エリウド・キプチョゲ : オリンピック2連覇マラソン王者のトレーニング

ケニアのスター選手は、週1回の30 - 40kmロングランが大好きだ。「長時間のランに体が反応して、レースでの高いパフォーマンス」に繋がるらしい。史上最速ランナーとなったキプチョゲが、リオと東京で2連覇したトレーニングの秘訣を明かす

トレーニングを行うエリウド・キプチョゲ
(2020 Pool)

2013年にマラソン競技へ足を踏み入れた時から、**エリウド・キプチョゲ**が取り組んできた陸上競技のトレーニングプログラムは、現在では一貫性と規律を強化するメソッドとして崇められている。

アフリカの広大なリフトバレー地域に位置するカプタガットで行なわれる彼のチームの高地キャンプでは、シンプル・フォーカス・ハードワークという3つの柱に基づいて、トレーニングが行なわれている。

その成果により、彼はマラソン界で世界最速の男となり、リオ2016と東京2020でオリンピック金メダルを獲得することができた。

キプチョゲは、たとえ調子の悪い日であっても、ロングランをするのが大好きだ。そして、成功の秘訣を含めたあらゆることをノートに記録している。

ベスト・オブ・ベストのマラソン ランナーのトレーニングに興味がありますか?

(2020 Pool)

どこで、トレーニングしているの?

エリウド・キプチョゲは、海抜2500mのケニア高地にあるカプタガットでトレーニングしている。

ケニアの歴史の中で、カプタガットは、イギリス植民地主義者が多く住み着いた場所だったが、マラソン界のレジェンドであるモーゼス・タヌイや、スティープルチェイスのオリンピック・チャンピオンのブライミン・キプルトをはじめとする、世界トップクラスのランナーたちを生み出した場所だということはあまり知られていない。

グローバル・スポーツ・コミュニケーションのトレーニングキャンプは、キプチョゲのメンターで、コーチでもあるスティープルチェイスのオリンピック銀メダリスト、パトリック・サングによって始められた。

約30名のアスリートが、週に最低5日はここに寝泊まりしながら行なっているベーシックなキャンプで、シンプルを原則とする理念に基づいている。

キャンプには、メインの建物、標準的なドミトリー、キッチン、食堂、小さなテレビと理学療法を行う部屋がある。

「気が散るものはない」

過去19年間、ほとんどの時間をここで過ごしてきたキプチョゲは、このミニマリスト・キャンプについて、ineos.comにそう語っている。

「2002年の頃は、水道がなくて、近くの井戸から水を汲んでいた。でも今は水道もあるし、ソーラーパネルを使った暖房もある」

キプチョゲらアスリートたちは、自分たちでキャンプ内での家事をこなし、自由時間はおしゃべりしたりリラックスして過ごしている。

サングによると、キプチョゲがマラソンで成功したことで、カプタガットはさらに知名度を上げたという。

「多くのアスリートがトレーニングのためにカプタガットを訪れ、それが経済的な効果をもたらしている。

「だからこそ、エリウドは単なるアスリートではないのだ。彼は様々な面でインスピレーションを与える存在なのだ」と、サングはineos.comに語っている。

どうやって、トレーニングしているの?

キプチョゲのトレーニングでは、相当量のランニングに加え、トラックを使った練習やコアセッションも行なわれる。

コーチのサングが組み立てたトレーニングプランでは、主に午前と午後にワークアウトを行う。

マラソン・ハンドブックによると、5 - 6日にわたる彼の典型的なワークアウトのメニューは次の通り:

  • ロングラン(30 - 40km)を1回
  • スローランを数回
  • コアセッションを2回
  • ストレングス&コンディショニングを毎日1回
  • ファルトレク(トラックでのスピードトレーニング)セッションを1 - 2回

「ロングランは、2週間に1回のペースで行なっている」と、サングはドキュメンタリー番組『NNランニング』で明かしている。

「前回のロングランが丘陵コースであれば、今回は中程度のコース、といったように組み合わせを考えている」

「ロングランは私にとって非常に重要です...これだけ長い距離を走るには、やっぱり走ることが必要なんだと体が感じるのです」とキプチョゲはドキュメンタリー番組で説明している。

「ロングランをすればするほど、より長時間のランに体が反応して、レースでの高いパフォーマンスになる」

世界記録保持者であるキプチョゲは、トレーニングに没頭することでも有名だ。

彼の集中力はすさまじい。

「彼はものすごくポジティブで、本当にフォーカスしている」

2019年10月、ウィーンで、キプチョゲが人類で初めてマラソンで2時間を切ったレースの前に、サングは Olympic Channelにこう語っている。

「18年間、エリウドがトレーニングについて私に何か尋ねてきたことは一度もない。彼がトレーニング場所に現れたら、その日の計画を時間単位で伝えるだけだ」

「この18年間、彼が私に、1年、1ヶ月、あるいは1週間単位の計画を求めてきたことは、一度もない」

フィジオ セッションを大切にしているキプチョゲは、常にフィジオセラピストのピーター・ンドゥヒウと行動をともにしている。キプチョゲのトレーニングに励む姿勢を称賛するひとりだ。

「トレーニングプログラムに加えて、週に2回、それぞれ1時間のコアセッションを彼は行なっている。エリウドにエクササイズ メニューを伝えると、彼は言われたとおりに実行する。たとえそれがタフなものであってもね。他の選手が文句を言おうとすると、『いや...やろう!』って彼が励ますんだ」

誰が、トレーニングのパートナー?

カプタガットのキャンプでいつも練習をともにしている仲間たちは、INEOSチャレンジでの1時間59分40秒のペース実現に貢献したチームのメンバーだ。

彼らは、36歳のキプチョゲのトレーニングプログラムにおいて、重要な役割を果たしている。

「天才でもない限り、自分だけでトレーニングをして、同じレベルの結果を出すのは不可能だ」とキプチョゲは言う。

「私が大切にしているフィロソフィーは、チームの1%になることは、自分の100%よりも重要であるということ、つまりチームワークだ」

「私は何よりもチームワークを大切にしている」

東京2020でのタイトル防衛戦を前に、彼はOlympics.comにこのように語っている。

彼の親しい友人であり、トレーニングパートナーでもあるのが、世界クロスカントリー選手権で優勝4回、さらには世界ハーフマラソンのチャンピオンでもあるジェフリー・カムウォルと、元世界ジュニア・ユースチャンピオンのオーガスティン・チョゲだ。

また、2度の世界マラソンのチャンピオンであるアベル・キルイと、2017年の世界チャンピオンのジョフリー・キルイもいる。

ウガンダのオリンピックマラソン チャンピオンであるスティーブン・キプロティチや、オランダのマラソン記録保持者であるアブディ・ナギーエも、キプチョゲとよく練習をともにしている外国人マラソンランナーだ。

「エリウドとは17年前からの付き合いで、何度か一緒にレースにも出ているよ。2003年の世界クロスカントリーでは、同じチームで出場したんだ。そのときは彼が金メダルで、僕は4位だった」

ウィーンでの壮絶なレースを前に、オーガスティン・チョゲは Olympic Channelに語っている。

「同じ年、彼はパリ(世界選手権)で、ヒシャム・エルゲルージとケネニサ・ベケレを破った。それ以来、彼は最高の友人さ。僕の父か兄のような存在なんだ」

キプチョゲのトレーニング仲間は、彼のハードワークぶりや、奮い立たせてくれる姿に感謝している。

「僕たちは何年も一緒にトレーニングしている。彼はトレーニング中、とても厳しく、熱心に取り組んでいる選手のひとりだ」

「また、世界で最も有名なアスリートのひとりであるにもかかわらず、ものすごくシンプルなんだ」と、チョゲは教えてくれた。

男子マラソンを観るには

オリンピックの男子マラソンは、8月8日(日)に札幌大通公園で開催された。

競技のリプレイは、Olympic.comで見ることができる(地域制限あり)。

ライブブログでは、東京2020のドラマをリアルタイムで更新している。

もっと見る