年間収入は1000億円超え。大学スポーツのビジネス化に成功したアメリカのNCAAとは【スポーツの国家的取り組み】

約1100校が加盟する世界最大の大学スポーツ組織

1 執筆者 オリンピックチャンネル編集部
NCAAは大会の主催に加え、テレビ放映権の管理も行い、年間収入は1000億円を超えている

アメリカにおける大学スポーツへの関心度は、アメリカンフットボールやバスケットボールなど、競技によってはプロスポーツを上回る。それらを統括するのが非営利団体の全米大学体育協会、通称「NCAA」であり、カレッジスポーツ関連組織としては世界最大規模を誇る。

T・ルーズベルト大統領が大学スポーツの改革を要求

全米大学体育協会、通称「NCAA」の起源をたどると、発足は1906年までさかのぼる。

歴史的背景として、アメリカでは1890年から1905年にかけての15年間において、高校、大学、レクリエーションを含めた学生のアメリカンフットボールで試合中の衝突などによる死傷事故が相次ぎ、死者数は300人以上に至った。この危険性を重く見た当時のセオドア・ルーズベルト大統領が強豪校のハーバード大学、エール大学、プリンストン大学の関係者をホワイトハウスに招き、大学スポーツの改革を要求した。

大統領の呼びかけに応じた3大学が中心となり、規則委員会(以下FRC)が設立されると、さらに海軍兵学校、コーネル大学、ペンシルベニア大学も参加。翌年、合衆国大学間運動協会(以下IAAUS)を発足させた際には、39校が参加を表明した。これがNCAAの前身である。ただし、IAAUSは中小規模の大学が中心で、FRCの3校は含まれていなかった。

1910年になると、アメフト以外のスポーツの管理にも着手し、NCAAへと改称。1911年より徐々にFRC参加校も加わり、95校まで拡大する。1915年にはFRCとNCAAが完全に統一された。当初のNCAAは競技規則の管理を主な業務としていたが、1921年以降は大会を主催するようにもなった。

1952年以降はNCAA主催の試合や大会に関するテレビ放映権の管理にも着手し、いまや年間収入は1000億円を超えている。2019年時点ではアメフトのほかにバスケットボール、野球、サッカー、アイスホッケー、テニス、ゴルフ、陸上、水泳など24競技90大会を運営。全米にある大学の半数近くに及ぶ約1100校の大学が加盟し、登録選手数は約46万人に上る。まさに世界最大規模の大学スポーツ関連組織となっている。

ディビジョンIには充実の奨学金支給

NCAAはディビジョンごとに3つの区分を設置している。各ディビジョンには5~15校程度で構成されるカンファレンスという地域リーグが設けられており、主な大会はカンファレンス内で行われる。

ディビジョンは競技のレベルだけでなく、学生数や財力も踏まえて分けられ、上からディビジョンI、ディビジョンII、ディビジョンIIIと呼ばれる。なお、アメフトの場合はディビジョンIが「フットボールボールサブディビジョン(FBS)」、「フットボールチャンピオンシップサブディビジョン(FCS)」とさらに細分化されている。

ディビジョンごとによる違いの1つが奨学金だ。NCAAは大会やイベントの開催などによって得た収入のうち、3000億円以上を毎年15万人の学生に奨学金として支給している。ディビジョンIの大学の学生には生活費も含めた奨学金が複数年与えられる一方、ディビジョンIIの大学の学生には部分的にしか与えられず、ディビジョンIIIの大学に対してはスポーツ奨学金の支給は行っていない。

アメリカにおける大学スポーツへの関心度は世界を見渡しても群を抜いている。特にアメフトやバスケのリーグ戦は全米でテレビ中継され、人気の高さはプロスポーツを上回るとも言われている。NCAAがプロスポーツ界に与える影響力も大きい。野球では、プロリーグのMLBに先んじてイヤーピース付きヘルメットを試験導入し、コーチから捕手への配給指示をスムーズにして試合時間の短縮化を図った。MLBではサイン盗み問題が大きな波紋を広げており、大学野球での実験結果は問題解決に向けたカギとなる。

一時、オリンピックの正式種目から外れる危機に陥ったレスリングも、NCAAの手にかかればメジャースポーツとなる。アメリカの学校スポーツ及びシーズンスポーツとしてのレスリングの競技人口は100万人を超え、「レスリング大国」と言われる日本の約1万人をはるかにしのぐ。全米大学レスリング大会の観客数は3日間で11万人に及ぶこともある。これはオリンピックにおけるレスリング観客数の数倍にも上る圧巻の数字だ。

2019年に日本版NCAAの「UNIVAS」が発足

アメリカにならい、日本も大学スポーツの変革に着手しようと2019年3月、大学スポーツ協会「UNIVAS(ユニバス)」を設立した。

「日本版NCAA」とも称されるユニバスは、2020年3月時点で222校が加盟。大会の整備やメディア露出の増加、パートナーシップを結んだ民間企業による学生支援などに取り組んでいる。

現状、ユニバスの活動内容は、アメフトやレスリング、体操など近年不祥事の相次いだアマチュアスポーツのコンプライアンス徹底が主となっているが、コロナ禍の2020年8月には六大学野球での「投げ銭」制度を導入、インターネット上でお金を支払ってもらうシステムを取り入れるなど、ビジネス面にも活動の幅を広げている。

発足して2年足らずのユニバス。スポンサー集めや大学スポーツの価値の向上、ユニバス自体の周知など課題は少なくない。それでも、ユニバスを中心に日本のスポーツ界に根づく古い習わしを撤廃し、大学スポーツの普及や活性化が加速していく展開が期待される。