全豪オープン2021 男子総括|31歳の錦織圭は、険しい復活への道のりに挑む

史上最多全豪9度目制覇のジョコビッチは、男子史上最強選手へ名乗り

1 執筆者 神 仁司
Kei Nishikori AUS OP

メルボルンで、さまざまな逆風に抗った錦織

テニス4大メジャーであるグランドスラムの初戦・オーストラリアンオープン(以下全豪オープン)に2年ぶりに出場した錦織圭(ATPランキング41位、大会時、以下同)は、1回戦で、第15シードのパブロ・カレーニョブスタ(16位、スペイン)に、5-7、6-7(4)、2-6で敗れて、初出場の2009年大会以来となる初戦敗退に終わった。

「3セット目は別にしても、出だしはすごく良くて、今までにないぐらい、試合に入ってから勝てるんじゃないかと思える出だしだった。それぐらいボールを捕らえる感覚と球筋と、いろいろ良かったんですけど、相手もなかなか簡単にミスをしてくれないし。バックのクロス、フォアのクロス、けっこう自分にとって、ディフェンスにまわらないといけないタフなショットだった。強いなと感じました。でも、自分のプレーが良かったので、そんなに落胆はしていないですけど。でも、このぐらい戻ってもまだ勝てないんだなと、ちょっと自分にショックというか、まぁ微妙なところですね」

こう振り返った錦織にとって、1回戦でシード選手と対戦しなければならなかったことは、間違いなくタフであった。しかも左脇腹にテーピングをしてのプレーだった。それでも、第1セットと第2セットは、カレーニョブスタにサービスブレークをされても、錦織がブレークバックをしてみせ、随所に錦織らしい威力のあるグランドストロークや、ネットプレーでフィニッシュしてポイントを奪う場面が見られた。

ただし、勝負の分かれ目となるような場面、特に、第2セットのタイブレークでは、錦織にミスが多く、カレーニョブスタを勢いづけさせてしまった。

「ちょっと速い球が来た時に、ディフェンスで足が動かなかったり、大事なポイントでプレーが悪かったですね。タイブレークのプレーの仕方を忘れたんじゃないかってぐらいミスが多くて、もうちょっとじっくりやりたかったです。試合勘が戻ってくれれば。やっているうちに戻ってくると思うので、そこがいつクリックしてくれるか。それ待ちかなというところはあると思います」

錦織は、ウィナーを36本決めるものの、フォアハンドのミス22本を含む合計42本のミスを犯した。さすがにカレーニョブスタ相手にミスの数が多過ぎた。攻めるテニスをしつつも、ミスをできるだけ抑えるという好調時の錦織のテニスを取り戻したい。

また、引き続きサーブは課題になっていきそうだ。今回、トスを上げる時に、軸足となる左足に右足を引き寄せる形を試したが、それほど機能しなかった。1回戦での錦織のファーストサーブでのポイント獲得率は63%、セカンドサーブでのポイント獲得率は53%。ビッグサーブを持たない錦織としては、ファーストサーブでのポイント獲得率は70%以上を確保する必要がある。

振り返れば、全豪オープン前には、錦織にとって不運なことがあった。ロサンゼルスから大会側が用意してくれたチャーター機を利用してオーストラリア入りして、新型コロナウィルス対策の隔離生活(14日間)に入る予定だった。だが、同乗者からコロナ陽性者が出て、錦織はホテルの部屋から出られない完全隔離となってしまった。本来なら5時間以内の外での練習できるはずだったが、それは叶わず部屋での調整となった。

また、隔離明けの初戦として、全豪オープンの直前週(2月第1週)に行われた男子国別チーム戦・ATPカップに錦織は初参戦したが、ダニール・メドベージェフ(4位、ロシア)とディエゴ・シュワルツマン(9位、アルゼンチン)と対戦し2連敗を喫した。2度目の右ひじの手術から昨年の9月に戦列復帰して以来、トップ10選手との対戦を待ち望んではいたものの、隔離明けに戦うのはさすがにきつかったという本音が錦織から思わず漏れた。

「よかったはよかったですけど……。やっぱり初戦にしては、敵がちょっと強すぎるのと、どの国が来ても強いので。まぁ、しょうがないですけど、ちょっと初戦にしては強すぎたかなと、まぁ今さらながら思ったりはしています(苦笑)」

ATPカップでの2試合では不安すら感じていた錦織。全豪オープン1回戦では敗れたもののわずかながら光明を見いだしている。もちろんテニスの感覚が100%戻ったわけではないが、いつか大きな勝利をつかんで、再浮上のきっかけをつかみたいと願っている。

「いつか来るものだと自分も思っているので、復帰の時はいつもそうなんですけど、自分でもいい感覚がいつ来るかわからない。(全豪1回戦では)いきなりいいイメージがあって、いいプレーが出始めた。特に何かしたというわけではない。シュワルツ戦は最悪だったので、それに比べれば大幅に良かった。負けたことはちょっときついし、メンタル的にダメージはきます。けど、なるべく前を向いて、いい時が来るまで、いつ来てもいいように、気持ちがネガティブにならないようにしたいと思います。

(体力的には)5セットを2試合3試合やったらわからないですけど、どんどん勝ち上がっていかないと、そういう(体力的な)感触もつかめないので、今はできるだけいい試合をして、ちょっとでも勝ち上がれるようにしたい」

現在の錦織の世界ランキングは43位(2月22日付け)で、3月からATPロッテルダム大会(ABN AMRO World Tennis Tournament:3/1~7、オランダ)の参戦を皮切りに、毎週のように精力的に試合をこなしていく予定だ。

「上の選手とやるとどうか分からないですけど、たぶんもうちょっと下の選手だったら、勝てて自信がつくと思うので。ドロー運も祈りつつ。なかなかシードが付きにくくなっているので、自分のランキングが、どうにかして這い上がっていかないといけない。ランキングが落ちると難しいところですね。本当に今は試合に勝って自信をつけて、上がっていかないといけない」

もしかしたら錦織のトップ10復帰への道のりは、これまでの彼のテニスキャリアの中で最も険しいものになるかもしれない。31歳という年齢のこと、新型コロナウィルスのパンデミックが続いてツアースケジュールが流動的であることも関係してくる。錦織の自信と覚悟はどうなのだろうか。

「それはもちろんタフな道のりだとは思っています。今年でできるかどうかわからないですけど。でも、今日の試合(全豪1回戦)を振り返って、すごくいいプレーができているので。ちょっと先週(のATPカップの時点)だったら、戻れるかなと、ちょっとこう言えなかったですけど、今日の試合、今日の自分のプレーがもうちょっと良くなれば、できそうかなというのは若干見えて来たので、復帰の道のりとしては悪くはないかなと思います」

キャリアと共に年齢を重ね、少しずつ体力が落ちていくのは、プロテニス選手の誰もが通る道だ。時間は誰にも平等に流れ、31歳という現実とも、錦織は真摯に向き合わなければならない。また、いくら錦織がテニスの調子が復活したとしても、成長著しい若手など相手選手が錦織を上回ってくるかもしれない。テニスが対人競技であるがゆえの難しさもつきまとう。

「早くトップ10の位置に戻って来れるようにしたいなと思います」という錦織が、トップ10に返り咲く可能性はある。だが、その道程はいばらの道になるかもしれない。まずは、グランドスラムでシードを獲得できる32位以上を目指したいところだ。復活に近道はない。けがの再発に気をつけながら、一試合一試合勝利と自信を積み重ねていくしかない。

いよいよジョコビッチが、男子史上最強選手へ名乗り!

全豪オープン男子シングルスは、決勝で、第1シードのノバク・ジョコビッチ(1位、セルビア)が、第4シードのメドベージェフ(4位、ロシア)を、7-5、6-2、6-2で破って、3連覇と共に大会史上最多となる9回目の優勝を果たした。

(2021 Getty Images)

もっと競る決勝になるのではという戦前の予想に反して、「彼(ジョコビッチ)は、大事な場面で、本当にいいサーブを打ってきた。ノバクのリターンが信じられないものだった。いつもプレッシャーをかけられた」と振り返ったメドベージェフは打開策を見つけられず、ジョコビッチの独壇場となった。

3回戦以降ジョコビッチは、右腹斜筋のけがに悩まされていたため、「明らかに感動的で最もチャレンジを必要とするグランドスラムだった」と優勝の喜びをかみしめた。

今回の全豪オープンで、25歳のメドベージェフが準優勝(全豪後3位へ)、22歳のステファノス・チチパス(6位、ギリシャ)がベスト4、23歳のアレクサンダー・ズベレフ(7位、ドイツ)がベスト8。グランドスラム初タイトルを狙った若手勢は、またもやジョコビッチの牙城を崩すことはできなかった。

これで、ジョコビッチの通算グランドスラムタイトル数は18個(男子史上3位)となり、男子史上1位のフェデラーとラファエル・ナダル(2位、スペイン)の20個の記録に一歩近づいた。ここ18年間におよぶグランドスラムでの優勝は、この3人による寡占状態になっている。

「ロジャー、ラファ、そして自分は、グランドスラムで自分達のベストテニスをいつも披露してきた。5セットマッチ、異なるサーフェスでの勝ち方、何を成すべきなのかという経験がある」

こう語るジョコビッチは33歳。ナダルが34歳。30代になってもトップに君臨し続けているのは、まさに超人的な偉業だ。ひと昔前なら引退がちらついてもおかしくない年齢なのだから。若手世代にとっても、彼らがこれほど長くトップレベルで活躍するのは予想外のことなのではないだろうか。

なぜ、若手勢がグランドスラムの5セットマッチで勝てないのかという素朴な疑問が湧いてくるが、ジョコビッチの今も変わらない高いモチベーションや勝利への執念を聞くと、しばらくは彼を倒すのが簡単ではないことを予感させる。

「ロジャーとラファが、僕をインスパイアしてきた。彼らが頑張る限りは、僕も頑張るつもりだ(笑)。われわらは、お互いを駆り立て、モチベーションを高め合い、お互い限界までプッシュしてきた。われわれは若手への世代交代を認めたくないし、グランドスラムでの優勝もさせたくない」

今後、ジョコビッチは、3月8日の週にフェデラー(5位、スイス)の持つナンバーワン最長在位310週の記録を抜くことが確定し、311週となって新記録を達成する。これまでは男子史上最強選手といえば、フェデラーであるという説が有力だった。だが、現在は、ナダル、ジョコビッチを含めた3人で意見が分かれ、誰が本当に最強なのか答えを出すのが非常に難しい状況になっている。

東京オリンピックも含まれる2021年シーズンの結果次第では、ジョコビッチが男子史上最強選手の称号を手にすることになるかもしれない。

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