「東京五輪で、伝説のチームへ――」
1964年の東京五輪で象徴とも言うべき活躍を見せた「東洋の魔女」の再来を目指した日本女子バレー代表・火の鳥NIPPON。しかし、2017年から歩んだ挑戦の先は目指してきたものとは大きく異なり、厳しい結果を突きつけられた。
■快勝スタートも、エース・古賀紗理那が負傷
初戦のケニア戦を勝って一気に波へ乗る。戦前に描いたプランがまさかのアクシデントに見舞われた。2セットを難なく連取して迎えた第3セットの序盤、エースの古賀紗理那が着地時に右足首をひねり、起き上がることができない。そのまま途中退場となり、石井優希に急遽交代となった。試合はその石井や、終盤にリリーフサーバーとして出場した田代佳奈美の活躍で3-0のストレート勝ちを収めた。だがネーションズリーグでも攻守の要として活躍し、日本にとって欠かせぬ存在である古賀の不在はその後の試合にも大きな影響を及ぼした。
2戦目はセルビア、3戦目はブラジルと対戦。この予選ラウンドを戦う上で、決勝トーナメント進出、さらにはメダル獲得のために1つでも上の順位で予選を勝ち上がるために重要な試合と位置付けられた2戦で、大黒柱の古賀を欠いた日本は完敗を喫する。
セルビア戦では、ケニア戦の途中出場に続いてスタメン出場した石井が奮起。サーブレシーブでも柱になり、攻撃面でも相手ブロックやディフェンスの裏をかくプレーも見せる。だが、崩れた状況からも大エースのティヤナ・ボシュコビッチにボールを集めるセルビアの攻撃力に日本は圧倒された。
第3戦のブラジルは、自国開催のリオデジャネイロ五輪で準々決勝敗退を喫し、1からチームを作り上げてきたブラジルの勝利への執念に飲み込まれ、日本の良さを発揮することができない。中田久美監督がかねてから「このチームのエース」と明言してきた黒後愛の攻撃も精彩を欠き、期待のセッター・籾井あきも劣勢を打破しようと焦りが見えた。ゲームメイクにほころびが出たまま立て直せず、手痛い連敗を喫した。
■大一番の「日韓戦」を落とすと、ドミニカにも敗れ終戦...
1勝2敗と黒星が先行し、決勝トーナメント進出に向けて絶対に負けられない韓国戦。負傷から6日と決して万全ではないが、この試合ではスタメンに古賀が再び名を連ねた。セッターは田代、オポジットは黒後に代えて林琴奈、ミドルブロッカーもこの2戦好調だった島村春世に代えて、山田二千華を投入する新たな布陣で臨んだ。
しかしネーションズリーグでも試されていなかったメンバーということもあり、試合の立ち上がりから連携ミスも相次ぐと、隙を逃がさず韓国が先行。日本もすかさずメンバー交代し、籾井、黒後、島村を投入するも、要所でエースのキム・ヨンギョンにトスが集まる韓国に2-1と先行され、崖っぷちへ追い込まれる。そのような絶体絶命の状況でチームを鼓舞したのが古賀だった。「ケガをしてすぐ治療して下さった会場の医療スタッフ、医療従事者の方々に感謝したい」と述べたエースがケガを感じさせないプレーで奮闘。主将の荒木絵里香や島村とともに闘志を前面に打ち出し点をもぎ取り、試合はフルセットへ突入する。
苦しい展開を強いられながらも荒木のブロックやスパイク、古賀や石川真佑のスパイクで先行した日本は14-12とマッチポイントを握る。しかし日本はあと1点が遠かった。デュースの末、韓国が懸命のブロック、レシーブで大逆転。日本は14-16で最終セットを失い、フルセットの末に手痛い3敗目を喫した。
そして、1勝3敗でラスト1戦を迎える。日本かドミニカ共和国か…。この試合を制したチームが決勝トーナメント進出を決める重要な1戦。何が何でも勝つ、とばかりにチームが一体となり攻撃や守備に転ずるドミニカ共和国に、日本は序盤から圧倒される。
日本はミスが相次ぎ10-25と大差で第1セットを失うなど、なかなかリズムに乗りきれない。2セットを先取され、第3セットを取り返したが、そのまま試合の流れを引き戻すには至らず1-3で敗れ、予選ラウンド敗退が決定。中田監督は「悔しい」と言葉少なに敗戦を噛みしめた。
大会前には2強とされた中国が予選ラウンド敗退を喫し、もう一角のセルビアも準決勝でアメリカに敗れた。日本に勝利した韓国は、波乱の大会を象徴するように快進撃を見せる。準々決勝では予選ラウンドで中国を下したトルコを破り、準決勝進出を果たすなど、まさに世界を驚かせる展開となった。
決勝はその韓国に勝利したブラジルと、完璧なブロックシステムでセルビアを打破したアメリカが対戦。決勝でもサーブで攻撃を絞り、ブロックとレシーブからつなぎ、スピードのある複数の攻撃を絡ませたアメリカがブラジルを圧倒。3-0で勝利を収め、五輪ではまさに悲願であった初の金メダルを獲得した。
歓喜の涙を流したアメリカの選手たちと対照的に、「なぜここで敗れたのか」と厳しすぎる現実を前に肩を落とした日本代表の選手たち。ここで代表を退く選手も少なくないが、これからの日本女子バレーを背負う選手たちにとってこの試練は強くなるためのチャンスでもある。
悔しい敗戦から、どう立ち上がるか。日本女子バレーのこれからに注目だ。