Tokyo 2020(東京五輪)で、5つのリレー種目(男子4×100m、男子4×400m、女子4×100m、女子4×400m、混合4×400m)すべてに出場を目指している日本の陸上競技は、5月1〜2日に大きな山場を迎える。ポーランドのシレジアで開催される世界リレーで、その可否が決まるからだ。
世界リレーは、世界陸連(WA/World Athletics)が主催するリレー種目のみを行う国際大会。2014年に新設されたばかりと歴史は浅いが、WAが主催する競技会でトップクラスの格付けとなる「ワールド・アスレティックス・シリーズ」に位置する。2015年以降は奇数年の隔年で開催されていて、第4回大会となった2019年は日本(神奈川県横浜市)で開催された。
オリンピックや世界選手権で実際される上記種目のほかに、男女混合で実施される2×2×400mリレーや、シャトルハードルリレーなどの「変わり種」もある。横浜大会では、日本は国別対抗成績で過去最高となる3位の成績を収めている。
東京五輪におけるリレー種目の出場枠は、どれも16チーム(各国・地域の上限は1)。その権利は、2019年にドーハで開催された世界選手権の各該当種目上位8チームと、今回のシレジア世界リレーの各該当種目上位8チームに与えられる。
両大会とも入賞する国が出るなどして出場枠が残った場合は、2カ国以上が出場したレースの記録で順位づけられる、WAワールドランキングの上位国から拾われていく。
日本はドーハ世界選手権で、37秒43のアジア新記録を樹立して銅メダルを獲得した男子4×100mに関しては、この結果により、すでに東京五輪の出場権を獲得済み。
今回の世界リレーでは、男子の4×400mリレー、女子の4×100mと4×400mリレー、混合4×400mリレーの4種目で、まずは上位8チーム、つまり決勝進出を果たして「オリンピック切符」を手に入れることが最大の目標となる。
男子4×400mは、昨年の日本選手権を制した伊東利来也や世界大会出場経験も多い佐藤拳太郎を軸に、池田弘佑、板鼻航平、川端魁人、鈴木碧斗が代表に選出された。故障からの回復途上にあるエースのウォルシュ・ジュリアンが起用できなかったことは痛いが、フレッシュなメンバーで決勝進出を目指す。
2019年にプロジェクトチームを立ち上げて強化を進めてきた女子リレーは、ここが正念場。4×100m、4×400mともに、シレジアで決勝進出を果たすためには、予選から日本記録(4×100mは43秒39、4×400mは3分28秒91)を大きく更新していくような快走が求められる。
女子4×100mは、世界リレーへの出場権獲得の条件をクリアできず、いったんは道が閉ざされた状態だったが、上位国に棄権するチームが出たことで繰り上がり、参加が実現した。
昨年、100mで日本歴代3位の11秒35、200mで7位となる23秒44を叩きだした兒玉芽生、200mで日本歴代3位の23秒17をマークするなど、ショートスプリントで急成長を遂げた鶴田玲美が戦力の中心となる。
故障の影響で記録が伸び悩んでいた齋藤愛美の復調が心強いほか、今春から大学生となった青山華依と石川優も好調で、青山は3月末に11秒56の自己新を、また同じく11秒56の自己記録を持つ石川は4月上旬に追い風参考(3.0m)ながら11秒46の好タイムをマークしている。
女子4×400mには、エースの青山聖佳を筆頭に、松本奈菜子、髙島咲季、川田朱夏、小林茉由、新宅麻未、4月に300mで日本歴代2位の37秒19をマークした齋藤愛美(大阪成蹊大学)が、この種目でも代表メンバーに名を連ねた。
また男子2名・女子2名で1つのチームを作り、自由に走順を決めて競う混合4×400mリレーのメンバーは、男女4×400m代表から選ばれることになる。
なお、世界リレーでは、男女4×100m・男女4×400mの上位10チームおよび混合4×400mの上位12チームには、2022年にアメリカ合衆国のユージーンで開催される世界選手権・当該リレー種目の参加資格が与えられる。つまり、オリンピックの出場権が獲得できると、翌年の世界選手権のチケットも同時に手に入れられるということになる。
今回、米国、トリニダード・トバゴ、オーストラリア、ジャマイカ、カナダなどが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で大会不参加を発表しているほか、種目を絞って派遣するなどの対策を採っている国もある。
そのこと自体は非常に残念ではあるが、その分、日本が決勝に駒を進める確率は高まっている。地元開催の東京五輪で活躍するためにも、これをチャンスと受け止め、ぜひ目標を達成してほしい。
すでに五輪出場権を獲得してる男子4×100mは、ほかの4種目とは異なり、次世代の育成と層のさらなる充実を意識しての代表選出となった。まずは、ユージーン世界選手権の出場権獲得をターゲットに挑む。
このため、代表メンバーにはオリンピックや世界選手権のメダリストたちは含まれておらず、3月末に宮崎で行われた世界リレーの代表選考レースを制した坂井隆一郎を筆頭に、昨シーズンに力をつけてきた鈴木涼太や樋口一馬のほか、中学時代から活躍してきた宮本大輔。さらには昨年、高校2年生ながら日本選手権100mで決勝進出を果たした栁田大輝と、若手中心の顔ぶれとなっている。
今回のシレジアでの活躍を弾みに大きく成長し、現在トップに君臨するエースたちを脅かすような存在が現れてくるようだと、東京五輪に向けた日本男子スプリント戦線は、さらに面白いものになるはず。次代のエース候補である彼らの走りにも注目したい。