2008年の北京五輪以来となる、3大会ぶりの出場を果たしたバレーボールの男子日本代表・龍神NIPPON。予選ラウンドの初戦でベネズエラに勝利し、実に29年ぶりとなる五輪での勝利を挙げたが、この勝利ももはや彼らにとっては快挙ではなかった。
■日本は連勝スタート、イランとの大一番を制し準々決勝へ
2戦目のカナダにも3-1で勝利。試合ではチームの柱であり絶対的エースでもある主将の石川祐希と、昨季初選出され急成長を遂げた高橋藍が、攻撃すると見せかけてトスを上げ相手ブロックを欺く華麗な「フェイクトス」からの攻撃をノーマークで決める。清水邦広以外の選手は全員初出場の五輪もプレッシャーを感じることなく堂々と、やってきたことを存分に発揮する姿が見られた。
世界ランクでも格上のイタリア、ポーランドに対してはともにストレートでの敗戦となったが、やるべきことをやってどんな相手にもぶつかる日本らしさは健在。サーブで攻め、相手の攻撃をレシーブでつなぎ、石川、高橋、オポジットの西田有志が切り返して得点を挙げる日本の戦いぶりに、ポーランドのフィタル・ヘイネン監督も「素晴らしかった」と賛辞を送ったほどだ。
予選の大一番は最終戦。アジア最大のライバル、イランとの対決だ。ともに2勝2敗で、勝利したチームが各グループの上位4チームが進出する決勝トーナメントへ進む。両者にとって絶対に負けられない一戦は、まさに激闘となった。
イランの武器であるミドルブロッカーを軸とした攻撃展開に対し、日本はセッターの関田誠大が、石川、西田を要所で使い得点を重ねる。まさに1点を巡る白熱した展開に、審判のジャッジ1つに対しても両チームが執拗に食い下がる場面も見られた熱戦は、イランがセットカウント2-1とリードする。
いわば日本にとっては、絶体絶命の状況に追い込まれた。実際これまでなら強豪相手にリードを奪われれば、そのままズルズルと後退することが多かったが、日本男子は世界と渡り合う強いチームへと変貌を遂げていた。
第4セットを取り返し、迎えた第5セット。両チーム最初のサーバーとなった石川が放ったサーブは、2本連続サービスエースという圧巻の展開を見せる。最終セットも日本がイランを押し切り、フルセットの逆転勝ちで見事準々決勝進出を果たす。
■世界ランク1位のブラジルにも果敢に戦う
最低目標としていた予選ラウンド突破はクリアしたが、それでもなお、まだ誰も満足していないとばかりに主将の石川は「まだまだ、ここから気を引き締めたい」と語ったように、1つ勝ってもまた次を見据える。まさに強い日本男子バレー代表“復活”の瞬間だった。
準々決勝、日本の対戦相手はブラジル。世界ランク1位で、リオデジャネイロ五輪も制したまさに男子バレーボール界の絶対王者と呼ぶべき存在を相手に、ここでも日本は堂々たる姿を見せた。強烈なサーブを高橋やリベロの山本智大がレシーブし、セッターの関田が石川、西田、高橋だけでなく、ミドルブロッカーの山内晶大、小野寺太志の攻撃も入れ、ブラジルのブロックを翻弄する。
セットカウント0-2とリードされた第3セットの終盤にも、石川がイラン戦さながらの連続サービスエースで追い上げるなど、見せ場もつくった。だが随所で上回ったブラジルの壁を打ち破ることはできずストレートで敗戦。日本は最終成績を7位で終えた。
今できるすべてを出し尽くしながらも、それでも勝てない悔しさに試合後、多くの選手たちが涙した。だが、確実に「世界の強豪に対しても戦える」という手応えをつかんだのも紛れもない事実だ。惜しくも敗れはしたが、中垣内祐一監督も「選手はここまで非常によくやった」と称えた。
日本以外の成績に目を向ければ、準々決勝を突破し準決勝進出を果たしたのはブラジル、フランス、ROC、アルゼンチンとすべて日本とは逆のB組を勝ち上がったチームばかり。世界選手権に続いて悲願の五輪制覇を狙ったポーランドやイタリアはここで夢破れ、これまで代表チームを牽引してきた多くの選手が代表から退くことを表明した。
さらに準決勝も盤石と思われたブラジルにROCが勝利し、フランスがアルゼンチンを撃破。ROCが勝てばロンドン五輪以来、フランスが勝てば初の五輪王者の座をかけ、両者が激突した決勝戦は、フルセットの末にフランスが勝利し、五輪男子バレーボールで獲得した初のメダルが金メダルという快挙を成し遂げた。
3年後のパリ五輪で連覇を狙うフランスを筆頭に、ポーランド、イタリアなど出場国の多くが次世代の主役となる若手選手を多く揃えるが、日本も負けていない。東京での経験、悔しさを晴らして3年後の主役となるべく、パリに向けた新たな戦いが始まった。