高橋正直:リオ五輪のリベンジを誓う馬場馬術の愛馬家…理想は「人馬一心」の演技

馬を自宅で飼育し、相棒たちとのコミュニケーションを深める

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明治大時代に障害馬術から馬場馬術に転向。2016年のリオデジャネイロ五輪にも出場している

東京五輪で2度目のオリンピック出場をめざす高橋正直(まさなお)の座右の銘は、「人馬一心」。自宅で多頭の馬を飼い、日ごろから馬と心を通わせることを大切にしている。大舞台でベストパフォーマンスを出すためには、技術はもちろん、馬との固い信頼関係が欠かせないからだ。

4年半の留学で急成長し、自宅での育成も開始

馬場馬術で東京五輪出場をめざす高橋正直(まさなお)の座右の銘は、「人馬一体」ならぬ「人馬一心」だ。

高橋にとって「馬」は、幼いころから身近な存在だった。群馬県渋川市にある実家のすぐ横は乗馬クラブで、通学時にいつも馬の姿を見てきた。そして小学5年時にオーストラリアで経験したトレッキングで乗馬の楽しみを知り、乗馬クラブの門をたたく。しばらくは障害馬術を専門としていたが、明治大学時代に目にした馬場馬術の演技に心を奪われ、競技の転向を決めた。

2年ほどは下積み時代が続いたものの、大学3年から4年にかけて成績が上昇していった。4年時には、全日本学生馬術選手権で優勝を果たす。これをきっかけにドイツへの4年半の馬術留学を決意。馬術の本場で磨きをかけ、日本を代表する選手へと駆け上がっていった。

馬術留学中、ヨーロッパの優れた馬術環境を目の当たりにした高橋は、帰国後、自宅に厩舎を構えて馬の育成を開始した。1頭から始まり、20頭近くにまで増えた馬の世話で毎日忙しなく、完全なオフの日はないという。

だが高橋は、トレーニングの時だけでなく、日々の世話を通して馬の性格を理解したり、心を通わせたりすることが重要だと考えている。理想に掲げる「人馬一心」、馬と心を通わせたパフォーマンスを実現するためだ。いずれは自分自身で育て上げた馬とともに、オリンピックや世界選手権などの大舞台を踏むことを目標にしている。

新たな相棒とともに2度目のオリンピックへ

2016年のリオデジャネイロ五輪で、高橋は念願のオリンピック初出場を果たした。しかし、個人では一次予選58位と力を発揮できないまま敗退。団体でも予選11位に終わり、決勝進出を逃した。

四年に一度の晴れ舞台となれば、緊張感は高まり、体も硬くなる。それが馬に伝わってしまうと、思うようなパフォーマンスを披露することはできない。リオデジャネイロ五輪は、馬術の魅力と怖さの両面を身をもって体感した大会となった。

男女分け隔てなく競い合い、2012年のロンドン五輪では当時71歳の法華津寛(ほけつ・ひろし)が出場するなど、幅広い年齢層の選手が活躍できる馬場馬術では、筋力や持久力以上に、技術や経験が糧となる。高橋が前回大会で味わった悔しさもまた、東京五輪に生かすことができるはずだ。

2018年夏のアジア競技大会では、馬場馬術の団体での金メダル獲得に貢献した。だが、個人では予選を4位で終えながら、決勝では9位と振るわず。その後、高橋は大きな決断を下した。リオデジャネイロ五輪やアジア大会をともに戦った「ファブリアーノ」を引退させ、新たなパートナーを探すことにしたのだ。

すでに世界選手権で共演しているルビコンユニテクノ号か、2019年にヨーロッパでの競技会に出場予定のイートンユニテクノ号。ドイツで飼育されているこの2頭のどちらかの相棒と東京五輪出場をめざす。東京五輪こそは「人馬一心」のパフォーマンスを見せる——その誓いを胸に、残された時間のなかで、馬との信頼関係をさらに強固にすることに尽力していく。

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