2018年2月、卓球チームワールドカップで不動のレギュラーとして、日本の準優勝に貢献した“ひな”こと、早田ひな。日本卓球女子代表が、東京五輪で金メダルを取るための鍵となるミレニアム生まれの黄金世代で一翼を担う存在となっている。
“みう”“みま”の愛称で親しまれ、日本代表のエース級にまで成長した平野美宇、伊藤美誠は、ともにジュニア世界選手権の日本代表として、中国を撃破し、世界一となったときのメンバーだ。ジュニア時代には輝かしい戦績を誇る早田だが、世界の舞台で先に活躍したのは、同世代のライバルであり、良き友でもある“みう”“みま”の2人だった。そんな2人の背中を追いかけながら、“ひな”もこの数年で急成長。遅れてきた努力家は、世界の舞台でようやく花を咲かせようとしている。
世界で勝つために手に入れた新しい武器
4歳のとき、姉が通う名門の石田卓球クラブに、一緒に付いて行ったことがきっかけで、卓球を始めたという彼女。その後メキメキと頭角を現し、中学1、2年で全国中学卓球大会を連覇する。そう聞くと、順風満帆のキャリアのように思えるかもしれないが、実はそうではない。平野と伊藤は中学を卒業した頃からワールドツアー最年少優勝。2016年、伊藤がリオデジャネイロ五輪で団体銅メダル。平野はワールカップ最年少優勝。二人は脚光を浴びていくなか、早田は“みう”“みま”の後塵を拝することになる。
黄金世代と言われているだけあって、この世代はタレントが豊富だ。日本代表になるためには、“みう”“みま”以外にも、世界ジュニア女子シングルス3位の加藤美優、グランドファイナル女子ダブルスで、早田とコンビを組んで優勝した浜本由惟らもライバルとなるわけで、熾烈な競争を勝ち抜かなければならない。
自ら殻を打ち破ったのは、15歳で出場した2016年3月のカタールオープンだろう。女子卓球界の女王、丁寧から練習相手に指名されたことがきっかけだ。これは左利きの丁寧の対戦相手が、“サウスポー”であったためなのだが、左利きの選手は、右利きの選手と練習する機会が圧倒的に多いため、右利きの選手には慣れやすく、いつも右利きの選手と練習していると、左利きの長所を生かせないことも珍しくないそうだ。中国には左利きの選手が、左利きの長所を生かすための専用メニューがあるという。
「もっと打っていいよと言われていたのですが、緊張し過ぎてしまって……。練習の後で、15歳の時にどんな練習をしていたのかを尋ねたら、フットワークとサービスからの3球目攻撃の戦術を集中的に練習したと言っていました」と、早田はコメントを残している。憧れの選手からかけられた言葉は、きっと早田に、嬉しさと自信をもたらし、自分がやるべきことの気づきを与えたことだろう。
壁を打ち破った次世代のサウスポー
世界レベルの左利き選手になるになるためのヒントが、女王・丁寧のプレーには詰まっていた。172センチと高さがあるサウスポー、台から離れて長い腕を振るという日本選手にはいないタイプの丁寧を参考に、早田はプレースタイルを変えた。
手足の長さを生かすため、台から離れた位置に立つことを決めたのだ。
167センチという早田の身長は、小柄な選手の多い日本女子の中で、フィジカル的なアドバンテージが極めて高い。それは中国選手と比べても、引けを取っておらず、前陣ドライブ型の多い日本女子選手の中で、台から離れて強烈なフォアドライブが打てる貴重な存在だ。
その長身を生かしたダイナミックなプレーを持ち味に、しなやかな両ハンドから繰り出されるドライブは世界屈指と言える。海外選手に打ち負けない強さがある。緩急をつけるチキータなど、台上プレーも多彩だ。どんなに速くて、厳しいコースに打たれても、平然と相手コートに打ち返すレシーブ技術。それこそが彼女の最大の武器なのかもしれない。
プレースタイルの変更が結果をもたらした
2016年に地元福岡の希望が丘高校に進学し、1年生でインターハイの女子シングルスを制すると、その勢いのまま、12月のワールドツアー・グランドファイナルのU-21女子シングルスと女子ダブルス(パートナーは浜本由惟)で優勝し、2冠王となった。日本人の2冠達成は初のことである。
2017年はアジア選手権女子団体で銀メダル、伊藤と組んだ女子ダブルスで銅メダルを獲得。初出場となったドイツ・デュッセルドルフで開催された世界卓球選手権でも、伊藤との女子ダブルスで銅メダルを獲得。日本女子として16年ぶりの快挙だった。
その後、試合を重ねるごとに、伊藤とのコンビネーションは成長。2017年11月のワールドツアー・スウェーデンオープンでは、当時世界ランク1・2位の中国ペアに勝利し優勝、さらに2018年3月のドイツオープンの決勝で韓国ペアを破り優勝、2018年12月には、グランドファイナルで浜本由惟と組んだ2016年大会以来の優勝を果たした。
代表2枠を狙う戦いは続く
2018年11月に行われたワールドツアー・オーストリアオープンで、早田ひなは伊藤美誠と組んだ女子ダブルスで見事に優勝を果たした。“みま”と“ひな”のペアは、2018年3月のドイツオープン、7月のオーストラリアオープン、そして11月のオーストリアオープンと3勝を挙げ、女子ダブルスで世界ランキング1位に立った。韓国・仁川でのグランドファイナルも制している。
彼女たちのコンビネーションは、試合を重ねるごとに良くなっており、2020年東京五輪の女子ダブルスで、このペアリングが打倒中国の重要なカギとなる可能性が高い。
伊藤と組んだダブルスで好調な成績を収めている早田は、シングルスでも世界トップクラスの実力があることを忘れないでほしい。2019年4月時点で世界ランク34位の早田だが、ワールドツアーの下部シリーズとなるチャレンジプラスのポルトガル、オマーン大会でシングルス2連覇を果たしている。
オリンピックに出場するためには、2020年1月時点で世界ランキングの上位2人がシングルスの代表に決まり、残る1つの枠は、ダブルスなどを考慮して強化本部が推薦する仕組みだ。石川佳純、伊藤美誠、平野美宇、佐藤瞳、加藤美優などタレント揃いの日本女子卓球界の中で、代表入りは容易ではない。
伸びしろが楽しみな選手のひとりだが、東京五輪に出るために残された時間はあとわずかしかない。目標の舞台に立つためには、ワールドツアーで結果を出し続けるしかないだろう。恵まれた体格から繰り出すスケールの大きなプレースタイルで、見る者を魅了する彼女。同世代のライバルたちとの厳しい競争が、きっと彼女を大きく成長させることだろう。若きサウスポーの戦いに注目したい。