

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