中学や高校時代からプレーしている選手が少なく、大学生になって始めることが多いスポーツが「ボート」だ。1人で漕ぐ種目もあるが、とりわけ8人による息の合ったストロークで、水上を滑るような猛スピードで進んでいく「エイト」の姿は壮観だ。しかも、一糸乱れぬチームプレーも要求されるという点で、日本人の国民性にマッチしているかもしれない。欧米に比べて、日本国内での競技人口が少ないことは否めないが、青春モノの映画やドラマのシーンで登場することも多く、意外と知られているスポーツだ。パワーに勝る欧米選手に比べ、日本選手の五輪出場には、大きなハードルがあったが、2020年東京五輪に向け、選手たちは着々と準備を進めている。そこで、東京五輪で活躍が期待される注目選手を紹介する。
男女各7種目、高い世界の壁
水上の直線コースでオールを使ってボートを漕ぎ、オリンピックでは2000mで順位を競うボート競技。ボートに足を固定し、シートが前後に動き、主に脚力を推進力に変える。
近代ボート競技は18世紀のイギリスで誕生し、1716年にロンドンのテムズ川で、初めてレースが行われたと言われている。オリンピックでは、第2回の1900年パリ五輪から実施されている。なお、女子は1976年モントリオール五輪から行われている。
種目はオールを左右両手に1本ずつ持つ「スカル」と、両手で1本を持つ「スウィープ」の2種類。漕ぎ手の人数別に、スカルはシングル(1人)、ダブル(2人)、クオドルプル(4人)、スウィープはペア(2人)、フォア(4人)エイト(8人)と、それぞれで3種類ずつだ。2020年東京五輪では、ダブルスカルに軽量級が加わり、男女各7種目となる。
現時点では、欧米に比べて日本国内の競技人口が少ないゆえに、オリンピックの出場実績が少なく、過去にメダルを獲得した実績もない。出場枠は前年度の世界選手権の成績で決まり、開催枠国は現時点では保証されていない。これまで日本の五輪出場は軽量級ダブルスカルがほとんどで、2012年ロンドン五輪のシングルスカル女子で、榊原春奈選手が出場できたのは、本当に快挙だった。
注目される今年度の世界選手権は、8月25日(日)から、オーストリアのリンツ・オッテンスハイムで行われる。
注目選手は、五輪経験者を含む6人
注目選手は6人だ。いずれも2016年リオデジャネイロ五輪のダブルスカルに出場した中野紘志と大元英照、大石綾美と冨田千愛の4選手とシングルスカル女子の榊原春奈、若手の高島美晴だ。
中野紘志は1987年、石川県生まれ。小学校で水泳、中学校でサッカー、高校でテニスに挫折し、進学した一橋大学で出会ったボートに打ち込んだ。2009年にU23世界選手権で銀メダルを獲得。2012年から日本代表。201年、NTT東日本に就職していた中野は、その後、サラリーマンを辞めて、プロ選手として活動するようになる。2016年にはリオデジャネイロ五輪に出場し、15位という成績を収めた。
大元英照は1984年、宮城県生まれ。宮城県の塩釜高校でサッカー部に入部するつもりだったが、あまり強いクラブではなかったため、全国レベルだったボート部に、仮入部して漕いでみたところ、楽しくなって競技を始めたという。その後、仙台大学体育学部に進学し、アイリスオーヤマに入社した。2003年のU23世界選手権で4位。2006、2010、2014年アジア競技大会で、3大会連続となる金メダルを獲得。リオデジャネイロ五輪には中野とともに出場し、15位となった。
大石綾美は1991年、愛知県生まれ。中学校のバスケ部の先輩が、高校からボート競技を始めたにも関わらず、インターハイで活躍する姿にあこがれて、猿投農林高校の進学し、ボート部に入部する。その後、ボートの強豪校、早稲田大学スポーツ科学部に進学、中部電力ボート部を経て、現在はアイリスオーヤマで活動している。2013年のU23世界選手権の女子シングルスカルで3位。リオデジャネイロ五輪では、冨田千愛とタッグを組み、軽量級ダブルスカルで12位となった。
冨田千愛は1993年、鳥取県生まれ。小学校、中学校とバスケットボール部に所属していたが、姉の後を追って進学した米子東高校でボートを始めた。明治大学・同大大学院に進み活躍。リオデジャネイロ五輪では大石とのタッグを組み、軽量級女子ダブルススカルに出場。翌年のワールドカップは、シングルスカルの日本代表として初めて出場している。
榊原春奈は1994年、宮城県生まれの愛知県育ち。小学校の頃から高身長で、現在は183センチと体格に恵まれた。大石選手が「神様に恵まれたセンス」、冨田選手が「神様に恵まれた体力」なら、自身は「神様に恵まれた身長」だそうだ。地元の旭丘高でボートを始め、長い手足を生かした大きなストロークを武器に急成長、早稲田大学に進学し、技を磨いた。競技歴わずか3年で2012年ロンドン五輪に日本人初となるシングルスカルで出場を決めた。ニュージーランドへのボート留学を経て、2017年からトヨタ自動車に所属している。2018年のアジア大会シングルスカルは4位入賞、同年の全日本選手権大会では2位だった。
高島美晴は1997年、鳥取県生まれ。米子東高校でボートを始め、2年生で初の全国優勝。3年生ではカテゴリーを超えて、U23日本代表入りを果たすなど大物ルーキーとしての存在感を発揮している。明治大学に進学し、2017年はU23世界選手権女子軽量級シングルスカル9位、全日本大学選手権大会女子シングルスカル優勝など。2018年はアジア大会で瀧本日向子選手と軽量級ダブルスカルで4位となった。
世界の壁は高く 日本代表各選手の伸びしろに期待
日本では海外に比べて競技人口が少なく、選手育成も万全とは言えない状況だ。、それでも、2020年東京五輪までに、出場選手たちをしっかりと仕上げるためには、今後、不断の努力が求められそうだ。ただ、東西の大学にボート部があり、伝統的に対戦を繰り広げているところも多い。また、映画やドラマのシーンに登場することも多く、熱心なファンは多い。果たして日本代表は、こうしたファンの期待に応えられるのだろうか。まず、2019年の世界選手権で、なんとしてでも結果を出して出場枠を勝ち取ることだろう。