Tokyo 2020(東京五輪)女子テニスは、シングルスで優勝候補の1人と目されていた大坂なおみが3回戦で敗退。ベリンダ・ベンチッチ(スイス)が金メダルを獲得した。ここでは東京五輪の女子テニスを振り返る。
■「私にとって夢のような時間であり、とても誇りに思っています」
大坂なおみ(WTA世界ランキング2位、大会時、以下同)にとって、オリンピック初参加となった東京2020オリンピックは、ほろ苦い思い出になったのではないだろうか。
大坂は世界2位ということで、周囲からはメダル獲得の期待が高かったが、決して万全の状態で東京へ入れたわけではない。5月下旬の全仏オープン(ローランギャロス)では、うつ症状に悩まされてきたことを打ち明け、その回復に努めて試合から遠ざかっていた。いわば、ぶっつけ本番でオリンピックに臨むことになった。
第2シードの大坂は、日の丸をイメージした赤と白の編み込みをしたヘアスタイルで気合を入れ、初のオリンピックに臨んだ。女子シングルス1~2回戦では地力に勝って、ブランクを感じさせないようなプレーで勝ち上がった。
だが3回戦で、初対戦となった左利きのマルケタ・ボンドロウソバ(42位、チェコ)の術中にはまる。ボンドロウソバは大坂のグランドストロークの強打に対し、落ち着いて回転をかけながら深いボールを返した。さらに随所でバックハンドのドロップショットを効果的に決め、大坂をリズムに乗せなかった。またボンドロウソバはリターンの精度が良く、簡単なミスをほとんどしなかったため、大坂のセカンドサーブでのポイント獲得率は、わずか34%(8/23)にとどまった。結局大坂は、ボンドロウソバと同じ22本のウィナーを決めるものの、ミスを32本犯してしまう。そのまま最後まで立て直すことができず、1-6、4-6で敗れた。
ローランギャロス1回戦以来の試合だっただけに、ボンドロウソバ戦のようにリードされたり、プレッシャーをかけられたりする場面で、大坂はしばらく試合から離れていたことでうまく対処しきれず、悪影響が出てしまったのは否定できない。大坂にとって厳しい敗戦になったが、受け入れざるを得ない結果だろう。
母国である日本でのオリンピック開催で、日本代表としてこの大きな舞台に立てたことは、私にとって夢のような時間であり、とても誇りに思っています。今、自分にできるプレーはさせていただきましたが、皆さんの期待に応えることができずごめんなさい。もちろん結果には私自身も今はがっかりしていますが、これからもテニスプレーヤーとして前へ進むために、ベストを尽くせるようトライし続けていきます。
こう振り返った大坂は、今回のオリンピックでの開会式でテニス選手としては初めて聖火リレーの最終走者を担い、聖火台に点火する大役を果たした。オリンピックの理念である多様性や調和、そして、世界の新しい時代の象徴として、大坂はまさに適役だったと言えるだろう。
開会式では、聖火リレーの最終走者も務めさせていただき、聖火台へ点火させていただく栄誉もいただき、感謝の気持ちで一杯です。私自身の東京オリンピックはここで終わってしまいましたが、オリンピック・パラリンピックはこれからも続いていきますので、皆さんと一緒に日本代表のすべてのアスリートを応援したいと思います。
また、新型コロナウィルスのパンデミックが続く中でのオリンピック開催を踏まえ、心優しい大坂らしくさまざまな人々への感謝も忘れていない。
オリンピック関係者の方々、世界中でパンデミックと戦っている医療従事者の方々、そして、私を応援してくれた日本の皆さんに感謝を述べたいです。
初めてのオリンピックで、大坂にプレッシャーがなかったと言ったら嘘になる。コロナ禍での開催となり、しかも無観客で異例づくしのオリンピックであった。そのため、精神的にも負担は大きかったのではないか。幸いにも大坂は23歳でまだ若い。大坂は「将来的に、次のオリンピックにも、再び日本代表として出場できるよう努力していきます」と語り、再びオリンピックへ挑戦する意志を示した。
オリンピックが終われば、大坂は気持ちを切り替えてプロテニスツアーに戻り、8月の北米ハードコートシーズンに臨む。8月30日からは、ニューヨークで開催される今季最後のグランドスラム・全米オープンが控えている。ディフェンディングチャンピオンとして臨む大坂は、2連覇および3回目の優勝を目指す。一番相性の良い全米オープンのハードコートで再び頂点の座に就けるのか、大坂の大いなる挑戦が始まる。
■ベンチッチがスイス女子選手初の金メダル獲得!
東京オリンピック・テニス競技の女子シングルス決勝で、第9シードのベリンダ・ベンチッチ(12位、スイス)が、ボンドロウソバを7-5、2-6、6-3で破り、オリンピック初出場で金メダルを獲得した。ベンチッチはオリンピック・テニス競技で、スイス女子選手として初めてゴールドメダリストに輝いた。
夢が叶って本当に嬉しい。ここ(東京)で起きたことを言葉で表せない。これまでで最高の栄誉で、今後もこれを超えるようなものはないです。オリンピックで頂点に立てて、本当に嬉しいし感謝しています。
スイス勢としては、1992年バルセロナオリンピック・男子シングルスのマルク・ロセ、2008年北京オリンピック・男子ダブルスのロジャー・フェデラー/スタン・バブリンカに続く、3番目のゴールドメダリストとなった。
オリンピックに来られて本当に嬉しい。もし、今ここでキャリアが終わってもいいくらい嬉しいです。今回成し遂げたことは誰にも変えられない。この大会で力を貸してくれたみんなに感謝しています。
相手のグランドストロークのパワーとスピードを利用しながらタイミングよく打ち返すカウンターパンチャーであるベンチッチは、グランドストロークを深く打ち続け、特にバックハンドのショットにキレがあった。さらに、ドライブボレーを駆使しながらネットにも積極的に出て、オールラウンドプレーを展開。ベンチッチは決勝で29本のウィナーを決め、2時間30分におよんだフルセットの激戦の末、ボンドロウソバを振り切った。
また、ベンチッチは、ビクトリヤ・ゴルビッチ(50位、スイス)と組んだ女子ダブルスで銀メダルを獲得して、東京オリンピックで2つのメダルを獲得。ベンチッチは喜びをあらわにした。
2つのメダルを獲得できるのは本当に素晴らしい。メダルやタイトルだけでなく、永遠に残る思い出を作ることが大切です。ビッキー(ゴルビッチ)と一緒にこの(メダルの)ことを分かち合えるなんて信じられないです。
24歳のベンチッチは、ジュニア時代から才能を認められて将来を嘱望され、スイスの女子選手として多くの功績を収めたレジェンドであるマルチナ・ヒンギスからも才能を認められていた。だが2017年春に左手首の手術をして5カ月戦列から離脱。世界ランキングは300位以下に落ちる試練があった。その後復活を遂げ、2019年にはトップ10に返り咲く。東京の地でついに自身最高の結果を残してみせた。