【競泳】日本選手権:女子100mバタフライ優勝の池江璃花子「言葉にできないような気持ち」

東京五輪の女子400mメドレーリレー派遣標準記録を突破

1 執筆者 オリンピックチャンネル編集部
競泳日本選手権/池江の力泳

Tokyo 2020(東京五輪)の日本代表選考会を兼ねる日本選手権水泳競技大会・競泳競技「ジャパンスイム2021」が4月3日に開幕。競技2日目の4日は女子100mバタフライ決勝が行われ、前日の予選・準決勝を突破した池江璃花子(ルネサンス/日本大学)は、第3レーンに立った。(写真:時事)

同種目の日本記録(56秒08)保持者である池江は2019年2月に急性リンパ性白血病に罹患したことを公表。同年12月に退院すると競技復帰に向けてトレーニングを再開していた。池江は「パリ五輪出場」が目標と公言。東京五輪の日本代表選考会でもある今大会にあたって、同種目派遣標準記録(57秒10)を下回る「58秒10ぐらいが出れば良いかなと思っていた」と明かしたが、レースの結果は57秒77で優勝となった。この記録は東京五輪の同種目派遣標準記録には至らなかったものの、女子400mメドレーリレー(バタフライ)の派遣標準記録(57秒92)を突破。大会後に行われる選手選考委員会の結果次第となるが、池江の東京五輪出場内定は、ほぼ確実となった。

「正直7秒台が出るとは思ってなかったですし、順位が1位と見えた瞬間に驚きました。うれしかったですし、びっくりして何が起こったか分からないというか、いまだに整理がついていないような状況です」

レース後の取材に応じた池江は、レース直後の気持ちを「整理がついていない」という言葉で表現した。東京五輪出場内定をほぼ確実としたものの個人種目ではなくリレー種目ということもあり「もちろんうれしい」としながらも「実感がわいていない」と語る。

■「意外と追いつかれてなかった」

女子100mバタフライは大会初日に予選と準決勝の2レースを行った。池江は「1本目のレース(予選)は『まあまあ、いい感じで泳げているな』と感じていたのですが、2本目(準決勝)は、2本目の疲れもあり、後半は体が動かなかった」と振り返る。疲労に関しては「一発レースなので心配ないと思っていた」が、「予選・準決勝ではターンがうまく合わなかった」ことが不安要素だったという。しかし、こうした問題も「スタートのドルフィンキックの回数を変えて調節」することで解決した。

ただ、技術的な問題よりも、気持ちの方が重要だったようだ。「ラスト10メートルで一気に腕が回らなくなって落ちるレースを予選、準決勝でやっていた」と語った池江は、その課題克服について「あとは気持ちでここまで来た」と強調する。その気持ちとは何か。その問いに池江は「3位以内に入りたいという気持ちがあって。だけど頭の片隅にはちょっと優勝したい気持ちもあって。レース中もほかの選手のことを気にせずに泳げて、自分のレースができて良かった」と答えた。

集中して自分のレースができたという池江だが、第4レーンを泳ぐ長谷川涼香(東京ドーム/日本大学)が迫っていると感じたと言う。「体力的に考えても長谷川選手が有利なので、追いつかれると思っていたのですが、思ったよりタイム差があったので(長谷川の記録は58秒18で2位)、意外と追いつかれていなかったんだと思いました」とレースを振り返った。

■「言葉にできないような表現できないような気持ち」

池江は2020年8月、東京都特別水泳大会でレースに復帰。2021年2月の東京都オープンの女子50mバタフライで復帰後初めて優勝する。そして東京五輪出場も現実に見えてきた。池江はレースを終えた直後、何を感じたのだろうか。

「順位を先に見て驚いた。その後タイムを見てリレーの派遣記録を切っていると思って、そこで初めてうれしいという感情が上がってきました」

レース後、池江はしばらくの時間、プールから上がることができずにいた。

「本当に、本当に言葉にできないような、表現できないような、そんなうれしい気持ちになりました。あの一瞬でも、今までの自分のつらかったこととか、いろいろ思い出してきました。ここまで戻ってこられたことがうれしくて、なかなか体もきつかったですし、上がれなかったです」

「バタフライで可能性があるとは全く思っていなかった」と振り返る池江。「泳いでも誰にも勝てなかった時のことを最初に思い出しました。復帰後初めて出場した女子100mバタフライのレースを考えても、自分が100mで活躍できるのは先のことだと思いました。ただ、もし今回負けても、来年はもう負けることはないだろうという気持ちでレースに臨めました」と語った。

まだ「実感がわいていない」という池江だが、その気持ちはすでに世界の舞台へ向かっている。

「今回は優勝できてうれしいですけど、このタイムで世界と戦えるかと言えばそういうタイムではないので、さらに高みを目指したいと思います」

同種目の世界記録はリオデジャネイロ五輪でサラ・シェーストレム(スウェーデン)が記録した55秒48となっている。

「出場が決まったら、東京五輪に向けてさらにタイムを伸ばしていくことを目標にします。リオデジャネイロ五輪の日本代表選考会(ジャパンスイム2016)でも、今日とほぼ変わらないタイム(57秒71)だったので、本番でタイムを上げられるような練習を積んでいけたら良いなと思います」

「自己ベストには遠い記録ですが、57秒台を出せたということは良い経験になったと思います。イチから水泳を始めて、イチからという気持ちの中で、ここまで早く戻ってこれた。そのことは、すごく良かったなと思います」と前を向いて語る池江。復帰レースで口にした「第二の水泳人生」は着実に前へ進んでいる。

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