原田海:チームに不向きな自身を理解し、周りに染まらぬ個性で高みを目指す【アスリートの原点】

内定問題の混乱を乗り越え東京五輪代表に内定

1 執筆者 オリンピックチャンネル編集部
16歳で初の全国大会出場を経験。2018年の世界選手権のボルダリングでは優勝を手繰り寄せている

原田海(かい)は2018年の世界選手権ボルダリングで優勝し、翌2019年の同選手権複合では日本勢2位に立って東京五輪出場を決めた。一時は国際スポーツクライミング連盟と日本山岳・スポーツクライミング協会の解釈の違いによる内定問題に巻き込まれたが、本人は冷静を保った。「オリンピックはあくまで通過点」と語る男のルーツとは。

チームスポーツに不向きだった少年がクライミングには没頭

原田海(かい)は1999年3月10日に大阪府岸和田市で生を受けた。

幼いころから身体を動かすのが好きで、サッカーやバスケットボールのチームに入り、陸上部では短距離走の選手として活躍していた。しかし徐々に自身の自我の強さに気づいたという。周りに合わせることが得意ではなく、常に周囲と違うことをやっていたい──コーチや誰かに何かを指導されるよりも、自分で方法を見つけたいという性格のため、チームスポーツには向いていないと悟った。

そんな時に出合ったのがクライミングだった。小学5年生、10歳の時に自宅近くのクライミングジム「スカイボックス」に出向いたのがきっかけだ。当時はとにかく高いところに登れるようになりたいという一心で、遊び感覚で楽しんでいた。同時に、ジムに来ている大人のクライマーたちにコツを教えてもらいながら、全員で同じ壁に挑み、切磋琢磨する魅力にはまっていった。

さまざまな大人と話す機会が多かったため、価値観を築くうえでも多くの刺激を受けた。筋トレも意味を理解せず、ただ取り組むのでは効果が小さい。本当にやりたくないと思うことはやらないが、面倒くさいと思ったとしても必要なことはやる。常に自分の頭で考えてトレーニングするスタイルを自然と身につけていった。

16歳になると初の全国大会出場を経験し、いきなり5位入賞を果たす。以降は着実に力をつけ、2015年にはボルダリング世界ユース選手権で2位に入るなど、年代別日本代表選手としても結果を残すようになっていった。

YouTubeチャンネルを開設し、競技力向上にもつなげる

誰かと競うことよりも、自分を高めていくことが楽しい。そうしたぶれない心を持つ一方、ライバルたちの動向ばかりが気になり、目の前の結果を優先してしまった時期があったという。初出場となった2018年の世界選手権までは金メダル獲得を意識しすぎるあまり、自分らしいスタイルを見失って悪循環に陥った。

それでも、大舞台を前に問題点に気づき、自分を修正できるだけの力を持つ。オーストリアで行われた世界選手権の本番では自分のパフォーマンスに集中することで、ゾーンに入る感覚を味わえた。その結果、見事にボルダリングで優勝を成し遂げ、周りに惑わされない大切さを実感したという。

日々のルーティンにこだわりはなく、ハマらないときはやらない、作らないのがルーティンだとも語ったことがある。クライミングは人との争いではない。それが原田の答えだった。

原田は競技の面以外でも、その個性を発揮する。

中学生のころからスマートフォンを持ち、ツイッターで日常のつぶやきを投稿するなどSNSを使いこなしていたことを生かし、クライミングについての情報発信を行っている。インスタグラムにはカラフルな壁を登る「インスタ映え」の写真が投稿され、「こんな状況だからこそ」と2021年3月に開設したYouTubeチャンネルでは、週一本の動画をアップして競技の魅力を伝えている。

自分の動作を他人に分かりやすく説明できるよう言語化しなければならないため、自身がその方法をしっかりと理解することが不可欠だ。積極的な情報発信はクライミングの認知向上だけでなく、自身のパフォーマンスの精度を高めることにも役立っている。

尊敬する人物は世界を舞台に野球人生を送ったイチロー。周りに影響されず、自分のスタイルを貫き、気づけばいつの間にか世界のトップに立っている。原田もそんな未来を見据えているのかもしれない。

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