中国の高くて厚い壁に史上最も肉薄している卓球日本女子

卓球女子シングルスは東京五輪でのメダル獲得が十分に可能

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2016年リオデジャネイロ五輪では、女子団体で福原愛(左)、石川佳純(中央)、伊藤美誠(右)が銅メダルを獲得した

長い低迷の時期を抜け出し、今やかつてないほど中国に肉薄する卓球日本女子。その実力とスター性は日本に空前の卓球ブームを巻き起こしている。卓球ブームの真っただ中で迎える東京五輪。女子シングルス日本初のメダル獲得の日は確実に近づいている。

卓球はテニスの大流行から生まれた

卓球は、1880年代前半のロンドンで誕生したと言われる。産業革命で急速に豊かになった中産階級の人々の間で、ローン(芝生)テニスが大流行し、毎週のように自宅でテニス・パーティーが催された。家庭には食卓があったため、そこでテニスの真似事をするようになったのがテーブル・テニス、すなわち卓球の始まりだ。

卓球は「ピンポン」とも呼ばれる。「ピンポン」は競技名ではなく製品名だ。1900年にある玩具メーカーが、それまでのゴムボールに代わり、セルロイド球を使った卓球セットを「ピンポン」と名づけて売り出し、世界中に大流行した。

1926年には国際卓球連盟が創設され、卓球は本格的なスポーツとして歩み出した。文化的にも実力的にも長く欧州が中心の時代が続いたが、1950年代に日本が常識を打ち破る攻撃卓球で世界制覇を成し遂げる。1960年代にはそれを追う中国が台頭し、1970年代になると欧州が復活して群雄割拠の時代となる。

オリンピックと卓球日本

卓球がオリンピックの正式種目になったのは1988年ソウル五輪からだ。当時の日本卓球は男女ともに長い低迷の時代にあった。ソウル五輪では星野美香(現・馬場姓、女子ナショナルチーム監督)と石田清美の女子ダブルスが銅メダル決定戦まで進んだが、以後、日本選手がメダル争いに絡むことはない時代が続いた。

2000年代後半から強化策が実って徐々に競争力が上がり、2008年北京五輪では、男子団体、女子団体ともメダル獲得まであと一勝というところまで迫った。

そして2012年ロンドン五輪、ついに女子団体で平野早矢香、福原愛、石川佳純の「三人娘」が銀メダルを獲得し、日本中に感動の渦を巻き起こした。さらに石川は女子シングルスで銅メダル決定戦まで進み、シンガポールのエース、馮天薇(フォン・ティエンウェイ)に惜敗している。

続く2016年リオデジャネイロ五輪では、女子団体で福原愛、石川、伊藤美誠の新生「3人娘」で、準決勝でドイツに惜敗し涙したが、その後、銅メダル決定戦でシンガポールを破り、2大会連続メダル獲得の歓喜に再び泣いた。女子シングルスでは、福原が銅メダル決定戦まで進んだが、北朝鮮のキム・ソンイに敗れている。

女子シングルスは2大会連続、ぎりぎりのところでメダルを逃している状態だ。

石川佳純、伊藤美誠、平野美宇の実力は確か

日本卓球協会による、東京五輪の女子シングルス日本代表の選考基準は明快で、2020年1月に発表される世界ランキングにおいて日本人上位2名が選出されることになっている。女子団体は、女子シングルスに出場する2名に日本卓球協会が推薦する1名を加えた3名、東京五輪から新たに加わる混合ダブルスは、男女の団体戦に出場する3名ずつのなかから日本卓球協会が1ペアを選定する。

世界ランキングの算出方法はシンプルで、対象の大会で上位入賞するとポイントが与えられ、その積算ポイントの多い順となっている。対象の大会で負けてもポイントが下がることはないので、世界ランキングを上げるためには、より多くの大会に出た方が得だ。より多くの選手を大会に出させることを目的としたランキングシステムとなっている。

そのため、実際には強くても、何らかの事情で対象大会に出ていない選手は、実力よりも低い世界ランキングを持つことになる。日本選手が時々格下の世界ランキングの選手に負けることがあるのは、そのような事情であることが多い。

2018年12月発表の日本女子の世界ランキングは、石川が3位、伊藤美誠(みま)が7位、平野美宇が9位、佐藤瞳が14位、芝田沙季(さき)が17位と続く。当然、2019年はポイントを稼ぐためにこれまで以上に毎月のように対象大会に出場し、熾烈な代表争いが繰り広げられることになる。同じ日本チームとして大会に出場し、ライバルの敗戦を願いながら戦うという過酷な一年だ。

最終的に誰が選出されるかは予断を許さないが、やはり可能性が高いのは石川、伊藤、平野の3人だろう。

石川は2012年ロンドン五輪で銅メダル決定戦まで行った実績を持つ。平野と伊藤は、それぞれ2017年と2018年に中国のトップ3を破る大活躍を見せているため、誰が代表になったとしても東京五輪での活躍が期待できる。

東京五輪の女子シングルスは7月25日からの6日間

東京五輪での卓球競技は東京・千駄ヶ谷の東京体育館で7月25日(土)から8月7日(金)まで行われる。前半に男子シングルス、女子シングルス、混合ダブルスの個人戦が行われ、後半に男子団体、女子団体が争われる。女子シングルスは7月25日(土)から7月30日(木)の6日間だ。試合方式は、1ゲーム11点で、先に4ゲームを取ったほうが勝ちとなる。トーナメントの勝ち抜き戦なので1回負ければ終わりだ。

メダル獲得の最大の壁はもちろん中国だ。現在の世界ランキングの上位6人のうち、5人が中国選手だ。いずれも途方もない強敵だが、なかでも手強いのは世界ランキング1位で2017年ワールドカップ金メダリストの朱雨玲(ジュ・ユリン)、世界ランキング2位でリオデジャネイロ五輪金メダリストの丁寧(ディン・ニン)、そして世界ランキングは6位だが世界選手権で4個のメダルを持つ百戦練磨の劉詩雯(リュウ・シウェン)だろう。このなかから2人が出場してくると見込まれている。

これらの強敵に対して、現在ほど日本女子が肉薄している時代は近年なく、金メダルのチャンスさえ十分にある。

中国以外の強敵としては、ロンドン五輪銅メダリストの馮天薇(フォン・ティエンウェイ/シンガポール)、リオデジャネイロ五輪銅メダリストのキム・ソンイ(北朝鮮)がいるが、上記の日本選手はここ2年ほど、この両名を凌駕する実力をつけてきている。

長らく悲願となってきたオリンピック女子シングルスのメダル獲得。その日が近づいていることは間違いない。

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