復活を期す錦織にもふりかかる新型コロナの影響
錦織圭(ATPシングルスランキング41位、2月1日付け、以下同)が、2年ぶりにオーストラリアに帰って来た。
昨年は、2019年10月に手術した右ひじの回復が間に合わず、2020年オーストラリアンオープン(以下全豪OP)を欠場した。その後は新型コロナウィルスのパンデミックによって、プロテニスツアーが前代未聞の中断となり、錦織は戦う舞台そのものを失う。2020年9月にツアーへ復帰した錦織だったが、マッチ2勝しか挙げられず、さらに右肩の痛みが起こってしまい早々に2020年シーズンを終えた。
心機一転2021年シーズンに臨んだ錦織は、1月中旬に全豪OPの大会側が用意してくれたチャーター機にロサンゼルスから搭乗したが、同乗者から新型コロナウィルスの陽性者が発生してしまったため、コロナ安全対策のプロトコルに従ってホテルの部屋から出ることのできない完全隔離となってしまった。
「あんまり覚えてないですけど、ショックはでかかったですね、やっぱり。あと怖さといろんなものがありました。(オーストラリア)へ来る前に、カリフォルニアでマイケル(・チャンコーチ)たちと練習して、すごくいい感覚がつかめ始めていたので、調子が良くなってきた時に、この2週間の(隔離生活)があるのか、という、ちょっと怖さと、全豪に向けて難しくなるなというのは感じました」(錦織)
もともと大会側は、オーストラリア入国者全員に検疫期間14日間を課し、指定ホテルでの隔離生活を必須としていた。本来なら隔離中に1日5時間以内の屋外での練習が認められていたが、錦織は練習ができなくなってしまったため、部屋でできるトレーニングをしてできるだけ体を動かした。無事に14日間の隔離生活を終えた錦織は、メルボルンの街の様子を見てあることに驚いた。
「ちょっと外に出るのが怖かったり、あとちょっと驚いたのが、外でマスク無しでみんなが歩いていたり、建物の中でもマスク無しでも結構歩いていた。(メルボルンでは)コロナにかかっているケースがないので、それはもちろんいいんですけど、それが不思議な感覚でした。アメリカや日本も全員マスクをしているので」(※2月4日から再びメルボルンでは屋内でのマスク着用義務化された)
錦織は、2月第1週に国別チーム戦・ATPカップに初参加。グループD・ラウンドロビン第1戦「日本対ロシア」で、第1シングルスとして出場してダニール・メドベージェフ(4位)に2-6、4-6で敗れた。2020年9月に戦列復帰してから、トップ10選手と対戦するのはこれが初めてのことだった。
「正直、あんまり1試合目にやりたくなかったですけど、もうちょっと自信がついてからやりたかったですね。やっぱり簡単にポイントをくれない。ボールの質が高い。ボールが深い。でも、いいとこも出ていたので、そこを少しずつ自信にしていければ」
こう振り返った錦織は、随所にいいプレーを見せ、第2セットではネットプレーを交ぜるプレーが効果的な場面もあったが、サーブはまだまだ本調子ではなかった。試合全体でミスを22本も犯した錦織は、「いいポイントもあれば、同じくらい悪いポイントもあるので、それが少し減ってくれればいいと思います」と反省しつつ、錦織らしく厳しい状況の中でもポジティブな部分を見出そうとした。
「思ったよりは悪くなかったですね。まだまだ足りない点はたくさんありますけど。特に、いいレベルをキープできなかったのが、彼(メドベージェフ)みたいなレベルの選手とはなかなか簡単に勝たしてはくれないので。まだいつも以上にアップダウンがあるのが否めなかったですね。体力的には意外とできました。本当に日に日に調子は良くなってきている。毎日いいリズムでプレーできているのは感じている」
錦織がロシア戦を戦った2月3日の夜には、選手の隔離期間中に滞在していたホテルで、スタッフ1名が新型コロナウィルスの陽性者となり、そのホテルに滞在していた錦織は、再検査の対象者となり一時的に再隔離となったが無事コロナ陰性となった。
そして、2年ぶりの出場となる全豪OP(2月8~21日)で、錦織はノーシード(グランドスラムのシードは32まで)で戦うことになるが、ドローのトップハーフに入り1回戦で、第15シードのパブロ・カレーニョブスタ(16位、スペイン)と対戦する。対戦成績は、錦織の1勝0敗で、2年前の全豪OP4回戦で対戦し、錦織が5セットの激戦を制している。できれば、初戦で強豪と当たるのは避けたいところだったが、錦織はけがの再発に気をつけつつ、1回戦からエンジン全開で行くしかない。
2020年12月に結婚して31歳になった錦織が、どのようなプレーを見せるのか、そしてどんな復活のステップを踏んでいくのか注目したい。
世代交代なるか…男子優勝争い
男子の優勝争いは、依然トップに君臨するベテラン2人に、若手選手たちがどう挑むのかが最大のポイントになる。優勝候補筆頭は、ディフェンディングチャンピオンで全豪OPでは大会史上最多8回の優勝を誇るノバク・ジョコビッチ(1位、セルビア)。2020年シーズンには、6度目の年間ナンバーワンとなり、ピート・サンプラス(アメリカ)と並ぶ1位タイの記録となった。すでにグランドスラムタイトルを17個(男子史上3位)保持する彼は、ロジャー・フェデラー(5位、スイス)の持つナンバーワン最長在位309週の記録を3月に抜く見込みだ。33歳になっても心技体充実しており、ジョコビッチの牙城を崩すのは簡単ではない。
2020年のローランギャロス(全仏OP)で大会史上最多となる13回目の優勝を果たしたラファエル・ナダル(2位、ナダル)は、調整がやや遅れていてぶっつけ本番で臨む。2021年1月18日には、2005年以来800週連続でATPランキングトップ10圏内のキープを達成した。さらに、フェデラーと並ぶグランドスラムタイトル20個となり、ナダルもまた34歳にして“生けるレジェンド”になりつつあり、今回も活躍が期待される。
ジョコビッチとナダルの2強に対抗するのが、トップ10に定着している若手勢だ。2020年に男子ツアー最終戦・ATPファイナルズで初優勝し、全豪前哨戦のATPカップのロシア優勝をけん引したメドベージェフ(24歳)、2019年ATPファイナルズ優勝者のステファノス・チチパス(6位、ギリシャ、22歳)、2020年USオープン準優勝者のアレクサンダー・ズベレフ(7位、ドイツ、23歳)、3人共にいつグランドスラムで初優勝してもおかしくない実力を兼ね備えている。
また、アンドレイ・ルブレフ(8位、ロシア、23歳)は2020年シーズンにATPツアーで優勝を5回して、ATPファイナルズにも初出場を果たし、今非常に勢いのある選手で、大会の台風の目になるかもしれない。
最後に、もう1人注目したいのがドミニク・ティーム(3位、オーストリア、27歳)だ。2020年USオープン(全米OP)で念願のグランドスラム初優勝を果たし、大きな自信を身に付けた。昨年の全豪OPでは、5セットの激闘の末ジョコビッチに敗れ準優勝に終わっているだけに、今回はリベンジに燃えている。
果たして、メルボルンで新しい時代の扉が開かれ、世代交代が加速するのか、あるいはジョコビッチとナダルがベテランの底力を見せるのか。2021年の新チャンピオンを決める戦いの火蓋はまもなく切られる。