7月30日から行われるTokyo2020(東京五輪)陸上競技の日本代表選手が出揃った。日本陸上競技連盟(JAAF)は、7月2日に「日本代表内定選手」として、全65名(男子43名、女子22名)を発表。これを日本オリンピック委員会(JOC)が7月6日に、正式に代表選手に認定した。
65名という人数は、陸上競技におけるオリンピック日本代表選手数としては、1964年東京大会の68名(男子52名、女子16名)に次ぐ多さ。これまで2番目に多かった前回リオデジャネイロ大会の52名(男子38名、女子14名)を大きく上回った。
1964年東京大会の際には存在した「開催国枠」(1種目1名は参加が許された)がなく、今大会では全競技者がワールドアスレティクス(WA/世界陸連)の設定する条件をクリアしての出場であることを考えると、その価値は非常に大きい。チームジャパンの顔ぶれを、特に活躍に期待が集まる種目を中心に紹介する。
男子
■注目は短距離種目、4×100mリレーは金メダルが目標
最も注目が集まるのは多田修平、山縣亮太、小池祐貴が出場する男子100mと、この3名を中心として200m代表のサニブラウン・アブデル・ハキーム、飯塚翔太、山下潤、さらにリレーメンバーとして選出された桐生祥秀、デーデー・ブルーノの全8名で「金メダル獲得」に挑む4×100mリレーといってよいだろう。
男子100mは世界記録保持者(9秒58)のウサイン・ボルトが引退後、この数年で全体の水準が高まってきている状況だが、多田(自己記録10秒01)、山縣(同9秒95=日本記録)、小池(同9秒98)が準決勝で自己新記録、あるいは自己記録に迫る走りができれば、ともに目標として公言している決勝進出の可能性は、ぐんと現実味を帯びてくる。
また、日本が「金メダル獲得」を最大目標として強化に取り組んできた男子4×100mリレーのメンバーは、100mに出場する多田・山縣・小池が中心になると見られるが、残る1人は桐生か、デーデーか、サニブラウンか。各選手が万全の状態で臨めるようだと、大会8日目の8月6日、22時50分から行われる決勝で、私たちは歴史的な瞬間の目撃者になれるかもしれない。
■男子110mハードルが期待の個人種目
個人種目で、男子100m以上の好成績を収める可能性を秘めるのが男子110mハードルだ。近年、複数選手によって日本新記録のアナウンスを連発させてきたこの種目だが、その記録は、とうとう日本選手権で「13秒06」まで更新された。
オリンピックや世界選手権本番でこの記録をマークすることができれば、メダル獲得は確実。金メダルまで手が届く可能性がある記録だ。これに挑むのが、その日本記録を樹立した泉谷駿介、前日本記録保持者(13秒16)の金井大旺、そして元日本記録保持者(13秒25)となった高山峻野の3選手。100m同様に、準決勝が正念場となるが、複数選手の決勝進出が夢ではないレベルまで来ている。
■競歩では複数メダルの可能性
「メダル量産」の期待が最も高いのは男子競歩。前回のリオ五輪で50kmの荒井広宙が銅メダルに輝いた。日本男子競歩勢は世界大会では常にメダル獲得を果たしており、2015年北京世界選手権50kmで谷井孝行が銅メダル、前述のリオ五輪、2017年ロンドン世界選手権50kmで荒井と小林快が銀・銅メダル獲得。そして2019年ドーハ世界選手権で、20kmの山西利和と50kmの鈴木雄介が優勝した。
50kmの鈴木は6月にコンディション不良を理由に代表を辞退したが、男子20kmにエントリーしている山西、池田向希、高橋英輝、また、50km代表の川野将虎、丸尾知司、そして鈴木に代わって代表入りした勝木隼人も、記録・国際大会での成績ともにワールドクラスの実力を有する選手たち。20km・50kmそれぞれで複数のメダルを獲得することは決して夢ではない。
■フィールド、長距離種目の注目選手
男子跳躍種目では、2019年ドーハ世界選手権に続き、橋岡優輝・津波響樹・城山正太郎の3名が出場する走幅跳と、戸邉直人と衛藤昂が代表に名を連ねた走高跳にメダル、入賞の期待がかかる。
走幅跳はドーハ世界選手権で橋岡と城山が決勝に進出、橋岡が8位入賞を果たした。東京五輪では、それを上回る活躍もあり得る状況だ。特に、橋岡自身が目標に掲げている「メダル獲得」を実現した場合は、日本新記録(現日本記録:8m40、城山)が誕生している可能性も十分にあるだろう。
男子走高跳は、参加標準記録(2m33)が本番でクリアできれば入賞圏内となる見込みだが、戸邉・衛藤ともにその実力は備えている。特に、2m35の日本記録保持者で、2019年WA世界室内ツアーチャンピオンの実績を持つ戸邉は、五輪で2m40をクリアしての表彰台を狙っている。この記録は世界歴代6位タイとなるもの。過去に、12名しかクリアしていない偉大な記録だ。
このほかでは、強化を兼ねた代表選考として考案されたマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)のシステムによって一気に競技レベルが高まった男子マラソン代表陣(中村匠吾、服部勇馬、大迫傑)が、札幌開催となった夏マラソンに挑む。「暑さのなかでのレース」「自国開催のアドバンテージ」を生かした走りが期待される。
また、参加標準記録の突破によってフルエントリー(1種目の最大出場数は1カ国につき3人まで)が可能となった男子400mハードル、3000m障害物も決勝進出の期待が膨らむ種目。なかでも、3000m障害物で今季すでに2回、日本記録を更新している三浦龍司が、オリンピックの舞台でレベルの高い選手たちと競り合うことで、再び日本記録を塗り替える可能性は十分にあるだろう。
女子
■競歩、マラソンで入賞を狙う
さて、ここからは女子に目を移してみよう。女子は今回22名がエントリー。これまでの最高人数だった2012年ロンドン大会の18名を上回り、初めて20名を超える陣容となった。
入賞の可能性が高いのは、札幌市で開催される20km競歩だ。2019年ドーハ世界選手権に出場した岡田久美子と藤井菜々子が、同大会で6・7位に入賞。2人はともに、それ以上の結果を狙っている。今回は、ワールドランキングによって河添香織が最後に代表入りを決め、男子競歩同様にフルエントリーも実現させた。
また、同じく札幌市で開催されるロード種目・マラソンにも期待が集まる。厳しい国内選考レースを経て代表入りを果たした前田穂南、鈴木亜由子、一山麻緒の3選手が、どんなレースを展開するか。アフリカ勢が強さを見せる中、少しでも上位でのフィニッシュを狙ってのレースとなるだろう。
■トラック&フィールド種目の注目選手
トラック&フィールド種目に目を移すと、100mハードルでのフルエントリーが新鮮に映る。参加標準記録(12秒84)の突破はならなかったものの、寺田明日香、青木益未、木村文子の3選手がワールドランキングによって代表入りを果たした。
今季、自己記録をともに12秒87(=日本記録)まで縮めてきた寺田と青木は、準決勝進出が狙える位置にいる。来年、2022年ユージーン世界選手権の参加標準記録は五輪同様12秒84。青木については日本選手権前に痛めた脚の回復次第だが、予選もしくは準決勝で、これを上回る日本新記録をマークすることが、新たなチャンスの扉を開くことになる。
中・長距離種目にも多くの選手が名を連ねた。新谷仁美、廣中璃梨佳、安藤友香が出場する10000m、田中希実、廣中璃梨佳、萩谷楓が出場する5000mは、どちらもフルエントリーが実現。さらに、これまで日本選手の出場が叶わなかった1500mでは、田中希実と卜部蘭の2選手が堂々の代表入りを果たしている。
5000mの出場権を返上して10000mのみに絞った新谷は、2012年ロンドン大会以来となるオリンピック。「結果を出す」ことにこだわってきたなかで、自身を大きくスケールアップさせてきた新谷が、この大一番でどんな走りを見せるかは必見といえるだろう。
2種目での出場を果たした田中、廣中は、どちらの種目も全力で戦う意向を示している。今後のキャリアを見据えるうえでも、若い2人にとって大切な大会となりそうだ。
このほか、やり投で参加標準記録(64m00)を大きく上回り、66m00という世界で戦えるレベルの日本記録を持つ北口榛花も見逃せない。2019年世界選手権では、通過ラインの12位に、わずか6cm届かず予選13位にとどまり、決勝進出を果たせなかった。女子のフィールド種目では、今大会唯一の出場者。ドーハで果たせなかった豪快なビッグアーチを決勝で描き、見せ場を作ってくれるはずだ。
4×100mリレーは、非常に厳しいとみられていた前評判のなか、5月の世界リレーで枠を獲得して出場を実現させた。代表メンバーには、兒玉芽生、鶴田玲美、齋藤愛美、青山華依、石川優とフレッシュな顔ぶれが並ぶ。日本選手権100m・200mで2冠を果たし、すっかり女子短距離のエースとして認知された兒玉を中心に、どんなオーダーで挑むかという点にも注目したい。