**シェンウェイン・スティーブンス**とジャマイカのボブスレーチームが、オリンピックに戻ってくる。競技に臨む準備は万端だ。
『クール・ランニング』は、ジャマイカのレガシーとして代表チームが引き継いでいくものかもしれないが、彼らは北京2022で会場を沸かせ、新たなアイデンティティを築き上げようとしている。その鍵を握るのが、スティーブンスだ。
英国王立空軍(RAF)の連隊員であるスティーブンスは、2人乗りと4人乗りの両方でパイロットを務めるが、彼がオリンピックに出場できたことは奇跡としか言いようがない。
「ジャマイカは小さな国だが、少ないリソースから大きなことを成し遂げることができる」とスティーブンスは Olympics.comとの独占インタビューで語っている。
ロックダウン中に、イギリスのピーターバラにある工業団地で車を押して回るという彼らのトレーニングは話題になった。
「コロナで完全にロックダウンされた中で、予選通過のために100%の準備をしておきたかった」
「そのためには工夫してトレーニングする必要があった。ブレーキマンのニムロイ(ターゴット)は、僕の家で一緒にロックダウンしていたから、婚約者のミニ(mini)を押して通りを歩くことにしたんだ」
RAF連隊が女王陛下とビデオ通話をした際に、彼はエリザベス女王にもこの話をした。
「まあ、それもひとつのトレーニング法でしょう」と女王は笑っていたという。
「女王陛下とお話をするなんて、一生に一度の機会だった 」とスティーブンスは続ける。「女王陛下は今、ジャマイカのボブスレーの大ファンだと思うよ。サイン入りのTシャツを送ります、と約束したんだ」
Olympics.comの取材中も、冗談を言ったり笑ったり、ジャマイカのボブスレーチームには楽しい雰囲気があふれていた。しかしもちろん真剣な面もある。パンデミックの中で北京2022への出場権を獲得したことは、まさに真剣勝負で勝ち得た功績だ。
チームメイトから「シェン」と呼ばれている彼は、こう語る。
「初めてチームが集結したのは、昨年の9月18日だった。コロナの影響で、別々の場所でトレーニングをしなければならないという厳しい状況で、チームが初めて一緒にプッシュできたのがその時だった」
「短期間でこれだけの成果を上げることができたのは、今いる選手たちの能力の高さを示していると思う」
クール・ランニング?「僕たちは映画以上だ」
「クール・ランニング」を抜きにして、ジャマイカのボブスレーを語ることはできない。ジャマイカにボブスレー革命を起こしたカルガリー1988出場チームのニックネームであり、彼らの挑戦を描いたハリウッド映画のタイトルでもある。
北京2022のチームは、原作に敬意を抱きつつも、自分たちのアイデンティティを確立して新たなレガシーを残そうとしている。
「映画のことは気にしていないが、僕たちは映画以上の存在であることを示したい。実際僕らは凄まじい力を持った競技者であり、大会で良いパフォーマンスをして結果を出するために参加するんだ」とスティーブンスは言う。
ジャマイカからは、史上初めて、3つの異なるチームがオリンピックに挑む。4人乗り、2人乗り、そして女子モノボブ種目だ。惜しくもタイブレークでチャンスを逃したが、ジャマイカカラーの4チームが出場する可能性もあった。
「本当に素晴らしいことだ。女子チームはタイブレークで敗れてしまったけれど、あと一歩で4台出場できるところだった。これは国内連盟の急速な飛躍を物語っていると思う。これからもより多くの支援を得ることで、さらに強くなっていくことだろう」とスティーブンスは語る。
34年前のカルガリー大会に出場した「クール・ランニング」のオリジナルメンバーのひとりであるクリス・ストークスは、現在ジャマイカボブスレー連盟の会長を務めている。彼は、シェンに大きな期待を寄せている。
「さらに前進するために、組織からの支援が増えていくことを期待している。限られたリソースでこれだけのことができるのだから、より強力なバックアップがあれば、どんなことができるか想像してみてほしい」
しかし、少し考えてみよう。ピーターバラに住んでいる彼らが、どうやってジャマイカのボブスレーチームのパイロットになったのだろう?
ボブスレー・パイロットの誕生
現在31歳のスティーブンスは、ジャマイカで生まれ、20年前に母親と一緒にイギリスに移住した。
チームメイトのアシュリー・ワトソン、マシュー・ウェクペ、ニムロイ・ターゴット、ローランド・リードらが陸上競技、ラグビー、ウェイトリフティングなど様々なスポーツを経験しているのとは異なり、シェンは英国軍に所属していたことがボブスレーを知るきっかけとなった。
「実はボブスレーを始めたきっかけは、イギリス空軍だった。空軍では、ボブスレーをアドベンチャー・トレーニングや自己啓発のために利用していて、ある日、壁に貼られていた『やってみないか?』というポスターを見たんだ」
「一度トライアルに参加してからは、ずっとボブスレーを続けている。2015年に空軍でボブスレーを始めて、2017年にジャマイカチームでトライアルをする機会を得た」
「その時にニムロイと出会った。だから、彼とは同じ時期に一緒にボブスレーを始めて、それ以来ずっとチームを組んでいるんだ」
「ジャマイカチームでは最初はブレーキマンとしてスタートしたけれど、2019年にドライビングをする側に転向した」
“ボブスレーは大きな信頼のゲーム”
ボブスレーがスタートして時速150キロのスピードで氷上のトラックを駆け抜けるには、チーム全員がパイロットを信じて、一体となって動く必要がある。
インタビューの冒頭の自己紹介で、プッシュ役のアシュリー・ワトソンは「自分の仕事は、ソリを早く押して、飛び込んだら、あとは彼が僕たちの安全を守ってくれることを祈ること」そう言ってスティーブンスの肩に手を置いた。
「これは絶大な信頼による競技で、自分たちはお互いを信頼している」とスティーブンスは言う。
「丘の頂上のスタート位置に着いたときに彼らを振り返ると、彼らが自分に全力を出させてくれようとしているのが目を見てわかる」
「そうした彼らの信頼が自分に自信を与えて、ソリを全力で走らせることができるんだ。お互いがお互いを信頼し合っている」
『クール・ランニング 2』のシェンウェイン・スティーブンス役はイドリス・エルバ?
このジャマイカチームが北京オリンピックで活躍したら、次のハリウッドヒット映画では誰がチームメンバーを演じるだろうか?
シェンウェイン・スティーブンスは、「イドリス・エルバにロックオンだ」と言う。
しかし、ブレーキマンのマシュー・ウェクペは賛成ではないようだ。「いや、いや、いや、いや。イドリス・エルバはそんなに背が低くないよ。彼は僕と同じくらいだ。だから僕だろう。僕の役がイドリスだ!」。
「シェンはそうだな、ロボコップのようなものか、背の低い誰か... ケビン・ハートとか!」
2022年2月10日にボブスレーのトレーニングが始まったとき、彼らのストーリーは、皆さんの近くのスクリーンに映し出されることだろう。
北京2022でジャマイカのボブスレーチームを観よう!
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