堀米雄斗が描く「スケボーの未来と無限の可能性」

執筆者 Chiaki Nishimura
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Yuto Horigome
写真: lapir0 / World Skate

オリンピックのスケートボード男子ストリート初代王者・堀米雄斗が、Olympics.comのインタビューで現在の立ち位置と、スケートボードの未来を語った。

6歳のときに父親の影響でスケートボードを始めた堀米雄斗は、さまざまな出会いの中でスケボー漬けの少年時代を過ごし、高校卒業後、日本を飛び出して単身ロサンゼルスに移住した。

彼の地でスケーター仲間たちと一緒に滑り、同じ家で寝泊まりするなど生活を共にし、翌年には夢の舞台だったストリート・リーグ・スケートボード(SLS)で4度目の出場にして優勝。そこからSLS3連覇を達成した。

以来、24歳の堀米雄斗は2021年に行われた東京2020オリンピックで優勝、今年3月には歴史あるスケートボードの大会「タンパ・プロ」で初優勝を飾るなど、スケートボード・ストリートのトップレベルで戦いに挑み、映像作品を世に送り出し、スケートボードそのものを楽しんできた。

数々の大会を制してきた4歳年上のナイジャ・ヒューストン(アメリカ合衆国)が「Yutoはとてもシャイだけど、同時に楽しむことも好きなんだ。クールなやつだよ」と話せば、女子ストリートを牽引する15歳のライッサ・レアウ(ブラジル)はパリ2024で活躍するだろう選手として「Yuto」の名を挙げる。

幼き頃の堀米が憧れた9歳年上のシェーン・オニール(オーストラリア)は「Yutoは個性的でとても面白いやつだよ。オリンピック2連覇しても驚かないだろうね。スケートボードにかける思いは半端ない」と称えれば、一方の堀米は「シェーンは小さい頃は憧れてたスケーターだったし、今も憧れの選手ではあるんですけど、今は友達みたいな感覚で一緒にスケボーしてて、スキルを高め合える親友」と話すなど、食事や買い物に出かける関係を築き、現在はオニールが主催するデッキブランド「April」のチームメンバーとして名を連ねる。

スケートボードに触れながら多くを学び、時に葛藤を抱えながら夢を実現させてきた堀米は今、その魅力をより多くの人に伝えていきたいという思いを募らせている。

昨年秋には自身が初めて主催するイベントとして地元・江東区で「YST plot zero」を実施し、子どもたちと交流した。

「自分が小さい頃スケートを始めたときに、僕はお父さんがスケートボーダーだったのでスケートボードを始めるきっかけが身近にありました。今の子たちもオリンピックとかで知ってくれてスケーターとかも増えてきているんですけど、僕とかがイベントをやって、スケートボードをもっと身近に感じて、もっと興味を持ってくれたら自分も嬉しいし、これからもスケートボードがどんどん盛り上がっていくんじゃないのかなと思ってあのイベントをやりました」

堀米はオリンピック金メダル獲得後、自身が生まれ育った江東区を表敬訪問した際に、練習環境の充実をリクエスト。その願いが叶って同区には「夢の島スケートボードパーク」が完成した。オープニングセレモニーに合わせて行われたこのイベントでは、子ども向けの教室や、コンテスト(競技会)を開催。「1年に1 回ぐらい、 いろんな場所でできたらすごいいいなと思います。自分のスケジュールもかなりつめつめなので、自分のできる範囲でやりたいと思います」と続けた。

さらに今年春には、ストリートカルチャーの発信を掲げて実施された日本発のスケートボードのイベント「UPRISING TOKYO」にも関わり、大会では優勝を果たした

写真: 2023 Getty Images

「みんな一番だと思います」

数々のスケートボーダーたちが東京2020でその競技の魅力を世界中に発信して以来、日本ではスケートボードに取り組む人が増えたとスケーターたちは口をそろえる。しかし、ストリートに対して良いイメージを持つ人ばかりではないことを堀米は実感した上で、スケートボードの楽しさを伝えていくことを誓う。

「ストリートの悪いイメージとかをうまく変えていきたいし、やっぱスケートボードのカルチャーのもとにある部分をもっと伝えていきたいです」。そのためにも「大会で活躍して自分のやりたいことをもっと実現させていきたいです」と続ける。

ファッションや音楽、アート、映像など、文化としてはさまざまな要素が挙げられるが、スケーターそれぞれが異なるスタイルを持ち、それを追求していくこともこのカルチャーを形作る要素のひとつと言えるのではないだろうか。インタビューの中で、「史上最高のスケーターは誰か」を尋ねた際、堀米は少し間を置いてこう答えた。

「史上最高のスケーターはいないと思います。一番とか、そういうのを決められないスポーツでもあると思うので」

「自分も好きなスケーターとかいっぱいいる。みんな一番だと思います」

そんな好きなスケーターたちと時には競い合うが、それも堀米にとっては喜びだ。昨年はトップスケーターたちを制してSLSで2度優勝した。「自分の小さい頃から憧れているコンテストなので、そこでいつものプロスケーターたちと滑れていることにすごい感謝だし、楽しい」とし、オリンピック予選でも「こうやってトッププロスケーターたちと滑れていることが嬉しいです」と続けた。

互いに競い合いながらもこの自由でクリエイティブな世界で、多くのスケーターがコミュニティを築きつながり合っていくスケートボード。かつてその世界を追いかけた少年は24歳となった今、スケートボードの未来に思いを馳せる。

「スケートボードは無限の可能性があると思っていて、まだまだみんなの知らない未来がある。その未来を少しずつ作っていけたら」

「自分がどうなっていくかも楽しみ」

オリンピック出場をかけた世界ランキングでは全体の18位に位置し、日本勢の5番手に立つ(2023年6月19日現在)。

2023年1月に行われた前回のオリンピック予選では、予選敗退という悔しい結果で大会を後にした。改めてそのときのことを振り返った堀米は、「ああいうときもある。自分の滑りが甘かった」と受け止めた上で、「自分的にもすごい悔しいし、これをどうバネにできるか。(オリンピックで)金メダルを取った後、ああいう感じで予選落ちして、周りから見たら『めっちゃ落ちたな』っていう印象だと思うし、メンタル的にもいろいろきつかったりとか、自分で考えすぎたりとかもしちゃったんですけど、ここから自分がどうなっていくかも楽しみです」。

「ずっと調子いいのも面白くないかなとは思うので、ちゃんと切り替えて、まずはパリオリンピック出場権を確実に掴みたいです」と続けた。

スケートボードの面白さを伝えるため、まだ見ぬその未来を築いていくため、堀米は新たな戦いの舞台でそのパフォーマンスを披露する。