柔道・永山竜樹、フランス武者修行で鍛えられた人間力と心「パリで攻めの1本を取りに行く」
日本武道館で行われた東京2020オリンピックの柔道競技では、日本勢が圧倒的な強さを見せつけ、個人種目の全14階級(男女各7階級)のうち、11階級で日本選手が表彰台に立ち、そのうち9つの金メダルをTEAM JAPANが獲得した。
パリ2024オリンピックでは、一つの国・地域が得られる出場枠は最大14枠(各階級ごと男女それぞれ1名)で、厳しいオリンピック選考を勝ち抜いた世界の柔道家たちが、それぞれの夢や目標のために全神経を傾け、大舞台ですべてをぶつける。
パリ開会式の翌日、7月27日から8月3日までシャン・ド・マルス・アリーナで行われる柔道競技では、いったいどんな名シーンが生まれるのか。
ここでは、男子60kg級で東京2020金メダリストの髙藤直寿(たかとう・なおひさ)とのライバル対決を制し、オリンピック出場の夢の切符を掴んだ永山竜樹(ながやま・りゅうじゅ)のパリまでの歩みを、Olympics.com独占インタビューを交えて紹介しよう。
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失意の東京2020代表落選「本当に長く、苦しい時期が続きました」
リオデジャネイロ2016オリンピック後に開催されたグランドスラムの舞台で、大学の3年先輩でリオ2016男子60kg級銅メダリストの髙藤に初勝利をあげた永山は、2018年、2019年の世界選手権で2回銅メダルを獲得。世界選手権に次ぐレベルに位置付けられるワールドマスターズでは、髙藤を抑えて2017年、2019年、2023年に優勝。しかし、2019年11月のグランドスラム・大阪決勝で髙藤に敗れ、世界ランキング1位ながら東京2020代表の座を逃し、苦渋の結果に終わった、オリンピックへの挑戦。
「すごく悔しい思いをして、なかなかモチベーションが上がらず、怪我とかもあって調子が上がらない時期がすごい長かったんですけど、ほんと最後の1年、去年で自分の柔道を取り戻せた。それまでは本当に長く、苦しい時期が続きました」と振り返る。
『海外に行ってきたらいいんじゃないか』。パリ2024への代表選考がはじまるという中、負けが続いていた苦しい時期に、永山のスランプを打開するきっかけとなったのは、幼少期から一番近くで支えてきてくれた父からの言葉だった。「オリンピックの代表が厳しいっていう状況で、父と話して。それで一人で海外に行くことになりました」。
20年以上の柔道人生の中で、初めてとなる海外武者修行。約1か月ほどのフランスでのトレーニングは怪我も多かったが、「何か柔道というよりかは、人間的に心が強くなった。一人でやっていたので、何でも知らない事を一人でやらなきゃいけなかったので、そういう対応力とかが色々成長できた」と自信を示した。
また、低迷期にあった永山に最も大きな気づきを与えてくれたのは、柔道教室での出来事だったという。「自分の中で最近守りに入りそうだったんですけれど、(現地の人から)やっぱり日本人の、しっかり持って、1本の柔道が好きなんだっていうことを言ってもらえた時に、『自分らしい、攻めて1本の柔道をやろう』って改めて思えた。それが自分を取り戻せたきっかけになります」と感慨を込めて語った。
「ずっと2番手で、なかなか越えられない壁をやっと越えることができた」
2023年12月、オリンピックをかけた選考大会となるグランドスラム・東京大会の決勝戦。対戦相手は、かつての戦いでも相まみえた最大のライバル、髙藤。延長戦までもつれ込んだ激戦の末、一本背負いを決め、1枠となるパリ2024代表に内定したのは、永山だった。
「攻めの1本を取りに行く」。まさしく永山が誇りとする柔道で大先輩との代表争いを制し、夢への切符を掴んだのだ。
長く続いたオリンピック出場への道だったが、「人生をかけて戦う価値のある大会だと思っています」と熱く語る永山。「幼い頃から憧れていた舞台で柔道が出来るので、とても気持ちが高まっています。自分の柔道で少しでも多くの方々に一歩踏み出す勇気を届けられたらと思います。日本代表としての誇りを持ち、全力で戦い抜きますので応援の程よろしくお願い致します」と開幕に向けてオリンピック日本代表選手団TEAM JAPANにコメントを寄せた。
パリ2024での永山竜樹対戦相手
個人種目で14組のメダルが授与されるパリ2024の柔道競技の組み合わせ抽選が7月25日に行われ、日本代表男女13選手の対戦相手が決まった。
男子60kg級に出場する世界ランキング6位の永山は、組み合わせBブロックで2回戦から登場し、サンチョ・セバスティアン(クロアチア/同92位)対19歳のアウグスト・ミシェル(ブラジル/同25位)戦の勝者と初戦を戦う。この組の一番のライバルは、同5位のガリゴス・フランシスコ(スペイン)となるだろう。まず永山はこの組で首位通過を目指し、準々決勝進出を狙う。
準々決勝、準決勝、決勝では、ジョージア州生まれのフランス代表、欧州チャンピオンで今年2月のパリ・グランドスラムで優勝したルカ・ムケイゼや、2024年世界王者の21歳ギオルギ・サルダラシュヴィリ(ジョージア)、世界ランキング1位のヤン・ユンウェイ(楊勇緯/Chainese Taipei)などが永山を待ち受けるだろう。
東京2020では、開催国日本の金メダル第1号を男子60kg級で髙藤が獲得し、TEAM JAPANに勢いをもたらした。パリ2024でも大会初日に決勝が予定されている同階級で、永山が髙藤の意思を引き継ぎ、日本に2連覇をもたらすことができるか、期待が寄せられる。
柔道日本代表、永山竜樹の主な戦績
2023年
- 12月 東京・グランドスラム 優勝
- 8月 ワールドマスターズ・ブダペスト 優勝
- 6月 ウランバートル・グランドスラム 優勝
- 4月 全日本選抜柔道体重別選手権 3位
2022年
- 12月 ワールドマスターズ・エルサレム 2位
- 8月 アジア選手権大会 個人&団体 優勝
- 6月 ウランバートル・グランドスラム 優勝
- 4月 全日本選抜柔道体重別選手権 3位
- 2月 パリ・グランドスラム 優勝
2021年
- 3月 タシュケント・グランドスラム 優勝
2020年
- 2月 パリ・グランドスラム 優勝
2019年
- 12月 ワールドマスターズ・青島 優勝
- 11月 大阪・グランドスラム 2位
- 8月 世界柔道選手権 3位
- 4月 全日本選抜柔道体重別選手権 優勝
- 2月 デュッセルドルフ・グランドスラム 優勝
2018年
- 11月 大阪・グランドスラム 優勝
- 9月 世界柔道選手権 3位
- 8月 ブダペスト・グランプリ 優勝
- 2月 デュッセルドルフ・グランドスラム 優勝
2017年
- 12月 ワールドマスターズ・サンクトペテルブルク 優勝
- 12月 東京・グランドスラム 3位
- 5月 エカテリンブルグ・グランドスラム 優勝
- 4月 全日本選抜柔道体重別選手権 優勝
2016年
- 12月 東京・グランドスラム 優勝
- 5月 バクー・グランドスラム 2位
- 4月 全日本選抜柔道体重別選手権 3位
2015年
- 10月 世界柔道選手権ジュニア 優勝
- 6月 東アジア柔道選手権大会 優勝
- 4月 ジュニアヨーロッパカップ・サンクトペテルブルク 優勝
- 9月 全日本ジュニア選手権(U21) 優勝
2014年以前
- 2014年 全国高校選手権 優勝
- 2013年 ジュニアヨーロッパカップ・サンクトペテルブルク 優勝(55kg)
- 2013年 全日本ジュニア選手権(U21)優勝(55kg)
- 2012年 アジアジュニア選手権(U20)優勝(55kg)
パリ2024オリンピック、柔道男子60kg級の試合日程
以下、現地時間(日本は7時間進んでいる)。スケジュールは変更になる可能性もある。
7月27日(土)
- 10:00 男子60kg級 予選ラウンド1回戦
- 10:28 男子60kg級 予選ラウンド2回戦
- 12:20 男子60kg級 予選ラウンド3回戦
- 13:16 男子60kg級 準々決勝
- 16:34 男子60kg級 敗者復活戦
- 16:51 男子60kg級 準決勝
- 17:49 男子60kg級 銅メダル決定戦A
- 17:59 男子60kg級 銅メダル決定戦B
- 18:09 男子60kg級 決勝
柔道・永山竜樹プロフィール
※年齢は2024年7月26日パリ2024オリンピック開会式当日を基準とした。