卓球は張本智和と丹羽孝希がシングルス代表に。目の不調など満身創痍の水谷隼は団体戦要員で4度目のオリンピックへ【代表内定物語】

丹羽孝希と水谷隼はシングルス代表をかけ最後まで接戦

1 執筆者 オリンピックチャンネル編集部
男子卓球代表として東京五輪に参加する3選手。左から張本智和、水谷隼、丹羽孝希

2020年1月、日本卓球史上最も熾烈な争いと言われた東京五輪代表選考レースに終止符が打たれた。男子は若きエース張本智和が代表争いをリードし続け、残るシングルスの枠をめぐっては丹羽孝希(にわ・こうき)と水谷隼(みずたに・じゅん)がハイレベルな戦いを繰り広げた末、丹羽がシングルス代表の座を勝ち取った。

高校生の張本智和が早々にシングルス代表内定

卓球の東京五輪シングルス代表は2020年1月に発表される世界ランキングで日本勢2位以内に入ることが条件だった。

2019年の1年間の成績が反映されるランキングにおいて、早々にシングルス代表の座を勝ち取ったのは現役高校生の張本智和だ。張本は2018年12月のグランドファイナルで大会最年少優勝を果たし、2019年1月の世界ランキングで自己最高の3位に浮上すると、そのまま上り調子で安定した成績を残し続けた。

国際卓球連盟(以下ITTF)が主催するワールドツアーにおいて、張本は2019年6月の香港オープンで準優勝、8月のブルガリアオープンで優勝を果たしている。代表選考をリードし続け、11月のオーストリアオープン終了時点の獲得ポイント数で早くも日本選手2位以内を確定させ、シングルスと男子団体戦での東京五輪代表の選考基準をクリアした。張本自身にとっては初のオリンピックとなるが、リオデジャネイロ五輪金メダリストの馬龍(マ・ロン)を含む中国勢とも互角に渡り合える実力を持っているだけに、日本のエースとしての活躍が期待される。

一方、最後の最後まで熾烈な争いを繰り広げたのは、丹羽孝希(にわ・こうき)と水谷隼(みずたに・じゅん)だ。

男子日本代表のパイオニアである水谷は、2008年の北京大会でオリンピック初出場。続くロンドン大会も出場し、リオデジャネイロ五輪では、日本卓球界にシングルス初となるメダルをもたらした。丹羽は17歳で、ロンドン五輪に出場。リオデジャネイロ五輪では水谷、吉村真晴とともに団体銀メダル獲得に貢献している。

「吹っ切れた」丹羽孝希が這い上がり逆転

オーストリアオープンの前まで優勢と見られていたのは経験豊富な水谷だった。

一方の丹羽は2019年9月、ポイントを稼ぐため、ワールドツアーよりもランクの低いITTFチャレンジプラスシリーズ・パラグアイオープンに出場したが、世界ランク上位選手がいないなか、優勝ポイント獲得どころか、まさかの1回戦敗退。10月に入ってもスウェーデンオープン、ドイツオープンともにベスト16で敗退と振るわず、なかなか巻き返しのきっかけをつかめずにいた。しかし、ドイツオープンでの敗退後、「吹っ切れた」とメディアに語ったように、代表争いにおいて危機的状況に陥ったことが丹羽にとってはプラスに働いた。

丹羽にとってさらに追い風となったのはT2ダイヤモンドシンガポール大会への繰り上げ出場だった。当初、日本は張本と水谷のみの出場予定だったが、中国の選手が辞退したために丹羽にチャンスが回ってきた。ITTF世界ランキングの対象となる獲得ポイント上位8大会とは別に、出場するだけで400ポイントが加算されるT2ダイヤモンドで、丹羽は水谷と同じ、ベスト8まで進出した。

2019年11月に行われたオーストリアオープンでも丹羽はベスト8まで勝ち残ったのに対し、水谷は張本との日本人対決に敗れてベスト16で敗退。ここで一気に水谷との差を60ポイントまで縮めると、丹羽は11月から12月にかけて中国・成都で開催された男子ワールドカップでもベスト8入りを果たし、形勢は逆転した。なお、ワールドカップは一国2名までの制限があり、水谷は出場できなかった。

代表選考に反映される最後の大会であったITTFワールドツアー・グランドファイナル開始前の時点で、2020年1月時点で有効なポイントは丹羽が9420、水谷が8925。約500ポイント差を追いかける水谷はベスト4以上の成績が必須であったが初戦敗退となり、この結果、丹羽がシングルス代表を手中に収めた。

水谷隼は目の症状や腰痛に苦しみながらも3人目の代表に

ベテランの水谷にとって、リオデジャネイロ五輪後からの4年間は苦難の時期だった。試合会場の照明やLED看板などの影響で球が見えにくくなる目の症状に苦しみ、一時は現役引退も考えたという。2019年からは試合時にサングラスを着用し、懸命にラケットを握り続けた。さらに腰痛も悪化し、満身創痍のなかで東京五輪の選考を戦っていた。それでも諦めなかったのは、自国開催の五輪への強い思いがあったからだ。

シングルスの代表はポイントで明確に選出されるのに対し、団体戦要員となる3人目の代表選手は、ダブルスを組む選手との相性を踏まえて日本卓球協会が選定する。水谷は丹羽と同じ左利きであることが懸念材料に上がり、リオデジャネイロ五輪団体銀メダリストの吉村なども候補に挙がった。しかし、長年の実績に加え、東京五輪から種目として採用される混合ダブルスでの水谷&伊藤美誠ペアにメダル獲得の期待が大きくかかることなどを理由に、水谷が代表入りを果たした。

張本智和と丹羽孝希と水谷隼。「史上最強」と前評判の高い東京五輪の男子卓球代表選手たちが新たな歴史を築く展開に期待が高まる。

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