石川祐希が語る、日本男子バレーが強くなった理由
「世界一のプレーヤーになる」
来季、強豪ペルージャでプレーすることになった男子バレーボール日本代表の石川祐希は5月17日の移籍会見で、改めてその目標を言葉にした。
18歳だった2014年にイタリアに渡って以降、石川はモデナ、ラティーナ、シエナ、パドバ、ミラノと各チームで経験を重ね、10シーズン目となる来季は、シル・サフェーティ・ペルージャのユニフォームを着る。ペルージャは今季、世界クラブチーム選手権で優勝し、リーグ制覇を果たすなど4冠を達成。その王者チームで石川は、「世界一のプレーヤーになる」という目標に近づくチャンスを手にした。
絶対的エースとして、プレーだけでなく精神的にも日本男子代表の支柱となっている石川。彼の背中を追って、若き日本選手たちが海外で経験を積み、それは日本男子バレーを強くする要因のひとつとなっている。「今はイタリアだけではなくて、フランスだったりポーランドだったり、いろんな国に1年でも2年でも行っている選手が増えているので、そこは代表が強くなってきた要因として大きいのではないかなと僕は感じています」。
2023-2024年シーズンが終盤に差し掛かっていた4月、イタリア・ミラノで行われたOlympics.comの単独インタビューで、石川は海外を経験することの意味や日本男子代表の躍進の理由を語った。
石川祐希が考える、海外を経験することの意味
石川はイタリアでの9シーズン目を終えた。世界トップリーグに身を置き、世界トップ選手たちとプレーしたこの9シーズンを、「スキルの部分でもそうですし、メンタルの部分でも大きく成長した」と改めて振り返る。自身の成長もさることながら、海外での日本選手への評価が変わってきているのも実感している。
「僕がイタリアに最初に来たときは、日本人の評価はあまり高くなかったんですけど、現在は僕もしっかりステップアップして成長しているので、そこの評価、日本人としての評価は高まってきたと思います。また、僕以外にも今、髙橋藍(らん)選手が活躍していますし(※5月20日に大阪を本拠地とするサントリーサンバーズ入団を発表)、それ以外にも西田(有志)選手が(これまでに)イタリアでプレーしているので、日本人の評価も非常に上がってきています」
石川は今季、ミラノで2年連続のイタリアセリエAプレーオフ進出、チームにとっても自身にとっても過去最高のリーグ3位という成績を残し、一方の髙橋はモンツァでプレーオフ決勝進出に貢献した。
「(それぞれが)成長したからこそ評価が高まっていると思っています」と石川は続ける。
石川が現在、大きな目標として掲げるのがオリンピックでのメダル獲得。それが現実味を帯びていることは、選手だけでなく多くのファンも実感していることだろう。あるいはバレーファンでなくとも「日本男子バレーって最近強いんでしょ?」という問いをどこかで聞いたかもしれない。
男子日本代表チームは3大会ぶりのオリンピック出場となった東京2020で、バルセロナ1992以来29年ぶりに決勝トーナメント進出を果たし7位。2023年のネーションズリーグではイタリアを下して銅メダルを獲得した。2017年に創設された同リーグでは初めての出来事で、オリンピック、世界選手権、ワールドカップを含めた国際大会で実に46年ぶりの表彰台となった。そして、同年秋にはパリオリンピック予選をかねたワールドカップで、16年ぶりとなる自力でのオリンピック出場を掴み取った。
近年の日本男子バレーの快進撃の理由のひとつとして、選手たちの海外経験を日本代表キャプテンの石川は挙げる。「直接これひとつだけではないのは確かですけど、挙げるとすれば…」と前置きした上で、石川は続けた。
「海外に行く選手が増えているというのがひとつ要因として大きくあると思います。ネーションズリーグでもパリのオリンピックの予選でも、スタートで出ている選手の半分は海外経験をしている選手なので、そこは非常に大きいなと思います」
「海外でプレーする選手が増えることは、世界を知っている選手が増えるということなので、ナショナル(日本代表)で戦うときに力になると思いますし、そういう選手が増えているのが、今はイタリアだけではなくて、フランスだったりポーランドだったり、いろんな国に1年でも2年でも行っている選手が増えているので、そこは代表が強くなってきた要因として大きいのではないかなと僕は感じています」
その具体例として、石川はオポジットの宮浦健人の名を挙げる。1999年生まれの宮浦は、東京オリンピックが行われた2021年度の日本代表メンバーに初選出され、オリンピック出場メンバーには入らなかったものの、同年のアジア選手権でシニア代表として初出場を果たして石川らとともに準優勝に貢献。2022年のネーションズリーグの後には、所属していたジェイテクトから強豪チームを多数有するポーランドへと渡った。
「今シーズン(2023-2024年)はフランスでプレーしていますけど、昨シーズンはポーランドでプレーしていて、セカンドオポジットで出る機会は今以上に多くなかったと思うんですけど、日本代表に来たときに成長をすごく感じました」
その言葉通り、宮浦は2023年のネーションズリーグで目を見張る成長ぶりを多くのバレーファンに余すことなく見せつけた。
「海外に出る意味というか、試合に出られなくてもこれだけ成長したっていうのを彼が証明してくれたので、海外に行くことのメリットは大きいんじゃないかなと思いました」と、石川は続ける。
その思いはイタリアで3シーズンを過ごした髙橋も同じだ。Olympics.comのインタビューで髙橋は、「海外で経験する選手も今すごく増えてきたというところで、石川選手から続いて西田選手、自分自身もそうですけど、2年前でいえば関田(誠大)選手であったりとか、やっぱり海外を1年でも経験することが日本の選手の中で意識として出始めてきていて、それが日本代表に戻ったときの総合力として強くなっている」と分析し、「世界ランキングが上の相手であったり、強豪国と言われるチームと当たるときに、勝てるイメージを持てているというか。昨シーズンもブラジルに勝ったりとか、イタリアに3位決定戦で勝ったりした。強豪国に勝つイメージ、引けを取らないところが持てていると思うので、上位のチームに勝っていくっていう、そういう部分で力がついてきたのかなというのはありますね」。
「海外の選手にもまれてやる大切さであったりとか、そこでプレーをしていくところの成長の大きさ」を実感した髙橋は、それが「今の日本バレーの強さに直結しているのかなと思いますね」と続けた。
さらにチームの仲の良さも勝利を導く鍵となっていることを石川は認める。6月1日に石川、髙橋、西田が参加して東京都内で行われたトークイベントで、石川が卵かけご飯を5分くらい混ぜることを髙橋が暴露し、西田が突っ込む様子が報じられたばかり。
「日本チームの仲の良さが結果に繋がっているというのは間違いなくあると僕は思っていて、普段からいい意味で気を使わない選手たちばかりなので、思ったことも話せるし、そういった仲の良さが勝負どころで、みんなで頑張っていくぞっていうときにひとつになれるというところもあると思います」
仲の良さに加えてオンオフの切り替えのうまさも勝利を導く要因となっている。
「遊ぶときは遊ぶし、ちゃんとやるときはちゃんとやるといったオンオフがきっちりしているので、そこが今の日本チームの強さというか、良さかなと思います」と石川は笑顔を見せた。
よりリアルになったオリンピック・メダルという目標
男子バレーボールでは6月4日からネーションズリーグ男子予選ラウンド第2週の福岡大会が始まる。第1週をコンディション調整にあて、第2週からの出場となる石川は、前回銅メダルで終えた今大会をパリ2024の前哨戦と位置付けて戦いに挑む。
「ネーションズリーグはオリンピック前の公式戦になるので、やはりそこでもメダルを取りにいく戦いをしなければいけないと思います。前回大会は銅メダルだったので、それ以上の色を目指して戦うことが僕たちのやるべきことだと思うので、そこを目標に戦っていきたいと思います」
そしてその先、7月26日に開幕するオリンピックでのメダル獲得を見据える。
「今までだったらメダルを取るイメージができなくても、メダルを目標にしていた。(昨年の)ネーションズリーグでメダルを取って、国際大会でメダルを取るイメージができて、今回向かうオリンピックというのは、(今までと)大きく違う。よりチャンスは大きいと思います」
ネーションズリーグで日本男子は6月4日〜9日に福岡で予選ラウンド第2週、その後、フィリピン・マニラに舞台を移して6月18日~23日に第3週を戦い、6月27日~30日に予定されているポーランド・ウッチでのファイナルラウンドを目指す。
石川を中心にチームがどのようにオリンピック・メダル獲得という目標に向かっていくのか。その戦いぶりに注目したい。
石川祐希
石川祐希のプロフィール